上意討ち 拝領妻始末。 | 江戸の杓子丸

江戸の杓子丸

化け猫 杓子丸の大江戸見廻覚書

上意討ち 拝領妻始末



128分 日  1967年



監督 小林正樹


製作 田中友幸
脚本 橋本忍
音楽 武満徹
撮影 山田一夫
出演 三船敏郎 仲代達矢
    加藤剛 司葉子 大塚道子
    神山繁 市原悦子 ほか


江戸の杓子丸


【完全ネタバレ】



Bold as Love。★★★☆☆



〔解説〕
 封建制秩序の非人間的な矛盾を衝いた時代劇。会津藩馬廻り役の笹原家に起こる、理不尽な主命による悲劇の顛末を描く。




忠臣蔵のように、日本人が強くシンパシーを感じる作品だと思う。


復仇物語はやっぱり面白いなぁ。



会津松平藩馬廻り三百石藩士・笹原伊三郎(三船敏郎)は、藩主・松平正容(松村達雄)の側室・お市の方(司葉子)を長男・与五郎(加藤剛)の妻に拝領せよ、と命ぜられる。


すると二年後、正容の嫡男が亡くなったためお市の子、菊千代が嫡子となり「生母・お市を返上せよ」との下命を受ける。


その理不尽さに否を徹す伊三郎に業を煮やした家老らは市を拉致し、伊三郎親子に切腹を申し渡す。


伊三郎は逆賊の汚名を着、上意討ちの一隊と火花を散らす決意を固めるのだった。




三船さん一色と言ってもいい作品。


伊三郎(三船)はマスオさんみたいに婿養子なのだが、倨傲な妻に忍耐の日々を送ってきた。


三船さんが頭のあがらない妻とはどんな女だろうと思うけれど、これがなかなかすごい(笑)


悪役はまるで隈取りみたいに両眼の周りが大袈裟に黒く塗られていて異様なんだけど、この妻も妖怪みたい。


グチグチ言う妻を前に黙然と羽織袴を着替える三船さんが笑える(笑)




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腕は立つが妻に逆らうこともできない従順なヤツだと軽く見られ、伊三郎は市を押し付けられる。


しかし、与五郎と市は仲睦まじく暮らし、娘も生まれ幸せであった。


伊三郎は二人の愛にうたれ、最後までその愛を貫くよう諭す。


自分の結婚にはなかった、その美しい愛を守ってやると覚悟を決めるや、一毫の揺るぎもなくウキウキと戦う伊三郎が気持ちいい。


なんともロマンティックで、60年代の時代劇にもこういうテーマはありだったんだな。



市は許婚がいたにもかかわらず無理矢理藩主の側室にされるが、その境遇に耐えつつ子を産む。


しかしある日、新しい側女となった女が嬉々とし得意げであるのを見て、カッとなりその女だけでなく藩主にも手を上げてしまう。


これが暇を出された理由で、決して嫉妬ではなく藩主の傍若無人ぶりに激怒してのことだった。


この顛末を描く編集が面白いと思った。

ストップモーション(静止)も交え、テンポいい。


なんとなく、“事件”という雰囲気で、サスペンスっぽい。




家老らに拉致された市は「伊三郎らを切腹させてよいのか」と脅され、ガクッと諦めくずれる。


その様子を見るや、それまで高圧的だった家老らが手のひらを返し、


「では、お市の方様、大奥へ」と深々と頭を下げるシーンはうまいなぁ、と思った。



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前半はいいとして、後半はアクションも交じるのにやや冗長でキレが悪く緊張感を欠いたような気がするなぁ。


国廻り支配(よくわからんが、関所の番人みたいな役職)・浅野帯刀役の仲代達矢が登場した時点で、「あぁ、最後は三船さんと仲代さんの決闘だな」とわかるけれど、それまでたっぷりあって、そのあとも結構あるんだよね(笑)


肝心の決闘も正直、あんまり面白くなかった。



日本映画らしくカメラも人物もほとんど動かず、ほとんどが部屋全体が映るくらいのロング画と顔のクローズ・アップ。


ロングでは口が動いているのかもわかりにくく、外人さんが観たら誰がしゃべっているのかわからないんじゃないかなぁ(笑)


人物を記号化したようなカットも日本的で面白い。




三船さんがとにかくかっこいい。


ラスト、鉄砲で撃たれながら日本刀を振り上げ、向かっていく三船さんの顔がすごい。



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許婚の話しが両家で成立したあとに婿が死んでしまった場合、花嫁はまだ嫁いでいないにもかかわらず後家となり、再婚も許されないという慣習が武家にはあったという。


武家の筋目立て、武士道とはなんとも没義道だ。




しかし、冷静に考えると、やっぱり市は疫病神じゃないかな(笑)