「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」
95分 日 2002年
監督 原恵一
製作 茂木仁史 太田賢司 生田英隆
原作 臼井儀人
脚本 原恵一
音楽 荒川敏行 浜口史郎
撮影 梅田俊之
出演 矢島晶子 ならはしみき 藤原啓治 こおろぎさとみ
屋良有作 小林愛 緒方賢一 羽佐間道夫 ほか
【完全ネタバレ】
「金打(きんちょう)・・・。」☆☆☆☆☆
〔ストーリー〕
しんのすけは家の庭で妙な古い手紙を見つける。しかも、その手紙を書いたのは他ならぬしんのすけ本人。
しかも、知らぬ間に戦国時代へとタイムスリップしてしまう。
しんのすけは、ひょんなことから偶然出会ったかっこいい侍、井尻又兵衛由俊を助けて・・・。
記念すべき「クレヨンしんちゃん」劇場映画シリーズ第10作目。
原恵一、絵コンテ・脚本・監督作品。
タイムトラベルを扱ったSFながら時代劇や恋愛ドラマとしても素晴らしく、また時の流れ、そのきらめきや無常さを抒情的に描出している今作品は、おそらくシリーズで最も人気を集める一本。
僕は傑作と有名なこの映画を観て「クレヨンしんちゃん」にハマってしまい、劇場版を一作目から観ることになってしまった。
「クレヨンしんちゃん」の漫画もアニメも観たことがなかったんだけど、今TV版もコツコツと観ていてすっかり「クレしん」ファンになった(笑)
感想を書くため見返してみたら、今だからわかる事が結構ある。
泉のほとりに解語の花。
そこはかと無いソフトなフェロモンを出す美人のおねーさん、春日 廉(かすが れん)が青空を見上げる。
おおどかながら戦をさせたら鬼と恐れられる、井尻 又兵衛由俊(いじり またべえ よしとし)の無事を祈りながら・・・。
前作「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲(2001)」でもあったけど、蝶々がひらひら舞うショットが随所にある。
「胡蝶の夢」の引用なのかわからないけど、背景を見せるようなショットに蝶が舞うようなちょっとした動きがあると印象が全然違うのだと思う。
こういう細やかさがこの映画の素晴らしいところのひとつ。
そして、青空と夕日が印象的な今作品だけど、「しんちゃん」らしいギャグも少なくないから好き。
天正2年(1574年)にタイムスリップしたしんちゃんを追って、タイムマシーンの役割をする家の庭へ自動車を進める野原一家。
その際、物干しスタンドが倒れ、しんちゃんの愛犬・シロの家にひびが入る。
それを見て泣くシロの表情が笑える(笑)
野伏せり達に囲まれた廉(れん)姫をお助けしようとしんちゃんが茂みから飛び出す際、アレンジされたアクション仮面のテーマが流れたり、まさおくんにそっくりな少年おおまさが逃げる姿を見て「お前はぶりぶりざえもんかぁ~!」と叫ぶところは、今だからわかるネタだなぁ。
廉姫の春日家は、婚姻を反故にしたことで専横な大名、大蔵井 高虎(おおくらい たかとら)と戦をすることになる。
野原一家が「助太刀致す!」と自動車を走らせ、大蔵井の陣へ疾風怒濤のごとく突っ込むシーンは、痛快で心高ぶるいいシーンだ。
朝ぼらけ、しんちゃん達の活躍で高虎を倒し勝利を得る。
高虎の首を取ろうとする又兵衛を、しんちゃんは「許してやろうよ」と制するのだった。
劇場版「クレヨンしんちゃん」は正義を信じる心、純真さや過度な暴力への拒否反応といった子供の性善的な本質をいつもしっかりと描いてくれる。
難を言えば、この後又兵衛は何者かに撃たれ絶命するけれど、ちょっと強引な展開だなと思わなくもない。
展開上、都合よく殺したというか(笑)
そうするしかないワケだけど。
廉姫に又兵衛が何故そこまで惚れるのか、廉姫のキャラクター描写がちょっと弱いかなとも思う。
「幼馴染で美人」というだけでも十分かもしれないけど、もうちょっと何か欲しかったな。
野伏せりに襲われる廉姫を又兵衛がお助けするシーンがあるけど、あれを過去の出来事にするといいのかも。
そして、傷を手当した手ぬぐいを、又兵衛が後生大事に持っているだとか・・・。
廉姫が「まだ持っているのか?(私は忘れてないわ)」といちいち確認するだとか・・・。
21世紀に戻ったしんちゃん達は又兵衛の旗印そっくりの雲を青空に見つける。
同じように青空を見上げる廉姫、又兵衛と魂合うその瞬間に涙があふれるのだった。
又兵衛と廉姫を表す二つの雲ではなく、やはり一つの雲だけが浮かんでいる。
一つになったのか、それともやはり武士は孤高なのか。
冒頭とラストが廉姫の憩いの場所である泉のほとりのシーンなので、すべては廉姫が見た夢なのかな、と思わせる作り。
だから、蝶が気になっちゃうんだよね。
見上げるさきの真っ青な空、せつなさと暖かさのあるオレンジ色の夕日。
風に揺れるか細く咲く花と、命をかけた戦いで交わる刀の、一瞬のきらめき。
大人は体いっぱいにあふれる想いを、表には出せない。
出したとしても、それはねじ曲がっていたり、涙になってしまう。
しんちゃんは正義の瞳でその不条理を、悪を射抜く。
原監督の、ほんの一時を大切にする細やかな演出と、「しんちゃん」らしさを忘れないバランス感覚。
そして、しんちゃん達が見上げるさきに、いつもある青空。
これが原監督らしさ、原汁なのかな(笑)
本当に素晴らしい映画。