こういう本を読んでいると、数理の方が面白くなって、ほかのことはバカバカしくてやってられなくなる。
1950年代に始まった数理ファイナンスの流れ(一時期、金融工学という名称が一般書にも頻出したことがあったがそのおおもと)のうちで「市場の均衡理論」を核とする離散モデルの入門書で不確実性を真っ向から相手にしていくモデル。入門書と言っても線形代数のベクトル空間のオンパレードだからサクサクというわけにはいかないが、スルメを噛みしめるように読み進めていると「チャートの限界ってのは、こういうことだったのか」とか、数式を通して身にしみて理解できたりする(金融工学というバズがひっぱったのは、どっちかというと、確率微分方程式を核とする時間連続モデル寄りだが、離散モデルは時間連続モデルのガイドマップにもなるのでお得感は十分である)。目次は以下。
第1章 平均‐分散分析
第2章 証券市場の無裁定条件
第3章 個人投資家の最適行動
第4章 証券市場の均衡
第5章 有限多期間モデル
第6章 有限多期間の証券市場均衡
第7章 例題:2項過程による証券市場モデル
第8章 動的計画法による証券価格評価と最適戦略の決定
第9章 無限多期間における証券市場
2章の「無裁定条件」の「裁定」は、arbitrage。財務でこう訳すそうだが、身近には要するに利益確定売りして「利ざや」を稼ぐこと。裁定ありの場合は、自己資金ゼロ(空売りなど)でも、巨額の富を築くことができる。純モデル的には。そしてこの本は静かにこう続けている。「多人数の交換経済でarbitrageが存在すれば、それに対する需要が急増し、その結果価格体系が変化し裁定は解消されるであろう」。つまり市場はいずれ均衡点に達する。
IPOが一種異様な市場であることをarbitrageを使って示すことができるかも知れない(事実上参入制限のある擬似的市場を市場というのだろうか? ブッキングは競りに近いのではあるが)。
経済は倫理を織り込んでいる。市場原理、見えざる手は、と言うか。
盛者必衰の理によって世の中は「巡っている」はず、なのだ。
「巡り」が悪くなれば、全体が死に体になる。
アメリカンスタンダードと市場原理、市場原理と市場原理主義を混同してはならないだろう。