Wバーガー事件簿。
窓から入る穏やかな日差しに、眠くなる…。
事件も無くデスクワークが続いていると、また署長に…
署‘そもそもハンバーガー課なんか要らねぇ~んじゃねぇ~か?なぁ…野村課長?'
てな具合にイヤミを言われる。
※ハンバーガー課…ハンバーガーの美味い不味いを公正に判断し、その評価を友達に広める事を目的に設立された、ハンバーガー課。ちなみに俺は課長である。
事件が起きず平和な日が続くのはありがたいが、事件がないと給料泥棒扱いされる…。
因果な商売だぜ…。
ウトウトとし、夢か現実か分からないまま愚痴をこぼしていると、睡魔も吹き飛ばす、けたたましい電話の音で飛び上がる。
野‘ハンバーガー課・野村だ!……うん…うん……はぁ?モスで昔事件を起こしたヤツが姿を表したって?!すぐに行く!'
シワだらけのヨレヨレのジャケットを羽織り、電車に乗り込む。
モスの野郎…やりやがった!
我が課ではモスはかなり昔からマークしていた。
いつか何かやらかすとは思っていたが、それがいつなのか?何なのかまでは掴みきれてなかった…。
そんなモスについに動きがあった。
昔、世に出て人々の心を鷲掴みにし、忽然と姿をくらませた…。
国外逃亡説、死亡説、など様々な憶測が飛び交ったが、ついに過去の栄光を忘れられず姿を表しやがった。
ヤツの名前は…
‘ダブルバーガー。'
いや、今は名前を変えて…
‘復刻版ダブルバーガー。'
名前を変えたところで、俺の目は騙せないぜ!
確かに昔は人気があったのかもしれない…。
しかし、お前が姿をくらませてる間に、時代が変わったんだ。
もうお前の知ってるハンバーガー界じゃないんだよ…。
同じ時代を生きたウェンディーズは引退し、バーガーキングやフレッシュネスといった勢いのある若手が幅を効かせている…。
もうお前の居場所は無いんだよ。
老兵は静かに引退していて欲しかった…。
お前を酷評するのは、正直心苦しい…。
だから…
いやっ!
俺はハンバーガー課の課長だ!
情を持ち込むなんて…どうかしてたぜ…。
しかし…解せぬ…。
なぜ勝算も無く、シャバに舞い戻ってきたんだ?
考えがまとまらねまま現場にたどり着き、カウンターに歩みを進める。
メニューには‘復刻版ダブルバーガー'の文字…。
ガセネタであって欲しかったが、どうやら報告は本当だったようだ…。
野‘ダブルバーガーとアイスコーヒーを…。'
店‘かしこまりました!850円になります!'
ハイハイ…850円ね……
って、高っ!!!
ハンバーガーとドリンクで850円だとっ?!
本当にそんな値段設定なのかメニューを確認すると、値段よりも違うものに目がいってしまった!
‘期間限定'
コッコッコイツ…散々荒稼ぎして、また姿をくらませるつもりかっ?!
‘復刻版'と‘期間限定'という2つの武器…。
老兵の貴様が、勝算も無く姿を表すとは思わなかったが、その2つの強力な武器が後押ししていやがったか!
さすが歴戦の猛者…知略に長けていやがるぜ…。
冷や汗が背中に伝うのがハッキリ分かった…。
アイスコーヒーをすすり待つ事、5分…。
店‘お待たせいたしました!復刻版ダブルバーガーです。'
目の前に姿を表したヤツを見て、衝撃を受ける。
正直…
なんか雑…。
やはり、もう今のハンバーガー界の流行りには乗れていないのか…。
これが老いというものなのか…。
モスという一大組織でこのビジュアルで行くと決めたのか、店が忙しくてこんな雑な感じになったか、真意は分からないが、客の俺の前に現れた姿がこんな感じじゃぁ~味もたかが知れてるぜ…。
前回のロッテリアのエビバーガー事件の時は、見た目から客を圧倒する力があったが、今回はイージーな事件のようだ…。
わざわざ課長の俺、自らが出張ってくる必要もなかったか…。
失意の念も露わに、ビジネスライクに一口食べる。
モグモグモグ…。
ゴックン…。
ンッ???!!!
なんだ…この肉感的な歯応え?!
噛んでも噛んでも口の中から、肉が消えない…
いや、決して肉が固いとかでは無く…
肉の二重奏…そう!肉の二重奏だ!!!
ただ単純にパティが2枚になっただけで、こんなにも肉肉しいのかっ?!
こりゃパティの足し算なんかじゃねぇ!!!
か…か…か…
かけ算だっ!!!
そこに潤沢なモスのあのお馴染みのソース!
口の周りがベチャベチャになる事など気にせず、一心不乱に食べる…食べる…食べる…。
お前が目の前に現れたら、羞恥心なんてどっかいっちまったよ…。
恥じらいなんて生娘みてぇ~な感情、どっかいっちまったよ…。
お前さん…期間限定なんだって?
なら期間が終わる時効の瞬間まで、せいぜい世間を騒がせてくれや…。
そうつぶやいて、羞恥心を捨てた俺は、ズボンを下ろし、むき出しになった自分のモスドッグを静かに見つめた…。