『もし僕の身長がもう少し高かったら。もし僕の顔がもう少しハンサムだったら。もし僕の髪の色がブロンドだったら絶対、あのステイシーをプロムに誘えるのに・・。神様!お願いだ。僕の願いを叶えて下さい』
星の輝く満月の夜、部屋の窓からそう願ったピートに突如、赤い炎の様な光が空から舞い降りて来た。
『ハロー!僕は天使のジェモ。君の願いを叶えてあげるよ』炎はやがて少年へと姿を変えた。
腰が抜けそうになるピート。
『僕は天使さ。君が呼んだからわざわざ、遠い星からやって来たのに。用がないなら帰るよ!まだヨークシャプディングを食べている最中なんだから』
恐る恐るその少年に問いかけてみたピート。
『じゃぁ、キミが本当に天使だというなら、今すぐ僕の願いを叶えてみせろよ!嘘なら警察を呼ぶからな』
それを聞いて呆れ果てる天使。そしてこう忠告した。『最初に言っとくけど、この魔法は一ヶ月しか効力がないからね。幸運を祈るよ!ではおやすみ』
そう言い残すと、また赤い炎となり夜空へと帰っていった。
深い眠りへとつくピート。そんな彼の部屋の窓からは、夜風がカーテンを揺らしていた・・。

卒業式前の最後のフットボールの試合。QBのデュランが残り1分、見事逆転TDパスを決めてみせた。『誰よ?あのQBは』『転校生らしいわよ』『卒業の一ヶ月前に?』『でもかっこいいじゃない!?背も高いし、イケメンでブロンドだし』
そんなチアガール達の声が聞こえたのか、彼がスタンドへと歩み寄ってきた。
『良かったらこの後、ロデオドライブのカフェでも行かないかい?』
デュランはチアガールの中で一人、はにかんで見惚れていたステイシーを選んだ。               するとスタンドの女性たちからは一斉にブーイングの嵐が!
しかしそれを無視して、強引に彼女の手を引き、グランドを後にしたデュラン。
翌日のランデル高校では、そんな二人の話題で持ちきりだった。そして誰一人として最近、姿を見かけなくなったピートサリバンの事など忘れて・・。

数日後のサンタモニカ。夕日に染まるメリーゴーランドに腰掛けるデュランとステイシー。時はゆっくりと雲の隙間を流れていく。日が沈むにはまだずっと、早い気がした。すると彼は突如、彼女にこんな事を言い出してきた。
『もし僕の姿が本当は、もっと背が低くて、ダサい顔で髪もブラウンだったとしても君は僕の事を愛してくれたかい?』

目を丸くしたステイシーは驚いた。そして笑顔でこう答えた。
『まるで魔法にでもかかってる様な言い方ね。でも容姿なんて関係ないわ!だってあなた自身を愛しているんだもの。でももし、その魔法が解けたとしても、そのシャンプーの香りだけは残しておいてね。魔法が解けた後も、あなただって事に気付けるようにね』
そんな二人はキスを交わした。まるで互いの心を確かめ合う様に何度も・・。

そしてプロムの夜が訪れた。『さぁ、今夜は弾けようぜ!』
司会者の一声で、会場の熱気は一気にMAXへと・・。
様々な思い出が甦ってくる。これで高校生活も最後になるのか。
数時間後、照明が暗くなると曲は<JUST ONCE>へと変わった。
優しくステイシーの手をとったデュラン。チークタイムの曲の間中ずっと、彼はこんな事を思っていた。′ずっとこのままでいられたらな′
幸せそうな二人。しかし時計が深夜0時にさしかかった時、急に悲劇が二人を襲った。
『キャー!何でピートが目の前にいるのよ。デュランはどこ?』
照明が明るくなると、彼女の目の前には誰もが忘れかけていた、あのピートサリバンが立っていたのである。
『僕がデュランだったんだよ!やっぱり僕じゃ駄目なのかい・・!?』
泣きながら会場を出て行くピート。そして出口の扉を開けた彼は、夜空へと向かってこう叫んだ。
『天使の嘘つき!一ヶ月だけは魔法が解けないって約束しただろ!?。あと少し、あともう少しだったのに・・』
すると物凄いスピードで、またあの赤い炎が舞い降りてきたのだ。
『だからさ、またヨークシャプディングを食べてる最中に呼ばないでくれないかい!?約束は守ったよ!ただ今月が31日まであるって知らなかったんだ。先月は30日までだったし』『どうしてくれるんだよ!』
『人のせいにするなよ。人生とは、自分で道を切り開くものなんだから』
地面にしゃがみ込むピート。そんな彼にジェモは優しく、ウインクをした。

『まぁ、もうすぐクライマックスが訪れるさ。幸運を祈ってるよ』
そう告げるとまた、遠い空へと帰って行ってしまった。
泣きじゃくるピート。そんな彼の肩を背後から、一人の女性が抱きしめた。

『信じられないわ!本当に魔法にかかっていただなんて』振り返るとそこには前と変わらない、笑顔のステイシーが立っていた。
『こんな僕でもいいの?』
『シャンプーの香りが同じじゃない!約束は守ってくれたのね。さぁ踊りましょ』

 僕はずっと幼なじみのステイシーの事が好きだった。もう自分に、劣等感なんて抱かない!

そして最後に一言。彼女が好きで良かったと思う・・。