―2026年2月15日 9:50―
―東京 EDF日本司令部―
「あ、隊長さん。EDF本部から何か届いてますよ?」
「へ?」
相変わらずインベーダーとの戦況は五分五分という状況で、なかなか好転しないある日の事。エリス隊員が小包を片手に、イヅキ隊員の元へとやって来た。
さて、唐突ではあるがデジャビュという言葉がある。既視感とも言うそれは、なんか前にも同じような事があったなぁ~と思う、不思議な感覚である。そして今、イヅキ隊員はまさにそれを感じていた。はて、前にもこんなことがあったような?
送り主は、言うまでもなく、EDF本部。気になってあけてみると、中にはレコードディスクが入っていた。そう、あの黒くてまぁるいカセットテープ以前の代物。今じゃ下手すりゃ、すっかり存在すら知らない人もいるのではと言いたくなるような、骨董品級の記憶媒体である。
ラベルを見てみると、あたりまえのように『イヅキ小隊へ』と書いてある。
「………何かはよくかわった。とりあえずグレイとハルナを呼んできてくれないか?」
「あ、はい。わかりました♪」
「あと、レコードの再生機…持ってる?」
「うーん。私は持ってないですねー」
結局、その後。イヅキ隊員は再び街へと出かけて、レコードの再生機を探し回る羽目になったのは言うまでもない。
―2026年2月16日 10:24―
―東京 EDF日本司令部 ブリーフィングルーム―
「……それじゃあ聞くぞ?」
なんとかレコード再生機を見つけてきたイヅキ隊員が、針をレコードの上へと乗せると、例によって例の如く、エム総司令官の声が聞こえてきた。
『おはようイヅキ君。そして小隊の諸君、元気にしているかね?』
「「………」」
最初の出だしで、ずいぶん前だよな…、こういうことがあったのは…と思うイヅキ隊員達。ただ一人、エリス隊員だけは、やっぱりキョトンとした表情を浮かべている。
『さて、今回のミッションだが……君達の小隊には、敵の陸戦兵器ダロガの計測を行なってもらいたい』
「計測―っ?!」
なんじゃそりゃー?!とばかりに、驚くイヅキ隊員とグレイ隊員。
『そのとおり。身長や足回りなど、そう言った事細かな寸法を計測するのだ』
「………それが一体なんのやくにたつんだ…」
『なお、今回のミッションでも君。もしくは君の仲間の身に何かあったら、作者と読者が困るのでそのつもりで』
「………」
『以上』
そこでレコードが終わった。
「…どうすんだよ」
ダロガの大きさを測る。EDF史上前代未聞どころから歴史史上前代未聞の作戦内容に、ただただ唖然とするイヅキ小隊の面々。敵の兵器のサイズを測れという作戦なんか、いまだかつてどの世界のどの作品でもなかった事だろう。たぶん。
「どうすると言われても…。いや、まぁ方法はあるか」
「へ?」
意外にも、イヅキ隊員は冷静にそうつぶやいた。どうやら、考えがあるらしい。
「………どうするの?」
ハルナ隊員が尋ねると、イヅキ隊員は小さく頷いて告げた。
「作戦の鍵は、ハルナと――――そして、グレイだ」
「お、俺?!」
攻撃特化で足の遅い重装陸戦兵。敵を倒すわけでもない作戦で、なぜ自分が鍵を握るのか。グレイ隊員には、さっぱりわからない。
だが何か考えがあるのだろう。とりあえず、イヅキ隊員の次の言葉を待つ中、おもむろにハルナ隊員が告げた。
「……隊長」
「ん?どうした?」
ハルナ隊員は、じっとイヅキ隊員を見つめ、レコードディスクを指差した。
「……これ」
「はっ!?」
その言葉の意味するものをすぐに察した。そして、その対応の指示は電光石火だった。
『なお、このレコードは自動的に消「エリス、そのレコード外に投げろーっ!!!!」』
―同日 同時刻―
―同場所 食堂-
「……?!」
その日、食堂でのんびりと食事をとっていた一人の陸戦隊員は、外の方で何か大きな音が響き、基地が僅かに振動した事に慌てて席を立ち、窓の方へと駆け寄った。
一体何があったか、外の遠く離れた上空では何かが盛大に爆発した名残が残っていた。気がつけば、他の隊員も何人か空を指差している。
しかし、それがなんだったのか。それはイヅキ小隊以外にはわからないままであった。
―2026年2月16日 10:24―
―東京 EDF日本司令部 ブリーフィングルーム(健在)―
「前より威力が上がってたぞ、あれ?!」
空を指差し、血相を変えた様子で叫ぶグレイ隊員。
「……僕らを殺す気なんだろうか…」
普段は温厚なイヅキ隊員も、今回ばかりは本当にプチギレモードだ。
あの手の展開のお約束であるテープ消滅=爆発。前回の教訓から危機を回避することはできたが、それでもあの威力はやりすぎだった。爆発半径40m、威力数値は40000。史上最遅にして最強のミサイル。リヴァイアサンに匹敵していた。回避どころではない。確実にゲームオーバーである。
「危ないところでしたねぇ…」
普段はのんびりほややんなエリス隊員ですら、笑顔が引きつっていた。
「隊長……」
そんな中、それまで押し黙っていたハルナ隊員が、静かな声で口を開いた。いつもポーカーフェイスな彼女だが、いつかと同様に妙なオーラを纏っているように…見えた。
「……許可を」
当時は、まだ知り合って間もなかったのでわからなかったが、あれから様々な作戦や戦いを共にし、今のイヅキ隊員には、それが意味する物が何なのか……すぐにわかった。
「わかった」
「……了解」
小さく頷くハルナ隊員。そしてその後、この妙な作戦の準備のため、一旦解散する事にしたのであった。
―2026年2月16日 13:01―
―東京都内 某所―
ハッキリ言って、ほとんど敵なしなので、戦闘風景はごっそり割愛させて頂く。
さて、市街地に都合よく侵攻してきたダロガの部隊を殲滅し、残るは最後の一体となっていた。もちろん、残してある理由は計測のためである。
ここでダロガの行動パターンを考えてみよう。
実に簡単だ。敵を追いかけ、倒す。武装はビーム・機銃・ミサイルの三つ。しかし、それらは敵一体にしか使用されない。つまり一人が襲われている間は、他の人は安全と言う訳である。
と言う訳で、イヅキ隊員がとった作戦は次のようなものだった。
グレイ隊員を囮にして、その間にハルナ隊員がメジャーで測るというものである。
「またか?!また俺は囮役なのか?!」
「出来るのは防御力と耐久力が高いグレイだけなんだ。それに相手を動かさないためには、一箇所に留めておかなきゃいけないし。そうするには、囮役も動かないでもらわないといけないし。大丈夫。この作戦のために、開発部から試作アーマーのEDFプロテクトギア
を持ってきたから」
「そういう問題じゃねー!!」
「あ、そういえば余ったゴリアス-SSSを一つ譲ってもらう予定だったな」
「ふっ、俺に任せれくれ」
やはり餌につられるのは、どこの誰でも一緒らしい。
その後、グレイ隊員がダロガの気を引いている間に、ハルナ隊員がダロガを計測。それによって得られたデータは言うまでもなく、本部へと送られたのであった。
しかし、同時に思う。
ダロガの寸法なんか測って、一体どうするのだろう…と。
~おまけ~
―2026年2月18日 10:01―
―北極地点上空 EDF総司令本部 総司令官室―
「………失礼し―――?!そ、総司令?!ど、どうされたのですか?!」
「………い、いきなり……ホーリー……ランスで……。…ぐふっ」
「き、気をしっかり?!だ、だれか!!救護班をっ!?!」
なお、このEDF総司令暗殺未遂事件の実行犯は今も不明。真相は完全に闇の中である(マテ
□えむ’sコメント□
EDF研究機関で開発されていた雨先隊員さんのEDFプロテクトギアを使わせていただきました。ありがとうございます。
えー、ダロガ計測作戦で得られたデータは、言うまでもなく有効活用させていただきます。
しかし―――アレは本当に痛かった(滅(ぇ 死ぬかと思った。やっぱり、ちょっとお茶目が過ぎたかなぁ(汗