女の園。 | 江戸の杓子丸

江戸の杓子丸

化け猫 杓子丸の大江戸見廻覚書



女の園



約141分 日  1954年



監督 木下惠介


製作 山本武
脚色 木下惠介(原作 阿部知二)
音楽 木下忠司
撮影 楠田浩之
出演 高峰三枝子 岸恵子 金子信雄 東山千栄子
    毛利菊枝 ほか



江戸の杓子丸


【完全ネタバレ】



人格を無視して何を学ばせようとなさるのですか。★★★★☆



〔ストーリー〕
 良妻賢母型の女子教育を信条とする京都の名門・正倫女子大学は、厳しい規則と指導で使徒たちを常に縛りつけていた。
 しかし、男女交際は無論のこと、外出や勉強時間まで規制される寮生活の中で、次第に生徒たちの学園の民主化運動の意識が高まっていくのだが・・・。




1954年キネマ旬報ベストテン2位(1位は同じく木下監督作の『二十四の瞳』。3位は『七人の侍』)。
また「ゴジラ(シリーズ第一作)」がこの年に公開。
すごい年だな~(笑)


物語の展開が「いまを生きる(1989 米)」に似ていた。
なにか関係があるのかな。


検索すると、この映画の原作は実話を基にした物語のようだ。



「市民ケーン(1941)」みたいに終わりから始まる構造。
続いてのオープニング・クレジットのスマートな始め方がいいなぁと思った。



「学生は学問と人間の自由を叫び、学校は学問と人間の理想を叫ぶ。
しかし、この二つの声が何故争いを起こすのであろうか」


コントロールしようとする者とコントロールされる者、いくつになってもどこにいても必ずどちらかの立場になる。


政治家や役人と結託し再軍備でもうけようとする林野財閥の娘、明子(久我美子)は自分が通っている正倫女子大学に父親が経済的援助をしている事を知っていて、自分を退学に出来るのは父だけだ、と学校をなめているし、これから出て行く社会に対しても達観しうんざりしている。


時に寮長もかねる五條(高峰三枝子)先生の古傷をずけりと露出させ、遊ぶように攻撃してみせる。


一方、芳子(高峰秀子)は数学が出来ないと悩み、学校が検閲するため彼氏に手紙もろくに出せないと悩み、また父には彼と別れて結婚しろと迫られ悩む。


そもそも彼女は強制的に結婚させようとする父親から逃げるように入学したのだった。



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学校の封建的な規律に我慢できなくなった生徒らは学校に校則の改正を求めるが、軍備強化でもうける財閥から経営を助けてもらっている大学に民主的な教育が行えるものか、と議論は飛躍し、抗議運動代表の生徒らは「アカ」である、危険分子であると退学等の処分を受ける。


繊細な芳子は、父や学校による締めつけで神経衰弱になり、まるですべての責任を引き受けるかのように自ら命を絶ってしまうのだった。


繊細にすべてを感じ取り、責任も強く感じる明子と芳子は実際紙一重のキャラクターなんだな、と思った。


一億総懺悔においては誠実で責任を強く感じる者ほど犠牲者となる、本当の責任者ではなく。



しめつけられる学生、そして女性。
自由を求めて戦う彼らの姿は、今ではもう自由になり過ぎて描けないだろうな(笑)


僕の世代は「マジになるなよ」みたいな、先生や学校ともめたってしょうがないじゃんかみたいな、「しらけ」てるというよりなんかもう去勢されてるような感じだったんだと思う。


劇中、台詞でもあるけれど、生徒や父兄はただ就職のため卒業出来ればいいし、教育者の資質やいじめにしても学校はただただ何も出来ない。
そういう存在と戦ってもしょうがないじゃんか、みたいな。


未だにどこにあったのかよくわからん邪馬台国については時間をたっぷり取って、近代のアジア太平洋戦争は時間ねーや、で教えない。


今の教育もおかしいんだけど、まぁ卒業をかけて戦うほどの事じゃねーか、となっちゃう。


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中盤、芳子が彼氏とデートするシーンは注視しちゃう長いカットが多いし、会話がいい。


「あなたの重荷になりたくない。あなたが就職できないとなったらわたくしが働くわ。そのために勉強してるんですもの。貧乏なんか平気。あなたのそばにいられるんなら・・・。」


「だけど、男としてそういう女の言葉に頼っちゃいられないじゃないか。」


「どうして男の人はすぐ、男として、なんて言うんでしょう。一緒じゃないの、女だって。」


今ではもう通用しないけどこの時代にもう、こういう台詞があるんだなぁ。


こういう昔の映画を観て面白いのは、画面全体が楽しい事。


モウモウと煙を吐く蒸気機関車の向こうには白鷺城があり、周りに高いビルが一切ないためものすごく巨大に見える。


もしくは国会議事堂の周りには霞ヶ関のビル群など高い建物が何一つなく、やたら空がひろい。


電信柱一本も今と違ってシンプルで、面白い。


ひざ下のスカートは野暮ったくてダサいはずなのに、岸恵子が中原淳一の絵みたいで、やたらカッコいいし(笑)



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明子と共に学生達を引っ張る「とし子」の存在感がすごい。
明子の心の中の人格というか、明子の本質なのかなとも思える。


明子がハッと見ると、にやりとするとし子がたたずんで見ているという短いカットがあるんだけど、なんかデイヴィッド・リンチみたいな異様さがあって印象的だった。



僕にとって金子信雄といえば、「仁義なき戦い(1973)」とか東ちづるをアシスタントに料理を作るおじいちゃんだけど、金子信雄がま~若くて、ここではまだ若いおじさん(笑)