幼いころラジオ番組「お父さんはお人よし」を夢中になって聞いた経験もあって、「おちょやん」は気になるドラマで、楽しんで見ました。

ただ、いくつか見過ごすわけにはいかん問題点も感じましたので、整理してみたいと思います。 

 

                                 

 

一番困ったのは、主演女優杉咲花の日本語の発音。彼女は東京出身で、苦労して大阪言葉をものにした点は評価します。通常のセリフは問題ないのですが、叫んだり、囁いたりしたときの言葉がまったく聞き取れんやったのです。記憶では浪速千栄子もかなりの早口でしたが、細部までよく聞き取れました。杉咲の発音に何か根本的な問題があるのではないかと思いました。

 

日本語は政治経済の中心だった奈良、京などの都を中心に形成、発達して来ました。日本語が子音と母音がしっかり結びつき、子音が単独で音節をつくることがないのは、この地域の言葉の特質を継承したものであるからです。 

 

                                   道頓堀界隈

 

ここで整理しておきたいのは、関西圏を中心とした地域の言葉は母音が豊かであり、その周辺はそれに準じ、関東、東北、九州などの遠く離れた地域は子音が優勢となる という点です。日本語は実は、地域によってかなり違うのです。東京出身の杉咲花の話す言葉は東日本の言葉がしっかり刻印されています。つまり時として、母音がおろそかになり脱落して、子音だけで発音する傾向があるということです。

 

例えば、機会は、関西人は ki ka i と発音しますが、東日本や九州では k?ka i ,つまり 声を出さず、息だけで きを発音しますし、~です は関西人は de su と 発音しますが、東日本や九州では de s になります。杉咲の絶叫やささやきが聞き取りにくいのは、子音優勢で母音の乏しい発音で大阪の言葉を話すので、視聴者の耳がいきなり白黒反転のようになってしまうからと考えられます。 

 

                                 

 

もう一つの原因としては現代日本語の発音の習性があります。英語などの外国語を習う時、アは 口を大きく開け、ウ や オ は 口をすぼめると 教科書に書いてありませんでしたか?当たり前すぎて見過ごされがちなのですが、その必要があるから書いてあるのです。つまり、現代の日本人が日本語を話す時、口を開けたり、すぼめたりせずに、平たい口のまま発音するからなのです。

 

平たい口の発音というのは、ほとんど エ の口の開け方で ア も オ も ウ も発音してしまうことを指します。以下 平口としますね。

私の住む九州は比較的近年まで二段活用が残ったので、例えば 捨つる を 発音する時、自然に口がすぼまったものです。ここでは 便宜上普通の ウ を u  ,平口の ウ を eu と表すことにします。

 

ここでまとめると、

① 関西の言葉は子音と母音がしっかり結びついた母音優勢であり、東日本や九州の言葉は母音がしばしば脱落する子音優勢である。
② 現代日本語の発音の習性が変わり、我々の知らぬ間に口を開かぬ平口の発音となった。

                                                             

 

昔、沖縄の若者が地域の言葉や文化を守り、積極的に発信していく姿を紹介したNHKの特集番組がありました。沖縄の言葉を方言とせず、島言葉と表現した点に製作者の良心を感じました。ナレーションをNHKの看板女性アナウンサーが担当しました。ただ、問題は その発音でした。うちなーんちゅの 発音とどうも違うのです。くとぅば を k eu  t eu  ba と発音したからです。

さらに く から 母音を脱落させた発音、つまり、 k  t  eu   ba とも発音しました。平口のまま 息だけで k を発音するわけです。NHKのアナウンサーの発音は悪い意味でも、全国の規範となります。その発音が基準になるということです。日々放送を通じて人々の耳に届き、無意識のうちに基準を改造してしまう。恐ろしい話です。




声を出さず、息だけで発音する、この意味が理解できん人が多かろうと思います。これは文学鑑賞と読解のみを目的とした日本の国語教育が根本的に間違うちょることを意味します。自分がどういう発音をし、どういう言葉を発しよるか 分からぬままに話しよるわけですから、、。

 

ここで杉咲花に話を戻しましょう。彼女も無自覚なまま現代日本語の話者となった一人です。聞き取りにくいという指摘を あるいは受けたかも知れませんが、どこに問題があるか理解できんでおると思います。俳優を志した以上、かなり厳しく発音練習をさせられたはずですが、NHKの作る基準が変わるに連れ、演劇界も変わったのでしょう。

                                        

                                              平口と言えば、この人