内閣総理大臣 麻生 太郎 殿
拝啓
地球温暖化防止に向けて、ポスト京都議定書の国際的取り組みをいかに構築するかが目下世界各国共通の緊急課題になっております。近年わが国政府は、「クールアース50」の提案、洞爺湖G8サミットでの温室効果ガス50%削減に向けての合意取り付けなど、先進諸国の先頭に立って、指導的な役割を果たして来られましたが、貴総理以下政府当局者のこうした真摯なご努力に対して改めて敬意を表するものであります。
他方、中国、インドなど新興人口大国のエネルギー需要の激増、「ピーク・オイル」の到来等々の要因により、エネルギー資源の需給関係が世界的に逼迫しつつある現在、対策を怠ればやがて石油価格の再高騰を招き、世界経済が大混乱に陥るであろうことは衆目の一致するところであります。そうした状況の下、「無資源国・日本」が、21世紀において民族の生存と繁栄を全うするためには、エネルギー安全保障に最大限の注意を払うべきことは論ずるまでもありません。
このような基本認識に基づき、私どもは、2006年1月、当時の安倍総理宛に「原子力を軸とする国家エネルギー戦略の構築を急げ」と題する政策提言を提出し、さらに2007年10月、当時の福田総理宛に「日本は温室効果ガス排出量の削減と共に、エネルギー自給率の飛躍的向上を図るために、原子力拡大と新エネ開発を柱とする新たな国家エネルギー戦略を確立すべきである」との主旨の政策提言「『美しい星50』の実現に向けて」を提出した次第であります。(添付資料)
今般政府は、京都議定書以後の地球温暖化防止のため2020年の「中期目標」を例示され、広く国民の声を聞くため、パブリックコメントを求めるなどの努力をしておられることは高く評価されるべきものと存じます。
この機会に、私どもの意見を率直に申し述べ、政策決定上格別のご配慮を願いたく、別紙の通り提言いたします。
<政策提言の骨子>
「新・日本エネルギー政策」を次の諸点を基本に早急に構築し、総理自らの言葉で国民に強く語りかけていただきたい!
1.国情にあったエネルギーの選択!
- 最大限の原子力の活用と、自然エネルギーによる補完 -
2.国民の負担軽減が最優先!
3.省エネの推進と、新たな原子力エネルギー利用法の開発!
なお、この提言は、私ども志を同じくする67名により取りまとめ提出されるものであり、全員の氏名は別紙末尾に明記されております。
以上
2009年6月8日
提言者代表
金子 熊夫 エネルギー戦略研究会会長、EEE会議代表
竹内 哲夫 日本原子力学会シニア・ネットワーク連絡会会長
林 勉 エネルギー問題に発言する会 代表幹事
この政策提言に関するお問い合わせ等は下記にお願いいたします。
金子熊夫 kaneko@hyper.ocn.ne.jp
Tel/Fax: 03-3421-0210
(別紙)
<麻生内閣総理大臣あて政策提言>
長期的な「新・日本エネルギー政策」を早急に構築し、総理自らの言葉で国民に強く語りかけていただきたい!
国民の活力ある経済生活と、豊かな文明の維持には、安定したエネルギーの供給が欠かせないことは申すまでもありません。先ず、化石資源が限りあること、生産がピークを迎えていることを、総理自ら国民に率直に説明して頂きたいと思います。
資源のないわが国は、化石資源の海外依存を低減し、エネルギー自給率を大幅に改善するための基本戦略として、原子力を基幹電源とすることが国家戦略として選択されておりますが、残念ながら、原子力の社会受容性は未だに十分でなく、これが原子力発電所の稼働率向上の妨げの大きな要因となり、新規立地を阻んでいることはご高承の通りであります。
温室効果ガス(GHG)削減の「中期目標」の設定に当たり、国民の合意形成に努めておられることに敬意を表するところであります。この機会を活かして、「最大限の原子力活用こそが、地球温暖化対策の基本」であり、その上で自然エネルギーによる補完政策を推進するユニークで独自性を持った長期的「新・日本エネルギー政策」を策定し、これを国民に向けて説明するチャンスではないかと考えるものであります。
GHG削減の2020年目標は、長期的な「新・日本エネルギー政策」を基に、中間点における最善のシナリオとして立案すべきものであると考えます。それでこそ、諸外国から一貫性のある国家目標として評価されるものとなるでありましょう。
原子力によるエネルギーの安定的な確保が最優先の課題であることを、総理自らの言葉で国民に直接語りかけ、繰り返し訴えていただくことを切に願うものであります。
以下に私どもの考えを申し述べます。
1.国情にあったエネルギーの選択を!
- 最大限の原子力の活用と、自然エネルギーの補完 -
わが国は人口の割合に国土面積が狭く、急峻な山岳が大半を占め、遠浅で利用可能な海岸も少なく、安定した風力は乏しいという地勢条件であります。従って太陽光・風力発電の立地条件は欧米諸国と対比し不利であります。また、わが国の地勢に向いている水力発電の適地はほぼ開発され尽されています。
水力以外の自然エネルギーは本来的にエネルギー密度が低く、供給が安定していません。発電コストが高いうえ、安定供給のためのバックアップ電源を必要とします。
勿論自然エネルギーは出来る限り活用していかなければなりませんが、遺憾ながら所詮基幹電源とはなりえず、補完電源として利用すべきものであると考えます。
GHG削減計画においても、長期的「新・日本エネルギー政策」に基づき、わが国の国情に合ったエネルギー選択が重要であります。
基本戦略としては、非核兵器国として核燃料サイクルを世界から認められた唯一の原子力先進国の立場と、長年に亘って培ってきた実績を踏まえ、世界に率先して原子力平和利用を進め、近隣諸国との原子力利用・省エネ・環境技術の活用など、エネルギー互助関係を構築し、ひいては世界に貢献することが技術立国を標榜するわが国のとるべき道であると信じます。それには、二国間原子力協定の締結、核燃料サイクルに関する課題解決等、国としての強力な推進体制の確立が求められていることは申すまでもありません。
2.国民の負担軽減が最優先!
「食とエネルギーの確保」は人類生存の基本であり、人類はエネルギーの活用により高度な文明を築いてきました。60余年前エネルギー資源を断たれて戦った敗戦をはじめ、二度の石油危機、さらに昨年夏の原油価格の暴騰など、エネルギー価格高騰が国民生活に与えた厳しい影響は、官民等しく経験したところであります。従って、GHG削減対策に当たっては、国民負担ミニマムを狙った、エネルギー供給と価格の安定を政策の第一の柱とすることが基本であると考えます。
GHG削減計画の遂行は、国民の自主的参加を求めるべきものであって、徒に強制すべき性格のものではないと考えます。国の補助金制度、自然エネルギーの高額買取り制度等はあくまでも、技術開発によりエネルギーコストが低減する見通しに立ったものであるべきであり、不公平かつ不合理な負担を国民に強いるべきではないと考えます。
わが国は石油危機を克服した成果として、高度な省エネ技術を確立し、世界最高のエネルギー効率を達成しました。京都議定書の目標達成の不足を補うために、地球規模での効果が期待できないにも拘らず、日本だけが海外からの排出権買取りに莫大な資金を費やしている現実をみるとき、厳しい経済環境の中で、もはや過去のGDP大国ではなく、その振る舞いは納得しかねるところであります。
3.省エネの推進と 新たな原子力エネルギー利用法の開発を!
エネルギー資源の有限性を考えれば、省エネはエネルギー問題解決の基本であり、エネルギーのさらなる有効利用を図らない限り、文明社会を持続することはできません。
わが国は1970年代における二度の石油危機を契機に省エネ技術を開発し、実績を積みあげてきました。これを有効に活用すると共に、その努力を続けることが強く望まれます。一方、一般国民の欲望を抑制することは難しく、省エネでエネルギー需要が減るという予測には限度があると考えられます。
今後、2050年に向け大幅なGHG削減を達成するためには、原子力発電の拡大と共に、原子力の多目的利用を目指す必要があると考えます。例えば革新的製鉄、化学工業などに向けて、高温ガス炉の開発、原子力による水素の製造、小型原子炉の開発等々、新たな原子力利用法の開発が必要となるでしょう。開発の方向は明確であり、既にそのための技術は国内に蓄積されています。国家戦略としての研究開発の対象を誤らぬことが肝要であると考えます。
以上
2009年6月8日