インド洋を渡ったUボートがその先でもたらしたドラマ | El Despacho Desordenado ~散らかった事務室より~

El Despacho Desordenado ~散らかった事務室より~

2015年1月4日から「Diario de Libros」より改名しました。
メインは本の紹介、あとその他諸々というごっちゃな内容です。
2016年4月13日にタイトル訂正。事務机じゃなくて「事務室」です(泣)。

『日の丸を掲げたUボート』なる書題を見ると、「ドイツ潜水艦がなぜ日本の旗を?」となってしまうのではないでしょうか。このブログで一番読まれている記事でも取り上げた、呂500と日本で呼ばれることになるU511以外にも、一隻ならぬUボートとその乗組員が日本やその占領地に到達していたのです。

 

本書を概観すれば、遠くドイツから大西洋、喜望峰を回ってインド洋を渡りやってきたUボートが意外に多かったことに驚かされます。節を立て詳細に取り上げられているだけでも5隻。そしてどの艦も波乱万丈を経験しています。

 

最初に日本に渡ったUボート、U511がもたらした影響、遺産の中には戦後日本を支えるものもありました。ドイツから日本に向かう時に積んだ積み荷に加わっていた射出成形機が戦後日本のプラスチック産業の基礎になったとは驚きです。

U862は大戦末期にオーストラリア沿岸部をただ一隻で暴れ回り、その大遠征はUボート史全体から見ても偉業と言えるものでした。この間たまたま見たCSのある番組でも取り上げられていましたね。

後世の冷静な視点で細かく検証していくと伝説が単なる伝説だった判明する一方で致命的な失敗の原因も浮かび上がります。U168は現地女性に紛れ込んでいたスパイから情報が洩れて沈んだのかと思いきや日本側の防諜能力の低さが有力な原因として浮かび上がったり。良かれと思って細かい航路を関係各所に通達したのが原因で、というのが一度や二度ではないという所に学習能力の無さを感じてため息が出ます。

 

乗員など関係者ひとり一人のレベルまで細かく見ると、実に多くのドラマがあったことが分かります。戦争といったどれだけ大きな出来事も、当事者の数と同じだけ事実というか物語というかがあるわけですが、そのうねりの大きさに驚かされ、圧倒されます。

 

最後にはインタビューを二つ掲載。ひとりは呂500の元乗組員、もう一人は海中ロボットを活用した海洋探索で呂500はじめとする艦船を発見した「ラ・プロンジェ深海工学会」代表理事・浦環氏です。海底資源探索や事故沈没船の早急な引き揚げといった応用分野の広さに感心しました。海底に眠る過去を探る試みが未来を支える可能性はもっと広く知られるべきでしょう。

 

 

Inquebrantable

(不撓)

 

 

『日の丸を掲げたUボート』

内田弘樹

イカロス出版

高さ:21cm 幅:15.2cm(カバー参考)

厚さ:1.4cm

重さ:336g

ページ数:226

本文の文字の大きさ:3mm