彦星の憂鬱。

七夕で…したよ。




もう何時間か過ぎちゃってるけど…。




彦星と織り姫が一年に一回逢える日ですわ。




とてもロマンチックな日。




でも、勘違いしてる人いると思うけど、この二人、恋人じゃなくて夫婦なのよ。



彦星は牛飼いで織り姫は機織りの共働きの夫婦。



共働きで年に一回しか逢えないんだから、まぁ～子供なんて出来ないわな！




仮に織り姫が妊娠しても、彦星は出産に立ち会えないからね。




次の年の七夕に、織り姫の手には丸々と元気な赤ちゃんが居て…




彦‘えっ?!えっ?!赤ちゃん?!'



織‘あなたは仕込むだけ仕込んで、出産も立ち会わないで気楽なものね。'



彦‘去年の…七夕の時に…した時に…？'



織‘ハァ～？それ以外にいつ？私が浮気してるとでも思ってるの？毎日毎日、安い賃金で日本の企業から受注してるフリース織ってる私に、浮気する時間なんて無いわよ！'



彦‘あっ…ゴメン…。'



織‘私、工場長に産休届出しちゃったから、あんたもって働いてよ！'



彦‘えっ…いやぁ…。'



織‘何その煮え切らない態度！テメェいつまで水牛一頭で出稼ぎカマしてんだよ！'



彦‘いや…この水牛の花子は…僕のパートナーというか…友達というか…。'



織‘オチンチンみてぇーな事言ってんじゃねーよ！逢うのは年一回でもイイから、毎月養育費送れよ！はぁ～腹立つ！そもそもテメェが私の衣かっぱらったから夫婦になってやったんだろうが！'




彦‘ギャフン！'





夢も希望も無いわな…。




養育費は払って子供に年一回しか会えないって、離婚した夫婦みてーだもん…。




‘遠距離恋愛の恋人'と言うと聞こえがイイけど、実際は‘共働きの出稼ぎ夫婦'だからね！




毎年逢う度に、織り姫に…



‘養育費の入金が遅れてるんですけど！'

‘来年から子供が私立の小学校に通うから学費も振り込んで。'

‘年に一回しか逢わないんだから、汚ねぇ着物じゃなくてスーツで来いよ！'



と罵られ、一年振りに逢った子供の成長に感動し驚いていると、子供に…






‘ママ！このオジサン、誰？'



と言われる…。







‘昔に戻りたい…。'






彦星は、頬を伝う涙をソッと拭い、短冊にそう書いたとさ…。