日本では、「起業」というものは過去3回、ブームとして起きてきた。
第1次が1970年-1973年。ホンダなどマシーンエイジを代表する企業の成熟期。第2次が1983年-86年のソフトバンクやアスキーに代表される情報産業のスタートアップ期。第3次が1990年から20世紀末までのバブル崩壊後にやってきたブームだった。
実はこれ、第3次のさなか1996年に坂井直樹氏と仕事をしてつくった『創業人のススメ-アントレプレナーノート』に書いたチャート式コラムの一節の内容だ。そこには、「2005年、日本における起業文化の定着?」という予言めいたことも記されている。
アントレプレナーノートは、当時の「起業の仕方」的なマニュアル本の氾濫に嫌気して作ったもので、時代の流れに棹する本は売れない。もう本屋にはとっくにないはず。
マニュアルじゃないだろ、せいぜい創業者に学べ、だろ、という気分で「創業人」という坂井氏のキーワードをタイトルにした。
95年ころまで就職氷河期と言われ、同時に終身雇用、年功序列の終焉が言われ、現実のものになり始めていた。そこへ「起業」が三題噺のようにセットされる。第3次ブームはそんな恰好だった。
「2005年、日本における起業文化の定着?」という予言が当たっているかどうかはまだ検証していない。だが、そうかも知れないと思えることはちらほら起きている。
「格差社会」、「勝ち組、負け組」で始まった2006年の11月に 『成功王』(原作:道幸武久,KKベストセラーズ-1,000円税込) というタイトルの劇画スタイルの本が出ている。第3次ベンチャーブームのころよりも、ある意味では複雑に寒いかもしれない時節に、「成功」という言葉を前面に打ち出した本はあまりない。
著者は経営コンサルタント(ビジネスプロデューサ)の道幸武久氏。
確実に言えることは、第3次のマニュアル本とは全く異なる、自伝であるということ。しかも現役の経営者として仕事を進めながらのオートバイオグラフィ。これは新しい手法でもある。
つまり、アントレプレナーノートがやろうとしたことを、創業者自身がマンガを使ってわかりやすく方法として取り出してみせてくれているということだ。
創業人自身が、自身の創業に至るプロセスを語り、それをできるだけ客観的な方法として、ステップ化して見せてくれている。
これはマニュアルではない。方法である。
ステップ1 コンプレックスをパワーに変える
ポイント1 スタート地点に立つ
コンプレックスはパワーの源
メンターをつくる
から、ラストステップまでの5ステップが、そのまま章立てになっている。
「メンターをつくる」という文言を読んで、これは本物だなと直観した。体験に根ざした方法論には、マニュアルにはない力強さがある。
「2005年、日本における起業文化の定着?」の予言は、一年ほどの誤差はあるかもしれないが、時代動向の一年や二年は、トリヴィアルだろう。案外、当たっていたではないかと思えてきた。

