当時、私が勤めていたクリニックは、場所柄もあってか基本的にはお年寄りの患者さんが大半を占めていた。

そんな静かな空間の中で、彼は明らかに異質な存在だった。

年齢は私と同世代。いつも泥や汗の匂いを感じさせる作業着を着ていた。土木関係の仕事なんだろう

お年寄りばかりの受付において、同世代の彼の姿は自然と目についたし、何回か受付の対応をしているうちに、お互いに顔と名前はしっかりと認識し合うようになっていた。

そんなある日のこと。受付にやってきた彼が、フッとぶっきらぼうに小さな包みを差し出してきた。

「これ、あげる」
手渡されたのは、いちご大福が一つ。

「仕事先の近くに有名なお店があったからさ。嫁に頼まれたついでに買ってきたんだよ」

彼はそう言って笑った。他のスタッフ全員へのお土産ではなく、明らかに私「個人」に向けて手渡されたものだった。

「嫁のついで」という言い訳を用意しながら、私だけを狙い撃ちにしてくるそのスタンスに、私の胸はわずかにざわついた。

そして大福と一緒に、彼は自分の名刺をそっと私に握らせてきた。
そこには、彼の携帯番号が手書きで書き添えられていた。
翌日、私はもらった名刺の番号宛てに、大福のお礼のメッセージを送った。

すると、送信ボタンを押して間もなく、彼からすぐに直接電話がかかってきたのだ。

画面に表示された見知らぬ番号を見て、受話器をとる私の指先が少し震えた。

冷静に考えれば、私はすでに毎週の深夜、本命の彼(K)と完璧な逢瀬を重ね、がっつりと不倫の沼に浸かっている身だ。
いまさら誰と連絡をとろうが、罪悪感など覚えるはずもない立場。

なのに、なぜだろう。

作業着を着た彼と繋がったその瞬間、私は「何かものすごく悪いことをしている」ような、妙な背徳感に襲われたのだ。

そしてその罪悪感の裏側で、Kとの安定した関係では久しく忘れていた、
心臓が跳ね上がるような激しい胸の高鳴りを感じている自分もいた。

電話口で、私たちは本当に他愛のない世間話をした。
彼の少しぶっきらぼうで、でもどこか必死な声が耳の奥に響く。

その電話の翌日、彼からまた次のメッセージが届いた。
完璧にコントロールしていたはずの私の日常に、泥のついた作業着の男が、じわじわと、けれど確実に踏み込もうとしていた――。

興味を持ってくださったら、質問、感想など
コメントしてくださるとうれしいですラブラブ
いいねもお待ちしております
チュー