まさかこんな気持ちを今さら味わうことになろうなどとは夢にも思っていなかったのである。

たしかスタンダールの恋愛論にあったのだと思うが、まさに恋とは不意打ちにやってくるものだ。

こういうことをしみじみと実感するということ自体、ひょっとして初めてのことかもしれない。歳か?


テレパシーが来たことはあった。ちょっと近いものはある。

だが、あれはこちらからねらい定めて獲物をとりにいくような状況だったから、不意打ちとは言いにくい。

そこにそういうテレパシーまで来るほどの相手がいようとは思っていなかったという意味では不意打ちかもしれない。しかし、今の場合はまったくシチュエーションが違う。

しかも進行が速い。で、やはりテレパシーに近いものは同様にあるのである。


甘く包まれるような、香りとともにそれはやってくる。

一度きりしかないこととは言えないが、そうそう何度も起きることでもない。


セックスは何度でも。それ、とはまったく違うもの。

そしてそれはセックスによって消えるものなのかも知れない。


13や14の少年でもあるまいに、セックスという語を使うことさえ嫌なのだ(笑)。それが、甘美な不意打ちを台無しにしてしまうから。


スタンダール, 大岡 昇平
恋愛論