最近見かけないヤナギマツタケ
ヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea)を覚えている人はいるだろうか。20年以上前から食味性が注目され、栽培方法が検討されてきたキノコである[1]。数年前にはスーパーでよく見かけることもあったが、最近では滅多に見かけることがなくなってしまった。名前の一部に「マツタケ」が入っているとはいえ、マツタケの香りはほぼしないため、騙されたと思った人もいたかもしれない。しかし、そこそこおいしいキノコなので、このまま忘れ去られてしまうのは惜しいところである。今回、たまたまスーパーで入手することができたので、紹介したい。
バターでゆっくりソテーすると、癖もなく温和なキノコの香りが広がってくる。ただし、炒めるとかなり収縮して小さくなってしまう印象があり(写真右下)、何とも物寂しい気になる。柄はかなり繊維質で、噛むとジャリッと歯切れよく切れる。旨みはかなり強いほうで、後味が口にしばらく残る。バターとの相性は良いので、そのままソテーとして出してもよい。いろいろと他の食材を混ぜ合わせてしまうと、このキノコの食感しか分からなくなってしまうので、このキノコの濃厚な旨みを十分に味わいたいのなら、シンプルに調理したほうがよいように思われる。
ヤナギマツタケには「やなぎもだし」(岩手)や「やなぎまったけ」(奈良)など地方名、「柳茸」や「柳磨茹」、「柳耳」といった古名が数多くあり[2]、日本国内では古くから広く知られていたようである。一方、中国には同属でキノコの外形の似た茶樹菇(A. chaxingu)という種があるのだが、現在の日本国内にはヤナギマツタケの商品名に「チャジュタケ」を用いることがあり、これと混同されることがあるようである。陳ら(2006)によると、A. cylindraceaとA. chaxinguとのrRNAのITS領域の類似度は90%以下とのことで[3]、別種と分かる。
中国の百度百科によると、A. chaxinguは風味や香気、食味等でA. cylindraceaよりも優れているとしているが、出典が示されていないので疑わしい。A. chaxinguについては、日本人からも「非常に香り高く、シャキシャキとした食感が楽しめるおいしいキノコである」との記述がある[4]。一方、両キノコの食味性の比較に関する報告は見つけられなかった。今後は、これらの同属のキノコの食味性や栽培方法、応用研究の比較検討が有益となるように感じる。
[1]最新バイオテクノロジー全書編集委員会編(1992)「きのこの増殖と育種」農業図書,p.258-265.
[2]奥沢と奥沢(1998)「きのこの語源・方言辞典」,山と渓谷社,p.570.
[3]陳ら(2006)Journal of Taiwan Agricultural Research,55(1),25-38.
[4]鈴木ら(2007)天然有機化合物討論会講演要旨集,49,383-388.



