今月初め、さあ、待ちに待った新月近く。天気図とにらめっこで、

どうにか夜半ごろまでは晴れそうなところが・・・・・・福島県の三株山

といって、私も行ったことがない未体験ゾーン。まあ、新観測地開拓

という感じで行ってまいりますか。とにかく、常磐高速を走りに走って

どんづまり近く、いわき湯本で降りて、そのあとまた下道を延々走る

のでございます。でもどうにか明るいうちに到着。

ちょうど、車も止められてちょっと広くなっている。何やらこんなところに

割りばしを入れる袋などが散乱していたのは気になったが、まあ他に

良い場所も見つからないのでここに決め!

ここから山頂までは徒歩で20分くらい。さて、まだ明るいうちに散策だ。車を置いて山頂を目指す。

まず、山頂に祠。中に空き缶などを入れる不届きものがいたので、さっそく排除。

(まさか、あの空き缶がご本尊だった、なんてことはあるまいな。)でしっかり拝んで、と。

そして祠の後ろには展望台があるのだった。

これが展望台からの夕景。凄いパノラマの世界。周りがすべて見渡せる。

さあ、下に戻って望遠鏡の組み立て開始。しかし本当に景色いいなぁ。ここ。

ああ、日が沈む。

月と金星。地平線の夕焼けも綺麗だなぁ。

ところが・・・・・

こんな辺鄙なところに車が上がってくる。もうかれこれ、ここに2時間も

いるのに、人に出会うのは初めてだ。案の定、彼も星屋だった。

しかし・・・・「観望派の方ですか。」というので「はい、バリバリの観望派です。

ところであなたはもしかしたら天体写真派?」彼は「しまった!」という顔を

して「はい、天体写真を撮るつもりです。仲間も来ます。いつもここで写真を

撮っている地元民です。」とのことだった。

 

これは、大変にまずい状況になった、と思った。

はっきり言って、私は天体写真派が嫌いだ。(きっぱり。)

僕たち観望派は、とにかく星を見るのが大好きで、夜空にある無数の星雲

星団を観望し、その造形の美しさを楽しんだり宇宙ごとの生成だの

最後だのに思いを巡らし堪能する。まあ、はるか遠い、巨大な世界の事

に思いを馳せる、というのかな。例えば、アンドロメダ大星雲を望遠鏡で

眺めながら、「ああ、この太陽のような恒星を2000億も従えている系外宇宙

が、5億年後には、わが天の川銀河系と衝突するのだ。(本当)」とか、考える

のだ。また、「ああ、この眼下に見える系外宇宙には、いったいいくつの生命が

存在しているのだろう。きっと髭を生やした変なオヤジもいて、酒を飲みながら

こっちを見ているかもしれない。」とか思うわけです。

 

だけど、天体写真派は、(まあ例外もいるが)まず星等見ない。ただ黙々と

写真だけ撮って帰っていく。その間、こちらがちょっとでも明かりを灯すようなことを

すれば大変だ。「写真が撮れないだろう!ライト消せ!」と怒鳴り散らしたりする。

天文の世界では「天体写真コンテスト」なるものが存在し、どうも、そこの

常連さんになるのが、彼らの至高の目的である様なのだ。

まあ、それも「蓼食う虫も好き好き」 別にどうでもよいのだが、最近、天体

写真を撮るのに、やれ冷却CCDを使う、とか、パソコン不可欠とか、わけの

わからないことを言い出して、彼らは大量の電気を使うようになったのだ。

そして、彼らはなんと、静かな夜の山で堂々と「発電機」を使うようになってきた

のだ。祭りの喧騒の中でも夜店の「発電機」のうるさい音は耳障りなのに、

あの夜の山の静寂の中で「発電機」を使うのは私に言わせれば狂気の沙汰だ。

それに発電機は車のエンジンのような「触媒」を使う規制がないため、汚いまま

の排気ガスがそのまま出てくる。これが臭い。いや、本当に臭いのだ。

 

で、私たち観望派は彼らから逃げるように、誰も来ない山を探すようになった。

今回は、彼らの縄張りに私が足を踏み込んだようなのだった。けど、もう巨大

望遠鏡は組み立て調整が終わってしまっていて今更撤去不可である。

 

まあ、飯でも食うか。で、まだ午後6時だし、月明かりもあったので、「彼らもまだ天体写真を撮ったりはしないだろう。」と車のルームランプを灯して、全力で食事を作ってかっこんだ。(いつもはゆっくり食べるのだが。)

さて、6時半になり、食事を終えて、ルームランプを消すと・・・・・

「その明かり、明るすぎますよ!赤いLEDなら、まだ許せるんですけど、白いのは撮影の邪魔になるのでご遠慮願えますか!」と早速言ってきた。

さすがにかっとなって「あなた方は、月明かりがあるこの6時から、もう天体写真を撮り始めているのですか?」と言い返してしまいましたぜ。

言い返されると思ってもみなかったのか、ちょっとしどろもどろに「いや、写真は撮ってませんが、設定に北極星を入れるのに、明かりが邪魔で。」

知らんがな。そんなこと。たぶん、いつもの自分の縄張りに入り込まれているのが気にくわないのだろうな。

私はそのあと、かなり彼らの気を使ってほとんど明かりをつけずに観望をしまくった。しかしその「赤いランプなら許す」と言っていた彼は、撮影の合間には堂々と「白いLEDヘッドランプ」をつけまくっておりました。そして、なんと数メートルしか離れていないのに、いきなり大音量でラジオをつけ始めたのだった。なぜ、一言、「ラジオをつけていいですか?」と聞けないのだろう。こいつらは「発電機」こそ持ってきてなかったけど、平気で発電機を使いはじめるのに、そう時間はかからないだろうな。彼らの思考回路には、「他人」というは入っていないんだろうね。ちょっとは人の気持ちがわかってくれるか、と思って、私もラジオをつけてみたのだが、まあ、無理だろうなあ。で、夜半になって、雲が広がり、彼らは帰って行った。山には静寂が戻ってきた。

 

で、私は、今回のもう一つの仕事を・・・・・実はローカル某所から取材があり、最後にこう頼まれたのだ。「で、塾長が実際に星を観望している写真とか、ありますか?」そんな写真を撮ったこともなかったので、ついでに撮って来ようと思ったのだった。で、ぶくぶく太って見えるけど、これは防寒具のせいだと思いたい。

自宅の天文台で撮ったのがこれ。これだと痩せて見えるでしょ?

続く