2個目の夢 2
「こちらです。」
そう言ってクリスさんに案内されたのは彼女の元ではなく、お客を接待するための客室。
豪華なテーブルにお菓子と紅茶が用意されていた。
俺たちが椅子に腰掛けたのを確認すると、すぐに紅茶の茶葉をポットに入れて、用意を始める。
手際がいいのはいいとは思うが・・・。
「・・・あの、彼女は・・・?」
「彼女、ですか。」
クリスさんは何処か悲しそうな表情で俯き、少し何か考えていたようだったが、すぐに笑顔に戻してこちらにやってくると、ティーカップに紅茶を注いだ。
「彼女は、ここにいますよ。」
「え?」
何処に?明らかに今テーブルを囲んでいるのは俺とシェリルとクリスさんだけ。
部屋の何処にも俺たち以外の姿は見えない。
「ふふっ。そんなに彼女に会ってみたいのですね。」
「だって・・・彼女が俺たちをわざわざ招待してくれたんだろう?」
「・・・では、彼女にご挨拶してくださいますか?彼女も大変喜ぶと思います。」
「勿論!」
そう返事を返すと、紅茶を淹れ終わったクリスさんは部屋の隅にあったカーテンを開いた。
しかし、それはカーテンではなく、天蓋だったようで、中にふわふわとしたクッションがいくらか見える。
「どうぞこちらへ。」
俺とシェリルはクリスが開けた天蓋の前まで向った。
「・・・彼女って・・・。」
天蓋の中を見て驚いた。
可愛らしい椅子に腰掛けていたのは、明らかに西洋人形。
でも、不思議なことに何かが伝わってくる。
この人形は・・・生きている。
「彼女の名前はアウラ。この世界の悪夢を生み出している張本人。」
「悪夢・・・?」
恐らく、そのことを効かなければ俺たちはまだ幸せだったのかもしれない。
「ええ。ここに呼び寄せられた者は、二度とこの世界から出ることが出来ないとされています。彼女、アウラの悪夢から抜け出せず、一生無限地獄を味わうのです。」
クリスが言い切ると同時にアウラが物凄い速さで天蓋の中ごと何処か遠くへと遠ざかっていく。
「ああ、彼女の悪夢が始まった・・・無限地獄がまた新たな犠牲を生み出す。」
俺たちの隣に残ってしまったクリスさん。
アウラと離れたとたんに彼の体に変化が起きていた。
整った綺麗な顔には、無数の青い刺青のようなものが広がり、それがまるで、花を咲かせているようになっていく。
肌の色は悪くなり、下唇に青色の口紅が塗られたようになった。
そして、綺麗な青とも緑ともいえない瞳に若干の黄色が混じった。
これは一体・・・?
「可哀想なクリス。貴方は天屍になってしまったのですね。」
シェリルがそう言った。
それが一体どういったことなのか分からなかったが、クリスさんは静かに頷いた。
「天屍って?」
「・・・天屍とは、私みたいな者のことです。UGに来て、彼女の悪夢に迷い込んでからずっと彷徨い続けている内に、生きることも死ぬこと許されない・・・表現が難しいですが、簡単に言うと、死んでも死ねない状態になってしまった者をUGでは天屍と呼びます。私は、もう彼女のそばにいないと、人型を保てないのです。」
「だから、こんな姿に?」
「ええ。彼女の力で、辛うじて私はここで生きながらえているのです。彼が来るのを待ち続けているのです。」
「彼?」
彼女だとか彼だとか。どうしてこう曖昧な表現ばかりするのだろう。
でも、彼って・・・?何故だろう、彼を俺は知っている気がする。
名前も姿も知らないのに、ただ、「彼」という言葉だけで。
「シン。とにかく今はこの悪夢から脱出することを考えないと、私たちはここから先に進むことは出来ませんし、このままでは彼女のおもちゃになってしまいますよ。」
「ああ、そうだな。・・・ほら、クリスさん。行こう。」
手を差し伸べる。
クリスさんはその手を不思議そうに見つめながら、恐る恐る俺の顔を見る。
「ありがとう。」
俺たちはクリスさんを率いて、彼女の悪夢の中を進んだ。
まず、最初に見つけた扉を開けると、そこは暖かな面影の残るお屋敷の一室。
影のような人影が楽しそうにしている。
父親と母親、そして小さな少女。
傍らには1人の執事が。
次の扉を開けると、父親と誰か客人が話しているようだ。
明かりもあまり頼りにならない室内でひそやかに。
「聞き取れないな・・・。」
「彼らはずっと昔の思いの香。今では聞き取れるわけもありません。ですが、マスターのためとあれば、ノイズを取り除いてみますが。」
「シェリル。どうして君はそんなことが出来るの?」
「私は神の化身ですから。」
なんだか納得いかない答えを返された。
『セーフティ解除。幻影雑音発動。』
やっぱり、この機械的な声を発しているときのシェリルは様子がおかしい。
・・・なんだろう、なんだか引っかかる。
1人そう考えていると、終わったのか、シェリルは正気に戻り、ノイズを取り除いた人影の声を再生した。
『どうして、あの子は・・・。』
『仕方ないですよ。貴方様は職務に追われ、奥様は奥様で社交期には夜会に。お断りすることもできませんし。』
『・・・全てあいつが悪いんだ。』
『まさか、また後始末を?』
『アウラのためだ・・・。』
「今のは・・・?」
「人影の父親と知り合いのやり取りの一部です。これ以上は拾いきれませんでした。」
「後始末って・・・何のことでしょうね・・・。」
クリスの言う通り、後始末とは一体何のことなのか。
これだけではよくわからない。
「かなり扉あるけれど・・・これ全部あけてみる?」
「全部・・・まぁ、そうですね。この悪夢と解くためのヒントにはなるでしょう。」
「それじゃあ次はこっち・・・。」
俺は足元にあった扉を開けてみた。
そこから滑り落ち、床に着地すると、今度は庭園。
庭園には執事の人影と少女の人影があった。
『お父様はね、ちっとも遊んでくれないの。』
『お仕事がお忙しいのですよ。お嬢様がもう少しいい子でお待ちになられていれば、きっと遊んでくださいますよ。』
『でも、お父様はいつもそう言って私をほったらかしているのよ。』
『では、お嬢様。私と遊びましょうか。』
『本当?!嬉しい!さ、私のお部屋で遊びましょう!―――!』
どうやらこの少女は父親には遊んでもらえていないようだ。
だからこの執事と遊んでいるときが幸せなのだろう。
次にシェリルが庭園の中にあった扉を開ける。
すると、母親が少女を叩いているシーンだった。
それを必死に止めようとする執事。
『どうしてちゃんとできないの!アウラ!!』
『ごめんなさい!ごめんなさい!!』
『奥様!何も打たなくても!!』
『貴方は黙っていなさい!アウラに気に入られて媚を売っているのか知りませんが、アウラの教育方針を貴方に曲げられては、我が家に泥を塗るも同然!!』
アウラ・・・そうか、この少女はアウラなんだ。
『お母様!お父様!やめて!!―――をいじめないで!』
刹那、俺の頭に少女の悲鳴が響いた。
同時にこのシーンに大きな亀裂が入って辺りは真っ暗になった。
そう言ってクリスさんに案内されたのは彼女の元ではなく、お客を接待するための客室。
豪華なテーブルにお菓子と紅茶が用意されていた。
俺たちが椅子に腰掛けたのを確認すると、すぐに紅茶の茶葉をポットに入れて、用意を始める。
手際がいいのはいいとは思うが・・・。
「・・・あの、彼女は・・・?」
「彼女、ですか。」
クリスさんは何処か悲しそうな表情で俯き、少し何か考えていたようだったが、すぐに笑顔に戻してこちらにやってくると、ティーカップに紅茶を注いだ。
「彼女は、ここにいますよ。」
「え?」
何処に?明らかに今テーブルを囲んでいるのは俺とシェリルとクリスさんだけ。
部屋の何処にも俺たち以外の姿は見えない。
「ふふっ。そんなに彼女に会ってみたいのですね。」
「だって・・・彼女が俺たちをわざわざ招待してくれたんだろう?」
「・・・では、彼女にご挨拶してくださいますか?彼女も大変喜ぶと思います。」
「勿論!」
そう返事を返すと、紅茶を淹れ終わったクリスさんは部屋の隅にあったカーテンを開いた。
しかし、それはカーテンではなく、天蓋だったようで、中にふわふわとしたクッションがいくらか見える。
「どうぞこちらへ。」
俺とシェリルはクリスが開けた天蓋の前まで向った。
「・・・彼女って・・・。」
天蓋の中を見て驚いた。
可愛らしい椅子に腰掛けていたのは、明らかに西洋人形。
でも、不思議なことに何かが伝わってくる。
この人形は・・・生きている。
「彼女の名前はアウラ。この世界の悪夢を生み出している張本人。」
「悪夢・・・?」
恐らく、そのことを効かなければ俺たちはまだ幸せだったのかもしれない。
「ええ。ここに呼び寄せられた者は、二度とこの世界から出ることが出来ないとされています。彼女、アウラの悪夢から抜け出せず、一生無限地獄を味わうのです。」
クリスが言い切ると同時にアウラが物凄い速さで天蓋の中ごと何処か遠くへと遠ざかっていく。
「ああ、彼女の悪夢が始まった・・・無限地獄がまた新たな犠牲を生み出す。」
俺たちの隣に残ってしまったクリスさん。
アウラと離れたとたんに彼の体に変化が起きていた。
整った綺麗な顔には、無数の青い刺青のようなものが広がり、それがまるで、花を咲かせているようになっていく。
肌の色は悪くなり、下唇に青色の口紅が塗られたようになった。
そして、綺麗な青とも緑ともいえない瞳に若干の黄色が混じった。
これは一体・・・?
「可哀想なクリス。貴方は天屍になってしまったのですね。」
シェリルがそう言った。
それが一体どういったことなのか分からなかったが、クリスさんは静かに頷いた。
「天屍って?」
「・・・天屍とは、私みたいな者のことです。UGに来て、彼女の悪夢に迷い込んでからずっと彷徨い続けている内に、生きることも死ぬこと許されない・・・表現が難しいですが、簡単に言うと、死んでも死ねない状態になってしまった者をUGでは天屍と呼びます。私は、もう彼女のそばにいないと、人型を保てないのです。」
「だから、こんな姿に?」
「ええ。彼女の力で、辛うじて私はここで生きながらえているのです。彼が来るのを待ち続けているのです。」
「彼?」
彼女だとか彼だとか。どうしてこう曖昧な表現ばかりするのだろう。
でも、彼って・・・?何故だろう、彼を俺は知っている気がする。
名前も姿も知らないのに、ただ、「彼」という言葉だけで。
「シン。とにかく今はこの悪夢から脱出することを考えないと、私たちはここから先に進むことは出来ませんし、このままでは彼女のおもちゃになってしまいますよ。」
「ああ、そうだな。・・・ほら、クリスさん。行こう。」
手を差し伸べる。
クリスさんはその手を不思議そうに見つめながら、恐る恐る俺の顔を見る。
「ありがとう。」
俺たちはクリスさんを率いて、彼女の悪夢の中を進んだ。
まず、最初に見つけた扉を開けると、そこは暖かな面影の残るお屋敷の一室。
影のような人影が楽しそうにしている。
父親と母親、そして小さな少女。
傍らには1人の執事が。
次の扉を開けると、父親と誰か客人が話しているようだ。
明かりもあまり頼りにならない室内でひそやかに。
「聞き取れないな・・・。」
「彼らはずっと昔の思いの香。今では聞き取れるわけもありません。ですが、マスターのためとあれば、ノイズを取り除いてみますが。」
「シェリル。どうして君はそんなことが出来るの?」
「私は神の化身ですから。」
なんだか納得いかない答えを返された。
『セーフティ解除。幻影雑音発動。』
やっぱり、この機械的な声を発しているときのシェリルは様子がおかしい。
・・・なんだろう、なんだか引っかかる。
1人そう考えていると、終わったのか、シェリルは正気に戻り、ノイズを取り除いた人影の声を再生した。
『どうして、あの子は・・・。』
『仕方ないですよ。貴方様は職務に追われ、奥様は奥様で社交期には夜会に。お断りすることもできませんし。』
『・・・全てあいつが悪いんだ。』
『まさか、また後始末を?』
『アウラのためだ・・・。』
「今のは・・・?」
「人影の父親と知り合いのやり取りの一部です。これ以上は拾いきれませんでした。」
「後始末って・・・何のことでしょうね・・・。」
クリスの言う通り、後始末とは一体何のことなのか。
これだけではよくわからない。
「かなり扉あるけれど・・・これ全部あけてみる?」
「全部・・・まぁ、そうですね。この悪夢と解くためのヒントにはなるでしょう。」
「それじゃあ次はこっち・・・。」
俺は足元にあった扉を開けてみた。
そこから滑り落ち、床に着地すると、今度は庭園。
庭園には執事の人影と少女の人影があった。
『お父様はね、ちっとも遊んでくれないの。』
『お仕事がお忙しいのですよ。お嬢様がもう少しいい子でお待ちになられていれば、きっと遊んでくださいますよ。』
『でも、お父様はいつもそう言って私をほったらかしているのよ。』
『では、お嬢様。私と遊びましょうか。』
『本当?!嬉しい!さ、私のお部屋で遊びましょう!―――!』
どうやらこの少女は父親には遊んでもらえていないようだ。
だからこの執事と遊んでいるときが幸せなのだろう。
次にシェリルが庭園の中にあった扉を開ける。
すると、母親が少女を叩いているシーンだった。
それを必死に止めようとする執事。
『どうしてちゃんとできないの!アウラ!!』
『ごめんなさい!ごめんなさい!!』
『奥様!何も打たなくても!!』
『貴方は黙っていなさい!アウラに気に入られて媚を売っているのか知りませんが、アウラの教育方針を貴方に曲げられては、我が家に泥を塗るも同然!!』
アウラ・・・そうか、この少女はアウラなんだ。
『お母様!お父様!やめて!!―――をいじめないで!』
刹那、俺の頭に少女の悲鳴が響いた。
同時にこのシーンに大きな亀裂が入って辺りは真っ暗になった。