雑記帳「目白で目が白黒」 -2ページ目

雑記帳「目白で目が白黒」

エディットハウス代表 岩中祥史のブログ

 私自身も、鉄道や歴史にはそこそこの関心はあります。しかし、「地理」ほどではありません。そして、気がついたのですが、この「地理」の世界にだけはいまのところ女性の浸食は見られないように感じます。



 女性というのは概して旅行が好きです。私は男性ですが、旅行は3度のメシと同じくらい好きです。テレビで少しでも興味を惹かれる映像を目にすると、すぐ、どこの話なのかということが気になり、わかると、すぐにメモします。いずれそのうち、自分の目で見てみたいと思うからです。手近に置いてある地図をめくり、その場所も確認しておきます。


目白で目が白黒


 小説を読んでも同じことをします。とくに、海外の翻訳ミステリーなどを読むと、もう大変です。読むときは付箋がマストアイテムですし、メモ帳やボールペンも欠かせません。許されるのなら、分厚い地図帳も用意しておきます。


 どんな作品もそうなのですが、かならずどこかの都市やリゾート地が舞台に設定されています。だれも知らないような小さな村や町で物語が終わっているときもあれば、複数の都市、いくつかの国々にわたっている場合もあります。


 すでによく知っている都市や国でも、作品によって、登場してくる場所は異なります。レストラン、バー、ホテル、商店、警察署、道路、細い路地、公園、川、橋、湖沼、港、空港、スタジアム、倉庫街、高層ビル、浄水場、森林、……。それをいちいち確かめながら読んでいくのです。


 小説ですから、何が出てくるかわかりません。でも、海外の小説の多くは、現実の場所を舞台に設定しています。そこに出てくる店なら店、道路の名前なら道路の名前など、すべてメモっていきます。これがまた楽しくてしかたありません。


 ロンドンにサビルロー(Savile Row)というところがあります。スーツやジャケット、ワイシャツなど紳士服関係の店が軒を連ねている、ごく狭いエリアです。明治の初め、日本人が初めてスーツを目にしたとき、そういう服をお国ではなんと呼ぶのかとたずねた日本人がいたのでしょう。質問を受けたイギリス人が、「このスーツはサビルローの店であつらえたんだ」という話をしたのではないでしょうか。


 それを耳にした日本人が、スーツのことを英語では「サビルロー」というのだと早とちりしたにちがいありません。たしかに、ネイティブの人が「サビルロー」と発音するのを聞けば「セビロー」と聞こえるでしょう。以来、日本語では「背広」という言葉がスーツの名称として定着します。


 そのサビルローの一角に「ターンブル&アッサー」という老舗のワイシャツ専門店があります。ワイシャツでは世界的に有名なブランドらしいのですが、そんなことは知る由もありません。私がこの店の存在を知ったのは、1冊のミステリー小説にそこが登場していたからです。


 もう20年ほど前になりますか、初めてロンドンに行ったとき、さっそく、サビルローに行ってみました。すると、本当に「ターンブル&アッサー」という店があったのです。このときの感動といったら……。店の前に立った私は思わず店の中に入り、ワイシャツを1枚買ってしまったくらいです(もちろん、オーダーではなくレディーメイド)。


 店の人にも、なぜこの店に来たのかを、拙い英語で話しました。それを聞いて、その店員が拍手喝采してくれたのはいうまでもないでしょう(といって、特別のサービスがあったわけではありませんが)。


 こんな発見が、世界中どこに行っても味わえるのは地理好きの特権ではないかと思います。そのこと自体、経済的な価値はまったくありません。ミステリー小説に登場してくる場所がすべて、観光ガイドに出てくるところばかりではないのですから。むしろ、自力で探し当てることに楽しみと喜びがあるのです。


 女性の場合、旅行というと、買い物が楽しみなようです。それと、おいしいものを食べることでしょう。もちろん、それが嫌いなわけではありません。でも、それにこうした発見がプラスされることで喜んだりするのは、男性だけではないかと、ひそかに思っています。


 そんなことを思っている私なのですが、今日から、「鉄男」くんならぬ「地理男(ちりお)くん」を名乗ることにしよう。「地理」など、役に立つかどうかということからすれば、それこそ「塵(ちり)」ほどの価値もないでしょうが、少なくとも好奇心を満足させてくれる材料には事欠きません。




 一昨日は、「街魅シュラン」の取材で小田原市に行きました。久しぶりに乗った小田急ロマンスカーは、箱根方面に行くグループでけっこう込み合っていました。近ごろどこの観光地に行っても感じることですが、リタイアした団塊カップル、それと熟年世代の女性グループばかりが目立ちます。皆、元気いっぱいです。


 お昼前に小田原駅に到着。ホームの上は総ガラス張りで、規模は及びませんが、ヨーロッパのターミナル駅を彷彿させます。日本とヨーロッパの鉄道、とくにターミナル駅の設計はヨーロッパのほうが断然優れているように思っているのですが、それに負けるとも劣りません。JRの小田原駅と一体ですから、コンコースも広くて明るく、着いただけで、日常から解放された気分を味わえます。


 小田原はもともと城下町。それもハンパな規模ではありません。一時期は関八州全域を治めていた北条氏の本拠地ですから、それも当然でしょう。その小田原城を1年がかりで、さまざまな策略を用いながら落としたのですから、やはり豊臣秀吉の強さはたいしたものです。


目白で目が白黒 象のウメ子


 お堀はきれいに整備され、満々と水をたたえています。復興してまだ間もない銅門(あかがねもん)をくぐると、天守閣はもう目の前。その登り口の前にある公園には、なんと象がいました。名前はウメ子といい、推定年齢はなんと62歳。国内では東京武蔵野市の井の頭自然文化園にいる象(こちらは「はな子」)と並んで、最高齢だそうです。象というのはなんとも罪のない顔をしているというか、可愛いこと、この上ありません。思わず、写真など、撮ってしまいました。


 翌日は、高校時代の仲間4人と箱根の山登りに挑戦しました。めざすは標高1213メートルの金時山。およそ2時間かけて登ったのですが、山頂に立つとなんともいえない爽快感を味わえます(天気さえよければ、富士山が、ホント目の前に見えるとか)。山登りなど、高校2年のとき会津の磐梯山以来。そのとき一緒だった仲間も1人いましたが、登りっぷりは当時と雲泥の差でした。


目白で目が白黒

 とはいえ、こういう自然満喫のレクリエーションもたまにはいいものです。あろうことか、「秋の紅葉の季節にまた来たいね」などという話までまとまってしまったほどですから、それぞれ心地よさを感じたにちがいありません。その夜は温泉につかり、ワインをしこたま飲み、おいしい食事を楽しみました。

 取材は取材で楽しいのですが、こうした、プライベートなイベントと合体させるのもテだなぁなどとひとり合点した次第。でも、明日、明後日あたり、足腰の筋肉に痛みを感じるのでしょうね。




 朝日新聞「街魅シュラン」の取材で、所沢市に行ってきました。西武ライオンズ球場がこの地につくられて以来、何かと注目を集めているから、存在感はたしかにあります。


 しかし、実際に足を運んでみるとガックリ度が大きく、驚いてしまいました。最大の理由は、所沢駅前の商店街の個性のなさにあります。商店街の名前は「プロペ通り」といいます。プロペというのは、プロペラに由来しており、所沢が日本で初めて飛行機が飛んだことにちなんだものだそうです。


 プロペ通りの左右にはびっしり店が並んでいますが、その9割以上が、全国チェーンの店。入口にあるマクドナルドから始まり、カラオケ、居酒屋、焼肉、ファストフード、レストラン、靴、コンタクトレンズ、コンビニなど、ほとんど知らない店は一つもないといった感じです。逆に、所沢の地元の店はほとんど皆無で、わずかにお茶屋さんと和菓子屋さんが一つずつある程度。


 だれがどのようにこの商店街をつくったのかわかりませんが、昔からあったとしたら、こうした店の並び方はしていなかったでしょう。駅の真ん前に立つのは西武デパートですが、西武線なのですからそれはいたしかたありません。でも、商店街にはもっと所沢らしさがほしいなと思いました。



目白で目が白黒 こんなに素晴らしい航空公園がある街なのです


 近ごろは、全国どこの駅前に降り立っても感じることですが、ホント似通っているのには驚いてしまいます。文字を見なければ、そこがどこの駅前なのか、判断できないのではないかという気さえします。


 地場の小さなお店がこうまでみごとに姿を消してしまうと、街の個性が感じられません。こういう「一律化」の街づくりの根本にあるのは、地元に人たちの気質や意識、あるいはその地の風土をきちんと考えていないということです。とりあえず、姿かたちがそこそこならそれでOKという、安直な姿勢が目に浮かんできます。

 これなら、同じ商業ベースにもとづいていても、東急線の沿線のほうがまだましかもしれません。