―2026年6月12日 01:20―
―アジア大陸モンゴル高原 超巨大母艦外装部―
多数の砲台や巨大生物で守られているはずの超巨大母艦の外装部は、不自然なほどまでに静寂に包まれていた。
しかし、EDFの総力を尽くしたジェノサイド砲とアルマゲドン・クラスター。及び衛星起動上に存在する超大型ジェノサイド砲による一斉攻撃である。全ての砲台と直衛についていたはずの戦力が無事なはずはない。
ほとんど敵のいないその場所を、イヅキ小隊の面々が駆けていく。作戦上では、別の部隊も別方向から突入する事になっており、全員がそれぞれのルートで中枢部の動力炉に向かうことになっている。
簡易レーダーシステムに増設されたナビゲーションシステムを頼りに突き進み、ついに内部へと続くゲートの一つを見つけた。
すでに一斉攻撃のあおりをくらってゲートの隔壁は吹き飛んでおり、そこには通路が一本。真っ直ぐに続いている。おそらく巨大生物などが通ることも考えているのだろう。縦幅も横幅も相当の広さがある。例えて言えば、地下鉄トンネルの6倍はあるだろうか。
「よし、行くぞ!!」
立ち止まることなく奥へと突き進む。
今回は最終作戦と言う事で、イヅキ隊員達の装備も一級品クラスのものばかりであった。
具体的に上げればAS‐99。ゴリアス99。スパローショットX。イズナーF。マスターレイピアTと言ったところである。
今回は作戦が作戦であるため、グレイ隊員やハルナ隊員も普段は使用しない武器を持ってきていた。好みよりも実用性重視のチョイスなのである。
「……隊長。前方に敵集団」
通路を突き進んでいると、不意にハルナ隊員が告げた。レーダーを見れば、正面から赤い点が一直線にこちらへ近づいている。
正面突破しか方法がないとは言え、なるべく無駄な消耗はしたくない。それを考慮にいれた上でイヅキ隊員は叫んだ。
「エリスさん、お願いします!!」
「あ、あれですね♪ わかりました~」
その言葉に頷くと、エリス隊員はその場で立ち止まり―――ずっと抱えて持って来ていた物を敵集団の方へと放り投げた。
「せぇぇぇぇぇいっ!!」
通路の奥で巻き起こる盛大かつ派手な大爆発。同時にレーダーの赤点が一気に消滅する。
かつて総司令部からエリス隊員宛てに届けられた切り札「トマホーク巡航ミサイル」の破壊力はジェノサイド砲に劣るとは言え、絶大なるものであった。
ちなみにただ投げただけなので、味方誘導と言った事故は起きないのは、ここだけの話だ。もし誘導システムをONにしてたら、全滅してだろうが。
「やっぱりエリスすげぇよな…」
「……いまさらだと思う」
あんなでっかい物を抱えて、ここまで走ってきた挙句。普通に発射するのと大差ない速度で投擲する。いつもながら、実にぶっとんだエリス隊員である。
さて正面の敵を撃破したイヅキ小隊達は、その後も巨大生物の襲撃を受けたが、ハッキリ言って向かうところ敵なし状態であった。仮にもEDFの精鋭チームである。装備の優良さを考えて、HARDレベルの敵が太刀打ちできるはずがないのだが…。
質より量を言う言葉があるように、敵の数は尋常ではなかった。
「……くそっ、なんて数だ…!!」
「…イズナーFとAS-99の弾幕で抑え切れない…」
リロードタイミングをずらした交互射撃で弾幕を張るものの、次から次に敵が押し寄せてくる。
「よっしゃ、リロード完了っ」
後ろからグレイ隊員の声が響き、ゴリアス99×2が火を吹く。爆発によって、敵がまとめて吹き飛び、少しながら敵の進撃が止まった―――かのように見えた。
「―――!!」
突然、足を止めた巨大生物の集団の背後から丸い姿をした物が幾つか、飛び出し、まっすぐにこちらへと突っ込んできた。今まで作者もすっかり存在を忘れていた(ォィ)ダンゴムシ型メカ・ギリオだ。
「ちっ」
攻撃が止まった隙をついてリロードを始めたのだが、逆にその隙を突かれた。グレイ隊員のゴリアス99もリロード中だ。
そんな中で、ハルナ隊員が前へと飛び出した。高速で突っ込んでくるギリオを紙一重でかわし、すれ違い様にマスターレイピアTを横から叩き込み、撃破していく。
しかし多方向に同時攻撃はできない。2体同時にハルナ隊員の脇をぬけようとしたギリオの一体は破壊されるも、もう一体が突破。そのままリロード作業を終えたイヅキ隊員達に迫る。
「……っ」
「せぇぇいっ!!」
ゴリアスを使うには、すでに距離が近くダメージを覚悟したが、それはなかった。
直前で間に割り込んだエリス隊員が絶妙なタイミングで蹴り上げ、真上にふっとばしたのだ。
そして落っこちてきた所を両手で受け止めると、大きく振りかぶって敵集団めがけて投げつける。
剛速球なんてレベルではない速度で飛ぶギリオは、もはや一種の砲弾と化しており、直線上の巨大生物を巻き込みながら飛んでいく。
「……うわぁ」
「た、隊長!!見とれてねぇで!!」
すでに見慣れたはずなだが、やっぱり何度見ても驚いてしまう。…が、グレイ隊員に突っ込まれ、すぐに我に帰った。
「はっ。いまだ、行くぞッ!!」
敵集団の真ん中に道が出来たのを確認すれば、AS-99やスパローショットX×2。マスターレイピアTなどを撃ちながら、正面に向かって強行突入を仕掛ける。
本来なら、慎重に進むべきなのだが、そうも言ってられない。今も外ではEDFの陽動部隊がインベーダーの大群と戦闘を続けているのだ。少しでも被害を出さないためには、少しでも早く進まなければならないのだ。
大量に現れる巨大生物の群れを、少なからずダメージを受けつつも突破してきたイヅキ小隊の面々は、だだっぴろい広間のような場所にたどり着いた。円形の東京ドーム程度はある広間で、無数の柱のようなものがたっている。ナビゲーションによれば、ここを抜けて、さらにいくらか突き進んだ所が中枢部のはずだ。
「………妙」
周囲を警戒しつつ、ハルナ隊員が言った。
中枢部に向かうルートを考えるなら、ここが最終防衛ラインのはずなのだ。そうだというのに、敵一匹姿が見えない。
「何かの罠じゃねぇのか…?」
「でも、それでも静かすぎますよ~?」
そこにあるのは不気味なほどの静寂だった。その静寂の中を、用心しながら足を進める。その進路の先にあるのは、中枢部へと続くゲートだ。
何も起きないまま、広間の中央までたどり着いたとき。―――それは突然に現れた。
不意に、携帯用のレーダーの画面が乱れ、何も映らなくなった。
「――っ。レーダーが―――?」
そして一瞬、柱の影から柱の陰に何かが走る。
「なんだ、今の?」
「…何かいますね」
やむなくその場で足を止め、全員で四方を警戒するイヅキ小隊。そこに謎の敵が、上から襲って来た。
「……!!上ですっ」
「「「!!」」」
いち早く察したエリス隊員の言葉で、散開。際どい所でその体当たりを回避する。そして敵の正体を見極めようと振り返ったところで、全員が凍りついた。
そこにいたのは新種の巨大生物だった。だが、見た目だけで全員を凍りつかせるだけの力を持った存在でもあった。
「………いつか出ると思ったが…」
ごくりと唾を飲む音が響き、脂汗が滲む。
「最後の守り…こいつかよ……」
「……どう見ても、アレ…ですよね」
「…ん」
今まで数々の強敵を倒してきたにもかかわらず、全員が怖気つく。
イヅキ小隊を怯ませるほどの強敵。それは黒みがかったテカテカとつやのあるボディに、ドラゴン・センチビートの頭部を彷彿とさせるヘッドを持った巨大生物であった。
コードネーム“G”
巨大でなくても「人類の敵」と呼ばれ、「黒い悪魔」の異名を持つ最凶の存在。
それが今、巨大生物と化して目の前にいる。
静寂が周囲を襲い、時間ばかりが過ぎていく。だが―――このままでは話が進まないので無理矢理戦闘に入ってもらうとしよう。
「…っ!?」
不意に“G”が羽を広げた。それに伴って、真っ先に我に帰ったのはイヅキ隊員であった。
「く、来るぞっ!?」
「…!!」
「うぉわぁっ!?」
「………っ」
その声で全員が正気に戻り、“G”のフライングアタックをかわす。回避後、すぐにイヅキ隊員がAS-99を連射するも、“G”はその弾幕を回避しつつ、柱の影へと隠れ、高速移動を再開する。
「早いっ!?」
「IMP地獄で鍛えられた俺の予測射撃を舐めるなよっ!!」
グレイ隊員がそう叫びながら、ゴリアス99を構え、高速で動き回る“G”へと発射した。
ゴリアス99から撃ち出されたロケット弾は、まるで吸い込まれるように“G”の進む先へと向かい爆発。爆風に吹き飛ばされ宙に舞う。
「まだまだぁっ!!」
さらに宙を舞う“G”に向かって、ゴリアス99を全弾叩き込む。空中リフティングと呼ばれる超高等テクニックである。
ゴリアス99の全弾を受けた“G”は、そのまま地面にポテっと落ち…。そのままピクリとも動かなくなった。
「………手こずらせやがって。さっさと行こうぜ」
ひっくり返って動かなくなった“G”に背を向け、イヅキ隊員達の方へと振り返るグレイ隊員。だが―――
「………っ。グレイっ。まだだっ!!」
「なっ!?のわぁぁっ!?」
死んだと思った“G”が、いきなり起き上がると、すさまじいスピードで突進。背中を向けたグレイ隊員を跳ね飛ばし、柱の影へと見えなくなった。
「グレイさん、大丈夫ですか!?」
「……と、とんでもねぇ威力だぞ、体当たりだけなのに…」
ふらふらとよろめきつつも、なんとか立ち上がるグレイ隊員。さすがは防御力とHPは小隊一の重装歩兵である。
「のんびりしてる暇はない。次、来るぞ!!」
「!!」
再び突進してくる“G”。それに対し、ハルナ隊員がイズナーFを連射。わざと柱を狙って乱反射を狙うが、その電撃を掻い潜るようにして迫る。
そこに何か強力な衝撃を受けて、真横にふっ飛ぶ真横から“G”。見れば、拳を突き出したエリス隊員の姿があった。
しかしエリス隊員の拳を持ってしても、“G”は仕留めきらなかったらしく、再び走り回り出す。
「…タフですねぇ…」
「“G”だから……耐久力もかなりあるんだろう。それでいてあの回避能力……厄介すぎる」
全周囲を警戒しながら、イヅキ隊員は考えた。
“G”を巨大化しただけあって、無駄に耐久値が高い。その癖、異常なほどの回避力と移動スピード。言うなれば、INFレベルのテラソラスの耐久値をもったエースファイターと戦っていると思えばいいだろう。
とは言え、方法はあるはずだ。どんなに耐久度が高かろうとマスターレイピアTがこちらにはある。張り付いて攻撃できれば問題はない。
しかし、そのためには足を止める必要がある。さぁ、どうする。どうすれば―――
「!!」
ふと閃いた。方法があった。ある意味、絶妙な精密さが必要とされるが……相手の回避を封じる手段が一つだけ!!
「みんな聞いてくれ。一つ作戦がある」
時折攻撃しようとする“G”に牽制射撃をしつつ、イヅキ隊員は自分の考えた作戦を告げた。
「……難しくはねぇけど…。そこまでうまくいくかわらかねぇぞ?」
「その辺の修正は、エリスさんに任せよう。決め手はハルナだ」
「わかりました。ハルナさんの方に送ればいいんですね?」
「―――了解」
「よし。いくぞっ。イヅキ小隊のチームワークを見せるんだっ!!」
「「「了解っ」」」
全員が散り散りにうごく中、グレイ隊員だけはゴリアス99を構え、じっと待つ。
「……そこだぁっ!!」
高速移動を行なう“G”の動きを読んだ予測射撃。しかし、“G”の回避能力はそのさらに上を行っていた。学習能力もあるのだろうか。直撃の瞬間でブレーキをかけ停止。その目の前をロケット弾が通り過ぎ―――
「いまだっ!!」
――ることはなかった。ロケット弾の進路上に突然ライフルの弾による弾幕が張られ、そのうちの一発が当たってロケット弾が不意に爆発したのだ。
爆発によって吹っ飛ぶ“G”。そこに再びゴリアス99の追撃が迫り、空中でリフティングされる。その間にハルナ隊員が飛行ユニットを使って、空へと上昇。さらに遅れて、地面を蹴って柱を蹴って跳躍したエリス隊員の姿が現れた
「――ハルナさんっ!!」
そのまま宙を舞う“G”に飛び蹴りをかまし、空中で待機するハルナ隊員の方へと軽く蹴り飛ばした。
ハルナ隊員は、それに合わせて“G”の上に飛び乗ると、マスターレイピアTを突きつけた。
「――これで終わり」
上に乗られ、そのまま下に落下。だが零距離でマスターレイピアTの照射を浴びつづけては、さすがの“G”も一たまりもなかった。
やがて巨大生物独特の断末魔をあげ、今度こそ動かなくなった。イヅキ小隊の連携攻撃が見事に決まった瞬間である。
「……よっしゃっ!!」
「なんとか勝てましたね」
「………ん」
「でも、まだ終わりじゃない。中枢部の動力炉を破壊しないと―――」
そこまで言いかけてイヅキ隊員の言葉が止まった。
「……嘘だろ」
「………ジョークなら笑えない…」
同時に気がついたハルナ隊員とグレイ隊員も唖然とした表情で立ち尽くす。
その視界の先には、新たに10体もの“G”が現れていた。一体でも苦戦した相手が、一度に10体である。
そして、状況はさらに悪化にする。中枢部へ続くゲートが閉まりだしたのだ。
「くっ、ゲートまで!?」
閉まる速度は遅いものの、“G”10体を相手にしてては間に合わうはずがない。さすがに焦りが見え始める中、不意にエリス隊員が言った。
「隊長さん。行ってください。ここは、私達で食い止めますから」
「……!!」
「ま、隊長が考えてくれた作戦使えば、勝てない相手じゃないしな。ゴリアスとスパロー一個ずつ持てば、隊長いなくてもなんとかなるぜ?」
「………ん。だから行く」
「…………みんな…」
全員の言葉に、イヅキ隊員は言葉に詰まった。だが、無駄な会話をする暇がないのもわかっている。だから――――ただ一言。こう答えた。
「――わかった。行ってくる!!」
そう言って、一人ゲートの方へと走っていくイヅキ隊員。やがてその姿がゲートの向こうに消えると、改めて装備をチェックし“G”10体へと向き直る。
「さて、ああは言ったけど。いけるのか?」
「……問題はない。ただ周りの邪魔が面倒かも」
「でも、隊長さんが中枢を落とすまでの辛抱です。それにイヅキさんならやってくれますよ」
「そりゃあそうだ。ちょっと平凡だけど、仮にも俺達の隊長だもんな」
「……それ。隊長が聞いたら、たぶん泣く」
「………禁句ですよ。グレイさん…」
「いねぇから大丈夫だって…。と、とりあえず……そろそろ始めようぜ。こっちも」
「はいっ。そして必ず隊長さんを迎えましょう!!」
「………がんばる」
互いに顔を見合わせ頷く。そして、三人は数を増した強敵へと向かっていった。
後編へつづく......
□えむ’sコメント□
かなりの長くなったにも関わらず、一つに収まらなくなったので分けます。
ちなみに、これだけでも普段の2倍というボリュームだったり(爆)
あえて細かいコメントは省略。もうすこしだけ、おつきあいくださいw