神様、仏様、オバマ様?
金子 熊夫
(2009/03/11 電気新聞)
オバマ政権が始動して早くも1ヶ月半。滑り出し極めて快調で、ご同慶の至りである。とくに2月
24日の初の施政方針演説は就任演説よりも良い出来で、改めて彼の雄弁術には感心させられる。しかし、当然ながら、今後の実績が伴わなければ、いずれ看板倒れの批判は避けられない。
すでに選挙公約よりかなり後退している部分も随所に目立つ。外交面では、就任後16ヶ月以内にイラクからの全面撤退を唱えていたのが、来年末までに現在の14万人の大半を引き揚げるが、5万人は再来年末まで駐留させると軌道修正している。もし駐留が長引けば、それだけ金がかかり、さらにアフガニスタンへの増派となれば、自身の任期中の4年間で財政赤字1.5兆ドルを半減するとの公約の実現も覚束なくなる。
そうなると「グリーン・ニューディール」向けの資金配分にも響く。もしこの政策が実現しなければ、350万人の雇用創出も画餅に終わる。勿論、2020年までに温室効果ガスを1990年のレベルに、2050年までに80%削減という目標の達成も難しくなろう。
確かに施政方針演説では、エネルギー政策を優先課題の第一に挙げ、「再生可能エネルギーを制する国が21世紀をリードする」と喝破し、風力や太陽光発電でドイツや日本に奪われた主導権を取り戻すとの決意を述べた。その意気込みは大変結構だが、果たして「笛吹けど踊らず」に終わる惧れはないか。まだオバマ政権のエネルギー政策の全体像が明らかになっていないので、とやかく言うのは早計だが、もし彼が再生可能エネルギーだけで米国のエネルギー自立や雇用確保が可能と考えているとすれば極めて非現実的だ。
どう考えても原子力が不可欠なはずなのに、原子力には一言も触れていない。彼自身は元々原子力に理解があると思われるが、それをはっきり口に出せないのはやはり民主党内の雰囲気のせいだろう。既存の原発(シェアは約20%)の継続は仕方がないが、新増設は不要ということのようだ。
しかし、既存の104基の原発を運転し続ければ、当然使用済み燃料が増えるが、それを地層処分するためのヤッカマウンテン計画には否定的で、来年度予算案では大鉈を振るった。 地元ネヴァダ州の猛反対があるので止むを得ないのだろうが、さりとて別のサイトを見つけるのはさらに困難だ。行き詰った現状の打開策が容易に見つかるとは考えにくい。
他方ブッシュ時代に高まった「原子力ルネサンス」機運に乗って現在20基前後の新設許可申請が原子力規制委員会に提出されているが、経済不況と金融危機の中で電力会社が実際に新設に踏み切るには政府による債務保証が鍵となる。ところがその申請の審査自体が大幅に遅れているようだ。
というように、悲観的な材料を挙げればキリがないが、オバマ大統領が抜群の平衡感覚と説得力で見事手品師のように現状打開に成功し、かつてのルーズベルト大統領のような救世主になりうるのか。逆に手品に失敗し、単なる雄弁家、下手をすればペテン師の烙印を押されるのか。現在ワシントンに充満している過大すぎるほどの期待感が冷めたときが心配だ。取り越し苦労かもしれないが、今はただひそかに強運を祈るのみ。
翻って日本にとっても、こうした米国の状況は決して「対岸の火事」で済む話ではない。オバマ政権も、過去の政権と同様、国内問題の打開策として、必ず外国、とりわけ同盟国の協力を求めてくるだろう。ブッシュ政権のGNEP(世界原子力協力計画)に代わる新構想を打ち出してきたときに慌てないよう、足元を固めておくべきだ。そのためにも、当面、六ヶ所再処理工場の本格稼働、「もんじゅ」の再起動、プルサーマル計画の着実な実施が急務である。