「どうしました?」
こんな極寒の山中に、夜わざわざやってくる人。
それは、もう、通常は考えられない。極めて特殊な人々しか頭に浮かばない。
そう、ご同業の「ホシミスト=星屋」である。
「いや~ハマっちゃって。すみませんが、牽引してくれます?」
というわけで、僕の牽引ロープと彼の牽引ロープを合わせて、できるだけ
安全そうな遠隔から(そう、4WDサルガッソの外から)車を引いてもらったのだ。
無事、脱出。ああ、地獄に仏とはこのことだった。
「あれ?この望遠鏡。どこかで見たなぁ。え?千葉の柏から?
俺、ずっと前にあなたにこの望遠鏡を覗かせてもらったことがありますよ。」
情けは人のためならず、である。
で、消耗しきっていたが、この満天の星空で寝たり帰ったりする選択肢
はない。最後の力を振り絞って、重さ100キロもある巨大望遠鏡を
組み上げた。
すると・・・・・空にわかにかき曇り、なんと雪まで降ってきた。
星は・・・・・あれだけ満天に煌めいていた星は全く見えない。
まるで悪い冗談だった。僕が望遠鏡を組み上げるのを待っていて
「フフフッ」と雪降のスイッチを「ON」にしてくれた方が居たような気がした。
助けてくれた彼も「この空じゃしょうがない」と帰っていった。
さて、ひとり山に残された私は、天を仰いだ。ううううう。
しかし・・・・・
望遠鏡の覆いカバー、光よけの黒いフェルト布を見てみると・・・・
なんと、降ってきた雪が積もっている。それも、結晶のまま。
帰ってしまった彼は気温計を持っていて「マイナス14度」と言っていたっけ。
この温度だと、雪は溶けることなく結晶のまま落ちてくるのだ。
とりあえず、ヘッドライトで照明にして撮影。
ほぼマクロ専門カメラで大写し。これ1つ2~3ミリ。私は星屋ではあるが
本来は生物系の人間だから、常にマクロカメラは持ち歩いているのだ。
しかし、なんでこんなにシンメトリーで美しいのだろう。こんなに美しい物が
本当に自然にできたのだろうか。この世は美しい物だらけだなぁ。
星は見えなかったけど、こんなに美しいものが見えたから、まあ、良かった
としよう。
で、やけ酒を飲んで車中で寝たのであった。
で、朝。こんな感じのところで一泊しました。
向こうにある車は、朝登山に来た人の車。好きものだなぁ。
人のことは言えないけど。
食べ残したモツ鍋が完全に凍っている。高い塩分濃度の
はずなのに。
保冷ボックスに入れておいたトマトジュースをマグカップに注いた。
保冷ボックスの中のほうが暖かく、中の物は凍っていなかったのだ
が・・・・車中においておいたマグカップについだ途端、いきなり
シャーベットになった。過冷却現象だ。これ、動画にして生徒に
見せてやりたかったね。しかし・・・・車中はいったい何度だったのだろう。
その中で爆睡していた僕も凄いね。
星も見られず、生きた心地もしなかった雪山行きだったけど、
まあ、綺麗な結晶見られたしね。これもたぶん雪山でしか
見られないものだしね。生きて帰れたし良かった良かった。
考えようによっては・・・・今日も良い1日だったね。
終了