マクドナルドの異物混入事件が波紋を広げている。
確かに食品への異物混入は許せないが、ここまで大きく報道されていることに違和感を覚える。
「大きな健康被害が出ていないのに、どうして?」
今回、問題の傷口を広げたのには、大きく二つの要因があるように思う。
ひとつは、ゼロリスクを求める消費者心理と、それを煽るネットや報道の一部に過剰反応がみられることだ。
では、マクドナルド側には全く非はないのかというと、そうではない。
ふたつめの要因として、マクドナルドの苦情対応、特に現場での初期対応に不備があったと考えるべきだ。
たとえマニュアルどおりの謝罪をしたとしても、その結果、被害の当事者は納得していない。
まず一つ目の問題について分析しよう。
私は消費生活アドバイザーとして、様々な企業のお客様相談部門と交流があった。
そのなかには食品関係も多く、たくさんの工場に足を運び、現地の生産の様子を実際に観て来た。
たいていの工場では、人による目視検査はもちろん、X腺装置を使った検査などしっかりと行われていた。
また、工場内やそこで働く作業員の衛生管理も徹底されていた。
ある大手食品会社の担当者曰く、
「ここまでやっても、異物混入はゼロにはならないのですよ。」
そう、食品であるかぎり、虫も寄ってきてあたりまえ。
残念だが、いくら衛生管理を徹底しても、入っちゃうことはある。
私の知るかぎり、ニュースにはなっていないが、虫の混入は日常茶飯事。
は言いすぎだが、異物混入はさほど珍しいことではないらしい。
大手の食品会社でもゼロと公言できる企業はなさそうだ。
ただ言えることは、健康被害を起こすような異物は徹底して排除する努力をされているので、安心して良さそうだ。
食品を扱う企業には少なくとも、
「金属や毒物のような健康被害に直結するものは絶対入れない。」
このポイントだけはしっかりと押さえ続けて欲しい。
「食品なのだから衛生管理を徹底して、異物混入はゼロにしないと我慢ならない!」
いま、消費者や一部マスコミの論調には、このようなニュアンスが含まれるようだ。
これは大人の意見ではない。
現実的な意見ではないと言い換えてもよい。
闇雲にゼロリスクを追い求めることイコール「コストアップ」であることを今一度認識すべきだ。
行き過ぎた製造管理コストは商品の販売価格に跳ね返り、結局は消費者の不利益につながる。
風評被害により、その商品や企業自体が市場から消えてしまう恐れさえある。
マクドナルドで家族団らんの日曜日の光景などは、見ていて実に微笑ましいと思いませんか。
このまま、無くしてしまうには惜しい企業だと思いませんか。
一部のマスコミやネットに情報を流す個人に対しては、悪戯に消費者不安を煽るような情報発信はくれぐれも控えるようお願いしたい。
ただし企業側が、
「異物なんてゼロにはならない。入っていて当然。」
という姿勢は困る。
「異物混入を限りなくゼロに近づけるたゆまぬ努力を続ける。」
そんな企業であって欲しい。
二つ目の原因として挙げたマクドナルド側の消費者対応の不備について考えよう。
少々話は脱線するが、
私は以前、神戸のホテル内にある寿司店で異物混入に遭ったことがある。
お任せで頼んだ握り寿司に、白身魚にレモン塩の一品があり、勢いよくかぶりついた。
「ガリッ!!!」
っと大きな音がして、同時に叫ぶ。
「痛っ!!!」
治療中の歯が痛み、少し出血もみられた。
かみ締めた異物は5mm近い岩塩の塊だった。
目の前のカウンターで寿司を握っていた職人さんはビックリして平謝りに謝った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。・・・」
年配の職人さんだったが、こちらからみても気の毒なくらい、まさに平身低頭このうえない。
「今日の皆様のお支払いは結構です。治療費もお支払いします。」
その職人さんの謝罪の姿勢がとても真摯に感じられ、痛い思いをしたのも忘れ怒りはすっかり収まった。
もちろん御代は定額払い、
「美味しかったよ。これから気をつけてくださいね。また来ます。」
以上は日常ありがちな場面だが、皆さんも経験あるはずだ。
その場の謝罪の仕方が気に入らなければ、
「もうこの店には絶対来ない!」
ということになるし、
対応が良ければ、
「美味しかったからまた来ます。」
となるわけだ。
マクドナルドは個々の消費者に対応できていたのだろうか?
疑問に思う。
特に苦情対応で大切なのは、初期対応にある。
マニュアル通りに現場の店長が苦情対応をおこなったと聞いている。
しかしその結果、少なくともお客様には、
「ごめんなさい。」
の気持ちが伝わっていないから、いまの状況がある。
私はマクドナルドの苦情対応マニュアルを実際にみたわけではないので、その良し悪しは論じない。
店頭販売をマニュアル化し、良い意味で販売サービスの標準化を進めてきたマクドナルドのビジネスモデル自体は素晴らしいと思う。
だが、こと苦情対応の現場ではマニュアルだけでは乗り切れないようだ。
特に日本では「おもてなし」の気持ちを大切にする国民性も無視できない。
苦情対応とはお客様が怒った状態がスタートラインにあり、コミュニケーションスキルのなかでも最上級に難しいスキルが要求される。
ぶっちゃけて言えば、「修羅場」である。
苦情対応を行うのが店長であれば、そうとう高度なコミュニケーションスキルを身につけるよう研修体制を組む必要がある。
それが無理であれば、苦情対応マネジメントの専門チームを整備し、ことあれば現地に専門家が飛んでいける体制を構築すべきだ。
すくなくとも異物混入など重大事故発生時には、社を代表して謝罪&対応できるしかるべき担当者が不可欠だ。
今回の騒動で、マクドナルドの業績は大きく打撃を受けると推定する。
そろそろ、マクドナルドのマニュアル経営が曲がり角に来ているのかもしれない。
少なくとも、苦情対応マネジメントについては早急に整備すべきだ。
願わくば、マニュアル対応だけで済ませるのではなく、「おもてなし」の心が入るよう祈りたい。









