着信3 3 | PLUTO KISS

着信3 3

今度こそは確かに不時着はせずに着地できたが、本当に劇団サーカスノアに連れて来られてしまった。
恐らく裏口なのだろう、荷物や衣装、道具があちこちに散らばっている。
「早く早く!演目は俺との空中ブランコだよ!」
そう言ってウェノはいつの間にか黒のゴシックドレスに着替え、頭にミニハットまで被っていた。
よくみればメイクも既に完璧に終わっている。
「え・・・でも、僕やったこと・・・。」
「なくても大丈夫!お前スゲー身体能力いいみたいだし!あ、名前は?芸名あるから、このテントの中では俺のことダガーって呼べよ!」
「僕は・・・光。」
「光か。じゃあお前はとりあえずライトで。じゃあライト!着替えちまおうぜ!」
そう言って宝条の承諾を得ないまま、ウェノは宝条の服を剥ぎ取り白のゴシックドレスを着せられ、髪飾りにホワイトローズをつけられた。
2人で対になる衣装のようだ。
「おーいダガー。もうすぐお前の演目だぞ準備・・・あれ?そちらさんは始めてみる顔だけど・・・。」
「あ、うん!俺1人の空中ブランコなんてつまんないだろ?だから、2人にしてやったほうがいいと思って市街地に出てたらさ、凄い身体能力のいい奴がいてさ。だから連れてきた!」
「ふぅん・・・。お前が認めるなら大丈夫なんだろう。アンタも頑張れよ。そら、時間が押してる。2人とも、さっさと準備すませて舞台袖に行き。」
「「了解」」
2人は急いで舞台袖へと向かった。
「そういえばダガーってまだ幼いのに、劇団サーカスノアで働いているんだね・・・偉いね。」
「は?お前何言ってんだ?俺は26歳や。そういうお前こそ、餓鬼と違うんか?」
「・・・残念ながら僕も20歳なんだ。」
「・・・お互い成長せん身体は辛いな・・・。」
「ええ・・・。」
はぁ・・・。と、2人がっくり肩を落としたのと同時に2人の演目はスタートした。
梯子を登って遥か上空。観客が本当に蟻のようにしか見えない場所で、ブランコを掴んで立ちすくむ2人。
「たっけ・・・。」
完全に死語でこの高さに目がくらんでいる発言を零す宝条。
下の方でやけにカッコいいピエロが前置きを言い終わると、音楽が流れ始め、ウェノがブランコにぶら下がって宙へと弧を描いた。
「何やってんだ、早くしろ!」
ウェノからの声にはっとして、続いて宝条もブランコにぶら下がり、弧を描いて宙へと繰り出した。
『さぁ!うちの一番星と新しい仲間の華麗な演技をご覧あれ!』
ピエロの声が消えたのを合図に2人の演技は始まる。しかし、何をすればいいのかさっぱり分からない宝条は、ウェノに指示されてもなかなか意味を理解することが出来ず、始まってからずっと宙ぶらりん。
小声で「なんでもいい。早くしろ。俺がフォローする。」とウェノが急かすので、宝条は適当にやってみることにした。


「はー・・・疲れた。」
適当にやっただけだったが、結構好評だったようで、観客は満足していたようだった。
その代償に宝条の体力はかなり削られたようだが。
1人楽屋でぐったりとしていると楽屋に1人の劇団員が入ってきた。
「・・・・・・。」
「・・・。」
凄い綺麗な劇団員。男性のようだが、純白の衣装を美しく着こなし、顔に施されたブルーの涙のようなフェイスペイントが悲壮感を漂わせる。
お互い目を逸らすことなく、しばらく見入っていると、そこにウェノが入ってきてクスクス笑っていた。
「なんだよ2人して見詰め合って・・・『プルートゥ・キス』の練習?」
「べ・・・別に恋仲とかじゃないし!それじゃあホモじゃない!!」
「はぇ?」
ウェノからの言葉に必死に違うと訴える宝条。しかし宝条からの言葉にウェノは首をかしげている。
同じく、もう1人の劇団員も。
何か自分は間違ったことを言ったのだろうか?と、不思議そうに2人を交互に見る宝条に、もう1人の劇団員が説明してくれて、宝条はやっと意味に気付く。
「プルゥートゥ・キスとは、舞台の台本で過去に使っていたもので、死んでしまった旅人と、旅人と恋仲になった村娘の悲哀の物語さ。」
ああ、自分は意味を履き違えていたのだ。と、気がついた時には、穴に入って隠れたいと思い、なんともいえない表情で硬直してしまった。
「ダガー、これから劇のリハーサルを少し行ってから、9時の公演には間に合わせたいんだけど・・・今空いてる?空いているなら、ちょっと舞台準備を二軍の皆に指示してきて欲しいんだけど。」
「分かった。じゃあ俺はリハやんねーけど、アンタ主役だかんな。リハ頑張れよ。」
「ああ、じゃあよろしくな。」
そう言ってダガーが去っていくと、楽屋に残った劇団員はこちらに向って微笑んだ。
「全く・・・可愛い演目でしたよ?宝条。」
「え?なんで・・・。」
「気がつきませんでしたか?ルナですよ。」
いつものメイクと、降ろされた髪ではなかったので気がつかなかったが、よく見てみるとルナだ。
「ほ、本当にルナ?今日は参加するとか言っていたけど・・・演劇のほうで?」
「そう。僕は劇団サーカスノアの定期一軍役者でね。劇団サーカスノアの飛行艇がこうやって街に留まるときに参加するメンバーなんだ。劇団サーカスノアが飛行艇を停める街は必ず1人は定期一軍役者がいるよ。」
「へぇー・・・あ、クロノスさんも元劇団サーカスノアの一員って言ってたけど・・・じゃあ二人は知り合いとか?」
「クロノス・・・?ああ、いるよ、クロノスも。そこいるじゃん。」
指を指された方向へ顔を向けると、そこにはメイク道具や衣装、舞台道具など山積みにされた台。よくみれば、その道具の中に丁度等身大サイズの人形が幾つかあった。
精巧な作りで見ほれてしまう。でも、クロノスの姿は見えない。
なんとなく付近をキョロキョロと捜しつつ、その人形に近寄ったときだった。
人形の1つの目がカッと開いた。
「うぎゃぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「あはははははははははは!!!!ビックリー!騙されたァ!!」
驚いて後ろに倒れた宝条に人形は声を上げて笑いだした。なんとなく語尾がカタコトの喋り方。知っている喋り方に宝条ははっとする。
「・・・あ、あああまさかクロノスさん!?」
「ピンポーン☆大正解だョ!」
結構な時間この楽屋に居たというのに、クロノスさんの気配にも、演技にも気がつかなかった。
「・・・クロノスさんの気配にも気がつけないなんて・・・edge社員失格だ・・・。」
「大丈夫。気にすることないよ。じゃあルナ。メイクの時間だよ。」
クロノスはひょいっと飛び上がると、ルナを椅子に座らせて、壁を二度ノックする。すると、鏡の周りの壁がボコッと浮き上がり、幾つもの引き出しが飛び出してきた。中にはメイクに必要な道具や化粧品がぎっしりと詰まっている。
「はい。じゃあ始めるョ。宝条、君はここから出て左の廊下をまっすぐ行くとそこに舞台へ上がる奈落があル。その部屋の右隅に舞台袖に上がる階段があってネ。そこにダガーがいル。ダガーは準備しつつリハーサルの監督もやってるから、少し見てくるといいョ。」
「わかりました。」
流石にメイクの中何時までも居座るのは迷惑なので、早々に退席し、宝条は奈落へと向って歩き出した。
奈落へ向うまでの廊下はとても長くて一体いつになったら奈落へと辿りつくのやら・・・。半ばため息の混じりに歩いていると、少し開いている扉の前を通過していると、扉の向こうから怪しい声が聞こえた。
   「・・・で、・・・してる最中は・・・だろ?だから劇団員もいない・・・・・・て、わけさ。」
   「じゃあ早いとこ盗んでしまいましょ。」
「盗む」の単語が聞こえ、宝条は急いで室内へと入った。しかし、もう既に人の姿はなかった。
(・・・この劇団サーカスノアの何かが盗まれようとしている・・・!)
宝条は急いでこのことを劇団員に知らせようとしたが、丁度拍手が何処からか聞こえてきた。
どうやら、舞台が始まったようだ。
(しまった!もう舞台が始まったんだ・・・。この状況じゃ、クロノスさんにも、ルナさんにも知らせても身動きが取れない。)
ならば連絡先はもうあの人しかいない。
宝条は携帯を取り出し、「主任」のアイコンをプッシュした。
「・・・もしもし、四方さん。お時間大丈夫ですか?」
『はいはい。いいよ。今シエスタの最中でっす☆』
「あの、今劇団サーカスノアの舞台が始まって、僕も楽屋のほうにいるんですけど、劇団サーカスノアの中に盗人がいるようなんですが。ノアには何か貴重なものでもあるのでしょうか?出来れば今からソレを守り抜きたいと思って。」
『なるほど。じゃあ光、緊急任務だ。なんとしてでも阻止するんだ。いいかい?ノアの中には創設者が遺産として残した秘宝「アグゼリュス」と言う透明な結晶石がある。これはクロノスに聞いた話だが、それは劇団サーカスノアが移動している飛行艇の動力源であり、尚且つ世界中探してもなかなか見つからないものなんだ。アグゼリュスを見つけるのは命がけらしいからね。恐らく狙っているのはこれのはずだ。動力炉に向うんだ。』
「了解。」
宝条は携帯を切ると、すぐに動力炉へと向った。勿論この飛行艇劇場の構造なんて知らない。携帯のタッチパネルをリズムよく叩き、この飛行艇の壁へとくっつけると、携帯は触手を伸ばすように側面からプラグを出し、壁の中へと食い込んだ。
一見何をしているのか分からないかもしれないが、これは、壁の中へと伸びたプラグが壁の中に入り組んでいる配線の中を辿り、飛行艇のマップを作り上げているのだ。
電子音が響くと、画面上には即席マップが表示され、宝条はそれを頼りに動力炉へと向って走り出した。


動力炉へと向うと、ウェノが動力炉前で倒れていた。
「ウェノ!!」
「・・・ダガーって呼べって・・・言って・・・。」
「それよりどうして?!」
「盗人が、侵入してて・・・いきなり鈍器で後ろ殴られた・・・アグゼリュスを奪われて・・・そこの窓から逃げられた・・・。アレが無いと動力が持たない。舞台中の補助動力は何とかなるんだけど・・・飛行艇を動かせないよ・・・。」
「分かった。任せて。」
そう言って立ち上がり、追いかけようとした宝条をウェノは引き止める。
「待って!君じゃどうにかできるわけないだろう!」
「俺、これでもedgeの人間だから。」
「え?」
「任せておいて。」
社章を見せると、ウェノは驚いた様子でいた。外見からしてedgeのような会社に所属している人間には見えなかったのだろう。
ウェノの手の力が緩んだところで、そっとその腕を降ろさせて、宝条は逃げたという方向へ向って走り出した。
「・・・edge・・・。」
ウェノは何処か納得のいかない表情で走り去る宝条の後ろ姿を見送った。


「・・・いた!」
飛行艇の窓から出ると、民家の屋根を駆けて行く盗人の姿が見えた。宝条が追いかけると、1人が気がついたようで、前方にいる仲間に知らせる。
一斉にスピードを上げて逃走を図るが、宝条のスピードに追いつかれそうになる。
民家の屋根を越えた先には大型のビジネスホテルがあり、盗人たちはそこにあるパイプの上を駆け抜けると、最後の1人がパイプを切り離して宝条がこちらへこられないようにした。
「ちっ・・・。」
既にパイプに足をかけていた宝条はバランスを一瞬崩すが、体制を立て直し、崩れていくパイプの上を駆け抜けていく。あと少しで向こう側へ届きそうだ。と言うところで、宝条の身体はグラリと傾いた。
「・・・へ・・・。」
前方にいた盗人の1人が小型の銃で宝条の足と胸を打ち抜いたのだ。
力の入らない宝条の足は体制を立て直せず、そのままガクンッと折れるように崩れ落ち、宝条の身体も宙へと投げ出される。
盗人たちの歓喜の中、霞んでいく意識の中、宝条の中で誰かが呼びかける。

―――俺たちは、こんなもんじゃ終われないだろ?相棒。―――
            (ああ・・・そうだよ・・・終われない。この程度じゃ・・・終わらない!)
―――さぁ、相棒。俺の手を取って。―――
            (さぁ、僕の手を取って。)
―――俺は・・・・、―――
            (僕は・・・・、)


宙を落下していく宝条の身体は突然、ふわりと動きを止め、宙でそれ以上落下せず、浮いたままでいた。
突然の事態に盗人たちも唖然とした様子で宝条の様子をみていた。
くるりと回って上体を起した宝条の身体は顔を盗人たちへと向ける。すると、眼帯がちぎれて落ちた。
眼帯の外された双方の瞳はマムシのような獲物を逃がさないという意思に満ち溢れたものになっており、盗人たちは恐怖を覚えたが、最もぞっとしたことがあった。
いつも見せているほうの深緑の瞳とは対照的に・・・眼帯の下にあったのはドス黒い赤の瞳だった。
「・・・・・・俺から逃げられると思うなよ・・・。
一人称が「俺」に変わった宝条は、口元に若干の笑みを浮かべると、一気に加速して飛び上がった。