半世紀もにらむ鷹の眼 | El Despacho Desordenado ~散らかった事務室より~

El Despacho Desordenado ~散らかった事務室より~

2015年1月4日から「Diario de Libros」より改名しました。
メインは本の紹介、あとその他諸々というごっちゃな内容です。
2016年4月13日にタイトル訂正。事務机じゃなくて「事務室」です(泣)。

安全保障関係のニュースに出てくるアメリカ軍空母に並ぶ鋭い戦闘機に混じる、なんかでかい皿のようなものを背中に取り付けたプロペラ機に目を留めたことはありますでしょうか? 一般的な飛行機ともシルエットが違うあの飛行機こそ、今日紹介する『世界の名機シリーズ E-2 ホークアイ』の主役です。

早期警戒機とはその名の通り敵の飛行機や船が来た時に備えて警戒し、来たときには迎撃に向かう味方に指示を与える機種です。E-2ホークアイは空母から離着艦できる早期警戒機の一種で、上にのっけている皿のようなアレの中身は高性能のレーダーです。敵に正面から立ち向かう戦闘機と比べると地味ですが、前線指揮官役がいるといないとじゃ大違い。こういった直接作戦を行う戦闘機や爆撃機などを「支援して作戦の効果や効率を向上」(p.18)させる機種(というより戦術上の要素)を広くフォース・マルチプライヤーと言います。

レーダーを飛行機に積んで敵をいち早く探知して優位に立とうとする早期警戒(Airborne Early Warning, AEW)の概念はレーダー発明からすぐ出てきましたが、艦上機ほどの小型機に積もうとなると技術的困難がありました。しかし末期の日本軍が送り込んだカミカゼへの対策のため開発は加速しています。結局間に合わなかったものの米海軍早期警戒機の系譜は途切れることはなく、1960年に試作機が初飛行したE-2ホークアイにつながります。こうした開発の過程や背景も本書で簡潔に解説されています。

上述のように半世紀以上も前の設計ですが、現在の型はレーダーの性能がケタ違いに高まっていて数字だけ見ればもはや別種。本書では各型や各国での運用の解説も簡潔にまとめられています。メキシコ海軍が取得、使用していた(ネットを見ると2009年に退役した由)のは麻薬密輸機を捜索するため。現代の軍用レーダー開発はステルス機との戦いですが、密輸に使う飛行機なんて本当に小さいでしょうから大いに役立ったでしょうね。アメリカの沿岸警備隊も一時海軍から借りて同じように運用していたとか。
ハリケーン「カトリーナ」がアメリカを襲ったあと、壊滅した地上施設に代わって交通管制していたのには驚きました。「大規模なヘリコプター救助隊を管制して、スムーズな人命救助に貢献」(p.72)したそうで、モノは使いようの好例です。

そんなホークアイの泣き所は、乗員脱出のしにくさ。一目でわかる通り、ふつうの戦闘機のように座席を射出できません。脱出経路はマニュアルに示されているもののひとたび事故が起これば乗員全員死亡の大惨事がほとんどです。そんな中、コクピットの背後で火災が発生したある事故では、電気系統が失われた状態で「副操縦士がコンパスと懐中電灯と鉛筆で」(p.68)着艦までの情報を割り出しています。最新の電子機器に囲まれていようとも、最後に頼れるのは人間なのですねぇ。軍事機密の塊であるホークアイの任務内容は謎に包まれていますが、こういったベテランの体験談をもとに運用の実態に迫る記事は必読です。

見開き2ページを割いて世界の早期警戒機についても紹介。ブラジルのエンブラエルのリージョナル旅客機をベースにしたものもあるとは意外でした。中国のも紹介されていますが、ホークアイにとてもよく似ている(婉曲語法)開発中のKJ-600はありません。まぁ艦上早期警戒機の理想を求めるとどうしても似るくらいホークアイの設計が完成されている証でもありますが、進捗次第では今後出るだろう改訂版に比較のため載る、かもしれません。


Sin embargo, el aspecto electrónico no funcionó adecuadamente y los aviones Grumman E2C Hawkeye fueron dados de baja en el 2009.
(しかしながら、電子面で適切に機能せず、グラマンE2Cホークアイは2009年に退役した。)


『世界の名機シリーズ E-2 ホークアイ』
イカロス出版
高さ:25.7cm 幅:21.2cm(カバー参考)
厚さ:0.6cm
重さ:330g
ページ数:80
本文の文字の大きさ:不定(最小2mm)