「先輩!どうしてもやめちゃうんですか!?」
「大学は8年までいられるんですよ!」
「先輩、考え直してください」
「俺たちが、絶対インカレ王者を奪還しますから!
だから…大学には残ってください!」
一歩踏み出した彼の背中に、
バスケ部の後輩たちが、
たまらずに声をかけた。
その声に彼は、
振り返ることはせずに、
軽く右手を挙げ、
バイバイというしぐさをしたまま、
キャンパスを後にした。
「正門じゃなくて、裏から出るのも、
オレらしいよなぁ…」と
自虐的な笑みを浮かべながら、
一つ、大きな深呼吸をした彼に、
声をかけた人がいた。
声のした方に、彼は顔を向けた。
「なんだ…お前か」
「最後だから…」
彼女は声を詰まらせた。
彼女が、いつも彼のことを見つめていたことを、
彼は知っていた。
練習中も、遠征でも、
気がつくと、彼女の姿を探していたから。
「…じゃあな」
彼女の言葉を無視するかのように背を向け、
再び歩き出そうとした時、
彼女が校舎を指さしながら言った。
「あれを…見て」
思わず、彼女の指の先を彼は見た。
彼が7年間過ごしたクラブハウスの窓から
大きな垂れ幕がかかっていた。
こみや先輩!ありがとうございました!
「あれ…寮のシーツをつなぎ合わせたの。
シマオとカッシーは、
しばらくシーツなしで寝るって…」
涙声だが、せいいっぱいの笑顔で彼女が言った。
クラブハウスの窓から、
さっきまで校門の前で彼を見送っていた後輩たちが、
ちぎれるほど手を振っていた。
その時、
一台の軽トラが彼の横に止まった。
「おう!カジ、悪いな」
「いいよ。乗れ」
運転席の友人に声をかけ、
彼は荷台に乗り込んだ。
ゆっくり走り出した軽トラの荷台から、
彼は、大声で叫んだ。
「…んな、きったねーシーツ、
窓からぶら下げるなよ。バーカ!
近所迷惑だから、やめろ!」
そう叫ぶ彼の顔は、
クシャクシャな笑顔だった。
…的な、夢を見た。
すげーな、おいら。
久々だ、こんなドラマみたいな夢。
脳が寝てないな…こりゃ。