辰巳芸者のお恵ねぇさんがやって来たのは、水戸の御老公のお供の奴が印籠を出して見得を切ってる時だった。


「あれ、なんだい御老公昔印籠出してるお供じゃないかい?」

「ねぇさん、お座敷は?」

「今日日、お座敷遊びするお大尽なんかいやしないよ、親父さん、一本つけておくんない」

「へぇ、つまみはこんなのどうです。舞茸のチーズ焼き」





「美味しいねぇ、舞茸のシャキシャキ感がたまらないねぇ」

「酒に合うでしょ」

「先に福田町の棟梁が来て仕事がねえなんてぼやいていたっけ、本当に不景気だね」

「うちも暇ですねぇ」

「親父さん、もう一本、それと中落ちカルビ焼いておくんない」






「お待ち」

「しかし、なんだね。お座敷あがんのは世間を騒がしてる政治家ばかりで、これから先日本はどうなっちまうのかね?」

「時でぇですよ、バブルのつけが回ってきちまった」


嫌だ、嫌だと酒を二本呑んでけぇって行った。
今の日本は腐っちまってる。
嫌な客にゃ酒をぶっかける粋なねぇさんのままでいておくんない。

今夜も冷えやがる、ひとりごちて暖簾に手をかける。





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向島の健さんがけぇって来たのはサスペンス劇場で殺人犯の女が北岬で身を投げるとこを目のでけぇ女が引き止めてる時だった


「てぇ将、懐かしいの。したっけ、人を殺めておいててめぇで死のうなんて勝手な女だの」

「健さん、いつ出てきたんで」


「先一昨日よ。なんだかんだで組うちの挨拶があったんでの」

「元気そうで」

「中じゃ、てぇ将の料理食いてぇって飯のたんび思っててたぜ」

「ありがとうござい、一本つけやしょう」

「奴に熱いゴマ油かけたやつ、おくんねぇ」

「へぇ」






「うめぇな、ゴマの香りが何とも言えねぇ」

「ご苦労様でした」

「よせよ、てぇ将泣くこたぁねぇだろ」

「こんなのどうですか?卵の包煮」






「うめぇ!」


健さんは酒を三本呑んで、またくらぁってけぇって行った。年とってからの懲役は大分に苦労したにちげえねぇ。
簡単な料理をうめぇ、うめぇって。
ひとまわり小さくなった後ろ姿にオイラはつぶやいた。

「わけぇ頃と同じで健さんは粋な男だぜ」

めっきり冷えこんできやがった、ひとりごちて暖簾に手をかける。






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ギョッと思ったら、オイラの部屋でいい女がウイスキーを呑んでたぜ。
なんでぇ、夢か。
いけねぇ、今日も二日酔いだぜ。