「居直り」の効用と書いて、ちょっと待てと辞書で調べてみた。へえ、何、名詞で言うと居直り「強盗」の略にもなるのだった。うかつにも知らなんだ。しかし、まあつまりはそういうことだな(?)
居直り強盗:
盗みに入った者が家人に見とがめられ、急に態度を変えて強盗になること。また、その盗人。居直り。
と辞書にある。
で、「居直り」そのものには、
(1)急に
態度を荒々しいものに変える。
「押し売りが―・る」
(2)逃れられない立場を悟り、強い態度に変わって相手に向かう。
「―・ってふてぶてしくなる」
(3)座り直して姿勢を正す。
「宗清―・り畏つて申けるは/平家 10」
[可能] いなおれる
の3つの意味があった。
効用というのは、(2)を実行し、(3)に至るということだな、と勝手に納得する。(3)に至らなければ、単に居直り。強盗と変わらないってことだ。
10年ほど前になるが、あまりに安すぎる単価で請け負った内職で、締切に間に合わず、ついに居直ったことがあった。
納品物を捨てたわけではないし、結局、その分請求もしなかった。だが、迷惑をかけたことには違いないので、少なくとも相手の時間を盗んだことにはなるだろう。
正面切って、単価安過ぎと交渉しても良かった。ガマンしてついに切れた恰好。公正取引委員会に相談しても良かったケースである。それでも半年以上はじっと耐えて貢献したのだから、文句はあるまい。
「約束は、約束でしょ」、とか、契約違反だとか相手からは言えるケース。しかし、居直ったほうがいいことがある。土台が、不釣り合いな約束。しかし、「約束は約束」という言葉には、まじめな人ほど敏感に反応して、自分を責めがちである。確かに大人げないかも知れないが、居直って正解ということはあるのである。
まあ、判断は慎重にすべきだが、やれるとこまでやった挙げ句、「ええい、煮るなり喰うなり勝手にしやがれ!」という土壇場での判断は、そこまでやったのだから、たいてい間違っていない。
そこで失うものは失う。切れるものは切れる。
相手はどうか知らない。しかし、そういう土壇場での「居直り」は、「(3)座り直して姿勢を正す」にきっと繋がるはずだ。
座り直すには勇気がいる。しかし、「約束は約束」という天下の正道(宝刀)に勇気を持って刃向かうには、それなりの土壇場が必要になるということだろう。火事場の馬鹿力にも近い。これは強い。
もともと何処かに無理があることを続けているということでもある。居直るしかないか? とそういう気持ちがちょっとでも生じたら、まずは自分に対して居直る。そして、筋を通して相手と交渉する。
これが正論だろうが、真面目過ぎて正直な人間ほど、これがなかなかできないのである。
それを弱い人間のすることと言い捨てることができる人は、今は昔の「成り上がり」者だけだろう。
昔の自分を忘れたか、居直り続けた結果にあぐらをかいていることに気づかないかのどちらかだ。
原稿の締切仕事なら「雲隠れ」という手もあった。しかしこれも諸刃の刃である。ついにいつまで経っても行方不明というのもあったりする。それくらいなら、やはり居直りのほうが、双方損害が小さくて済む。