平成25年6月21日(金)
『しまちゃん』雨の降る日は来ない。いつも朝ごはんを用意しているのだけれど、今日は、朝から雨で、しまちゃんのご飯は、我が家の猫の昼ごはんとなった。猫でも、缶詰とはいえ、開けたてでないと食べない。缶詰は酸化しやすい。
*
悟が、なかなか起きてこない日があった。路恵はいやな予感がして、いつもの朝ごはんの八時に彼のベッドに行くと、口を開けて、大きないびきをかいていた。「もう起きてご飯にしましょう」と悟の体をゆすった。
「うーん」と言って、そのまま眠ってしまう。起きる気がしないようだ。確か昨夜は、夕飯が済んで、九時に眠ったはずだから、もう12時間くらい寝ている。これは何か異変が起きているのかしら、と思わされた。それでももう一回、少し強く体をゆすると、「起きるよ」と、悟は言って、大きく伸びをして、ベッドに座り、「どうしたんだ」と路恵に問いかけた。
「あなたがあまり、寝続けるものだから、脳こうそくでもおこしたかとおもったのよ」と路恵は答えた。
「昨夜、2時頃目が覚めて、4時近くまで起きていて、テレビを見ていたんだ。悟の部屋には、小型のテレビがあった。早く眠る癖のある悟は、夜中によく目を覚まして、このテレビで、BSなどの世界ニュースを見ていた。若い時は、路恵も悟も同じ部屋で寝ていたが、悟のこの早寝と夜中の目覚めが、路恵の睡眠を妨げて、ついには、路恵が高血圧症を発症して、二階の別の部屋で、路恵は眠るようになった。それで、悟が、夜中に起きていたことは分からなかったのだ。「何でもないのね」と路恵はひと安心したのと、話し方が、いつもの悟のようで、認知症が軽減されているのかと思え、少しほっとした。
「今日も歩くのか?」と悟はいやそうに聞いてきた。
「筋肉は、毎日弱るそうだから、晴れている日は、体を動かした方がいいのよ。体は、悪いところはないのでしょう」
「そうだけど、なんだか頭が変に重くて、今日は休みたいな」
「まずご飯を食べてから、どうするか決めましょう」と悟を食事に誘い、パンとコーヒーと野菜サラダにハムの簡単な朝食をとった。二人とも70歳を超えてから、食事にあまり関心がなく、止むおえず、三食をとっている感じであった。悟は、ウィークディは、日経ニュースをつけ、見るともなく見ていた。もう株は全部手放し、株価がどんなに下がろうが上昇しようが、関係なかったけれど、長年の癖で、見ているのだった。結婚した時から、株を持っていたが、いつも損をしていたな、と路恵は、かつての悟の株の動かし方を思い、おかしかった。
ふと、悟の顔を見ると、泣いているように見えた。どうしたのか聞くのもはばかれ、「やっぱり散歩に行きますか?」と聞いてみた。「梅雨時なのに晴れているから、紫陽花なんかを見るのもいいんじゃないかしら」とそれとなく、悟の気をそらすことを言ってみた。「出かけるか」というので、二人は、またいつもの公園に出かけた。
梅雨で、木々の葉が、光っていた。あちこちに、大株のアジサイが、ブルーやピンクの花をつけ、ちょっとした、運動には気持ちの良い環境であった。いつものベンチにすわり、大きな木々を見上げながら路恵は、「やっぱり木に生まれ変わりたい?」と聞くと、「何だそれ、誰が木に生まれ変わるんだ?」と悟は少し気色ばんでいった。前に言ったことを忘れているんだと、路恵は理解して、すぐ話をかえた。「何か食べたいものあります?」
「木に生まれ変わるのもいいな」と、悟は、まだ路恵の言った話の続きを考えているようであった。「人になるのはもう嫌だな。話したくない奴とも話さなくてはならんのだから。木か?いいな!」そう言って、ベンチの上に枝を広げているケヤキを眺めている。悟の認知症の具合はどうなっているのだろう?実際のところ、単なる老人ボケ程度なのではないのか、と路恵は、横目で悟を見ながら思うのであった。

『しまちゃん』雨の降る日は来ない。いつも朝ごはんを用意しているのだけれど、今日は、朝から雨で、しまちゃんのご飯は、我が家の猫の昼ごはんとなった。猫でも、缶詰とはいえ、開けたてでないと食べない。缶詰は酸化しやすい。*
悟が、なかなか起きてこない日があった。路恵はいやな予感がして、いつもの朝ごはんの八時に彼のベッドに行くと、口を開けて、大きないびきをかいていた。「もう起きてご飯にしましょう」と悟の体をゆすった。
「うーん」と言って、そのまま眠ってしまう。起きる気がしないようだ。確か昨夜は、夕飯が済んで、九時に眠ったはずだから、もう12時間くらい寝ている。これは何か異変が起きているのかしら、と思わされた。それでももう一回、少し強く体をゆすると、「起きるよ」と、悟は言って、大きく伸びをして、ベッドに座り、「どうしたんだ」と路恵に問いかけた。
「あなたがあまり、寝続けるものだから、脳こうそくでもおこしたかとおもったのよ」と路恵は答えた。
「昨夜、2時頃目が覚めて、4時近くまで起きていて、テレビを見ていたんだ。悟の部屋には、小型のテレビがあった。早く眠る癖のある悟は、夜中によく目を覚まして、このテレビで、BSなどの世界ニュースを見ていた。若い時は、路恵も悟も同じ部屋で寝ていたが、悟のこの早寝と夜中の目覚めが、路恵の睡眠を妨げて、ついには、路恵が高血圧症を発症して、二階の別の部屋で、路恵は眠るようになった。それで、悟が、夜中に起きていたことは分からなかったのだ。「何でもないのね」と路恵はひと安心したのと、話し方が、いつもの悟のようで、認知症が軽減されているのかと思え、少しほっとした。
「今日も歩くのか?」と悟はいやそうに聞いてきた。
「筋肉は、毎日弱るそうだから、晴れている日は、体を動かした方がいいのよ。体は、悪いところはないのでしょう」
「そうだけど、なんだか頭が変に重くて、今日は休みたいな」
「まずご飯を食べてから、どうするか決めましょう」と悟を食事に誘い、パンとコーヒーと野菜サラダにハムの簡単な朝食をとった。二人とも70歳を超えてから、食事にあまり関心がなく、止むおえず、三食をとっている感じであった。悟は、ウィークディは、日経ニュースをつけ、見るともなく見ていた。もう株は全部手放し、株価がどんなに下がろうが上昇しようが、関係なかったけれど、長年の癖で、見ているのだった。結婚した時から、株を持っていたが、いつも損をしていたな、と路恵は、かつての悟の株の動かし方を思い、おかしかった。
ふと、悟の顔を見ると、泣いているように見えた。どうしたのか聞くのもはばかれ、「やっぱり散歩に行きますか?」と聞いてみた。「梅雨時なのに晴れているから、紫陽花なんかを見るのもいいんじゃないかしら」とそれとなく、悟の気をそらすことを言ってみた。「出かけるか」というので、二人は、またいつもの公園に出かけた。
梅雨で、木々の葉が、光っていた。あちこちに、大株のアジサイが、ブルーやピンクの花をつけ、ちょっとした、運動には気持ちの良い環境であった。いつものベンチにすわり、大きな木々を見上げながら路恵は、「やっぱり木に生まれ変わりたい?」と聞くと、「何だそれ、誰が木に生まれ変わるんだ?」と悟は少し気色ばんでいった。前に言ったことを忘れているんだと、路恵は理解して、すぐ話をかえた。「何か食べたいものあります?」
「木に生まれ変わるのもいいな」と、悟は、まだ路恵の言った話の続きを考えているようであった。「人になるのはもう嫌だな。話したくない奴とも話さなくてはならんのだから。木か?いいな!」そう言って、ベンチの上に枝を広げているケヤキを眺めている。悟の認知症の具合はどうなっているのだろう?実際のところ、単なる老人ボケ程度なのではないのか、と路恵は、横目で悟を見ながら思うのであった。
