パンフレット冒頭に書かれている“絶望エンターテイメント”という言葉がピッタリの、絶望的な状況なのになぜか笑いが出てしまう、新感覚の映画を観ました‼︎

これは、全日本人が観るべき傑作だと思います‼︎
特に、昭和世代。
妻は夫を立てて3歩下がってついていく
稼いでくる夫はお殿様で主婦はお世話役
夫が多少無茶をしても女は黙って従うべし等々
そういう前時代的な慣習が当たり前のようなカルチャーと、そこから産まれる綻びを、
こうやって客観的かつ事細かにリアルに表現した作品がいまだかつてあったでしょうか?

女性(妻)は我慢に我慢を重ねて家庭を維持し
男性(夫•舅)はまるで幼い子供のように妻に甘える。
甘える形も色々あって、”男だから偉い、男にはそういう時もある、男が頭を下げるのだから言うことを聞いてもらえるはず、男だからetc etc”

そして女性(妻)は、理不尽さや怒りを感じながらも
表面上は取り繕ってその場をやり過ごす。
(思春期の息子と介護が必要な舅を押し付けて失踪した夫が突然帰宅しても、つい給仕やベッドメイキングをしてしまう等)
その事が夫をさらに助長させ、改心する機会を奪うようにも見える。(諦めているだけなのかもしれないが)

夫の親に仕え、夫に仕え、おまけに息子(および腹にイチモツありそうな彼女)にもいいように扱われて、キレそうになるものの、やっぱり我慢や妥協をしてしまう。

遠回し•婉曲的•妄想として表現される殺意は
舅に対してはうっすらと、夫に対しては激しく表現されていました。(息子に対してはそういうシーンはみられませんでした)

現実の生活では大爆発することはなく、新興宗教や職場の仲間に愚痴を言うことで、なんとかバランスを取ろうとする主人公。夫が家にいると、眉間にキツく皺を寄せたり新興宗教の祭壇にお祈りしたり、なるべく会話を避けることによってやり過ごそうとする。庭に作った枯山水を手入れすることをルーチンにして、家庭に存在している理由を探そうとしているようだった。家庭にいる時の主人公は、ほとんど無表情か嫌悪の表情をしていて全く楽しい表情を見せないのだから。

一方で、新興宗教の道場やパート先、パート先の同僚と一緒にいる時には柔らかい表情や明るい笑顔を見せる。

この、表情による演技があまりに見事で、
異様なリアルさを感じました。

同時に、夫は常に緩んだ顔をしていて、妻がどれだけ我慢をしているのかなど全く気づきもしていない様子。
そこもまたリアルでした。

自分の家庭の中で自分の置かれた状況に対しては
我慢に我慢を重ねて
それが当たり前になってしまっている主人公でしたが
パート先の同僚が置かれた理不尽な状況を目撃して
そこでは感情を激しく表出させます。

自分のことには感情を表出しないのに
他者に対してはそこまで思いやりを持ち
良い状況になるよう手助けをしてあげることができる。

その出来事をきっかけに、
主人公は“丸く”なる。
かつて無責任に家庭を捨てた夫に対しても
ある意味では丸くなったが
心からの許しではなさそうな雰囲気。

夫は、妻の表面上の態度の軟化の隙をついて
(あるいは、許してもらえたんだと都合よく解釈して?)
スキンシップをはかろうとしてきたりする。
そういう浅はかな部分もまた異様なほどリアル。

そんな夫が、あれ?妻はオレを許してなんかいないのかもしれない、と、ようやく気づくのは
息子がなんの気なしに見せてくれた昔のアルバムを見た時。

そこには、若かりし日の妻の満面の笑みが映った写真が。

“妻の、心からの笑顔を何年も見ていない。”
“妻の笑顔を奪ったのは自分だ。”
“同じ家に住んでいる、現在の妻の表情の意味とは、、”

そんなことを思ったかどうかわからないけれど
出奔後に突然戻った後の妻の表情と
昔の妻の満面の笑みのギャップが
夫にとってのターニングポイントになったように感じました。

「俺、さっさと死ぬわ」と言う夫
え?と聞き返した息子に真意を言ったのか言わなかったのか。それは1回観ただけではよく分かりませんでした。

何より、夫は妻にちゃんと謝罪したのか?
映画の中では、心からの謝罪シーンのようなものは無かったと思いました。
むしろ、舅の介護をして看取った時の遺言で
妻が相続をしているため、
“お前の方が俺よりも良い目をみてるじゃないか?”
という
心の声が聞こえてきそうな夫の態度が秀逸でした。

くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる

妻は、家庭外の他者との関わりの中で本来の自分を再発見し
夫は、家庭内に引きこもり、胸のうちを妻に明かさないままこの世を去る。

夫がこの世を去ったら、以前はあんなに慎重に手入れをしていた枯山水が乱れることがどうでも良くなり、
解放された事実を噛み締めていく主人公。

あの枯山水は、この家に自分がいることの意味を
なんとか作り出し、表面上は安寧な生活に自分を繋ぎ止めていくために必要な装置だったんだなと思いました。

最後、息子が旅立っていくシーンで
思いやりのある言葉をかけてくれたことに
大きな救いを感じました。

主人公夫婦をはじめ、キムラ緑子さん、江口のりこさん、平岩紙さん、ムロツヨシさんなど
実力派俳優がズラッと揃っていて、
とってもオススメの映画です‼︎