オシム新監督の顔を見ていると『灰とダイヤモンド』を思い出す。
日本語の「知識人」という言葉はなんとかしたいが、オシムは東欧型知識人の典型だ。知識人という日本語からは想像しにくい知識人だ。日本語でいう知識人からは、サッカーのナショナルチームの監督ができるようには思えない。やらないし、やれない。ま、ラグビーやサッカーはそうでないところもままあるので、言ってることが身も蓋もなくなるわけだが(笑)。
オシムは、かつて対ドイツ戦の戦術を聞かれて「負ける」ことだとはっきり宣言したことがあるらしい。試合前にインタビューかなんかされて、敗れることが戦術で戦略だと明言したらしい。そして事実、ユーゴは、4対1でドイツに大敗した。
分割前分裂前のユーゴという国は、日本で言えば北海道と本州と四国と九州のそれぞれの住人の言葉が異なり、宗教も違うという、日本列島の住人にとっては、にわかには想像もつかないような「結束」国家だった。そのナショナルチームを作るのに、各地方のトッププレイヤーを11人集めるという編成を「国是」としてやっちまったらしい。
そんな編成でサッカーはできないとオシムは反対したが、「国民感情」に押し切られてドイツ戦の日を迎えてしまう。その直前のオシムの発言が「負けること」だった。
ま、知将という言葉もある。あるが、スポーツの世界でわざわざ負けて見せるようなことをやった将は前代未聞だ。
オシムは数学者としても成功している。
灰とダイヤモンドは、東欧の永久革命派と国家官僚コミュニスト体制派の戦後戦を描いた映画だった。
その主人公が愛飲した酒がズヴロッカだった。
ズヴロッカはニガヨモギだ。苦い蓬はチェルノヴイリだ。
甘美にして苦い。苦くて甘くて苦い。
オシムの苦蓬のようなツラ魂がいい。
もう、宝くじに当たるかはずれるか、
みたいなサッカー観戦はしないことにする。
- アンジェイェフスキ, Jerzy Andrzejewski, 川上 洸
- 灰とダイヤモンド〈上〉
