「駅馬車 Stagecoach」
99分 米 1939年
監督 ジョン・フォード
製作 ジョン・フォード
原作 アーネスト・ヘイコックス
脚本 ダドリー・ニコルズ
音楽 ボリス・モロース
撮影 バート・グレノン レイ・ビンガー
出演 ジョン・ウェイン クレア・トレヴァー トーマス・ミッチェル
ジョージ・バンクロフト アンディ・ディバイン ルイーズ・プラット ほか
【完全ネタバレ】
荒野に咲く小さな花々。☆☆☆☆★
〔ストーリー〕
それぞれに事情を抱えた乗客9人を乗せ平原を疾走する1台の駅馬車を舞台に、ネイティヴ・アメリカンの襲撃や無法者との決闘を盛り込みながら、乗客たちの織り成す人間模様を描き出す。
ジョン・フォード監督はアカデミー賞監督賞を4度受賞、この映画ではノミネートされている。
その監督作品は、136本にも及ぶそうだ。
黒澤明監督はジョン・フォード監督に強い影響を受けたそうで、観てみようと思いフォード監督作品を一度何か観たんだけど途中でやめちゃった。
それで、あんまり期待できなくなっちゃって・・・。
ただ、この高名な「駅馬車」は最高に面白い。
立て続けに二回観た映画は、久々だ。
この作品を観ると、黒澤監督がどう影響を受けたかがわかるような気がする。
まず、物語がわかりやすい。
何を物語るか冒頭に明示され、ただ話を追っていく展開は観ていて混乱がなくて安心する。
そして、物語が進むにつれてそれぞれが個性や魅力を発揮し、観ていて自然と好きになってしまう色とりどりのキャラクターたち。
加えて、(社会的にも)弱い立場にいる人間たちへの暖かい眼差し。
そして、何といってもやはり濃密かつ豪快な画面、さわやかな閉幕。
観終わった後、今一度あの世界に戻りたいと何度も観てしまうような映画で、黒澤監督の「用心棒(1961)」や「七人の侍(1954)」もそうですよね。
画面が暗かったり逆光で対象が真っ黒になってしまっているショットがあり多少苦はあるんだけど、影の使い方がクラシックらしく見事でカッコいいし画面が狭すぎると感じるほどその画は壮大だった。
↑西部劇のイメージそのものになってしまったと言っていいモニュメント・バレーを一望する画は「ジョン・フォードポイント」と呼ばれるそうだ。
それぞれ事情を持つ9人が一台の駅馬車に乗り合わせる。
その広大な荒野と、人でギュウギュウの馬車内の対比が面白い。
旅の途中、ある女性が出産をむかえる。
飲んべぇで役立たずと思われていた医者が見事出産を助けたり、命の誕生という奇跡の前にエゴを引っ込め、しれ~とおとなしくなる男たちが妙にオモロイ。
その旅路のなかで、いつしか心を通わせていく展開はロードムービーにも近いなと思った。
クライマックスには今観ても目を見張る豪快なスタント、ネイティブ・アメリカンとのチェイスや銃撃戦が待っていて、さらにジョン・ウェイン演じるリンゴと彼の仇であるプラマー兄弟との決闘がある。
プラマー兄弟と対峙する画は影の使い方がこの時代らしいし、かっちょいい!
ジョン・ウェイン登場の際のどじゃ~んなズームインはちょっと笑ってしまうけど、明快なパンやネイティヴとのチェイスでは軽快なカッティングが今の映画と変わらなく緊迫感をあおっていてやっぱりすごいんだなぁと驚いた。
馬車に丸太をくくりつけて川を渡るシーンがあるけど、西部劇であんなの初めて観たな。
今となってはいかにも西部劇の画、例えば男たちがカードをやっている酒場だとかおきゃんな娼婦との掛け合いだとか鉄砲の決闘などは、この映画などで作られてしまったものなんだろうけど、あらためて観るといいもんだな。
特典映像は淀川長治さんによる解説、制作秘話もいろんな事が書いてあって嬉しかったな。
フォード監督は彼の秘蔵っ子であるが当時無名のジョン・ウェインを抜擢する際、他のキャストやスタッフに「コネ野郎」と白い目で見られないよう現場でどなりけなし、しごき倒したのだそうだ。
すると、かわいそうにと自然と同情が生まれジョンが現場で浮くことはなかったのだという。
また、モニュメント・バレーに住むネイティヴ・アメリカンのナバホ族が生活に困っていると聞いて、スタッフや裏方として雇い助けたというエピソードもあるそうな。