第六回 歌 | <幻想世界・冒険小説>  -EDDA-

「私たち一族に与えられた・・・使命」


私は、大老様の言葉を繰り返すように小声でつぶやいた。

しかし、頭の中を駆け巡っていたのは、別の言葉だった。


<ありのままを受け入れるのだ・・・確かに、お前は死んだ>


私自身もあの時、『死』を確信した。

それを『ありのままに受け入れる』とは?

・・・さらに、大老様が仰ったこと・・・あれは一体?


<今再び、お前はここに、『誕生』した・・・>


自分に向けられた言葉の真意を理解できず、苦しむ私の心情を静めるように、

大老様の『声』となった族長ラダンが、その自慢の優しく響き渡る美声で歌唱を始めた。

自然と、そこにいる皆が節を合わせて口ずさみ、厳かな合唱となった。


この歌は、私達一族にとって、最も重要であると同時に、非常に親しみ深いものだ。

授名儀式をはじめ、様々な節目ごとに必ず歌われる。

また、子守唄としても、童謡や遊戯唄の一つとしても唄われる。

いつの代においても、例外なく一族全ての人々に伝えられている。


ただ『歌』といえば、この『歌』の事を指す・・・そんな歌だ。


しかしこの『歌』には、ふたつ、不可思議なところがある。

子供のころは妙に気になっていたのだが、指摘する人も他におらず、

大人に聞いても納得のゆく答えを得られなかったため、次第に記憶の

片隅にしまわれていた・・・。

私も一緒に口ずさむうち、十数年ぶりに、この疑問が思い起こされた。


ひとつめ。この歌には『題名』が無い。

「『歌』といえば、この『歌』を指す」というのは、この理由の故に、

いわば逆説的にそうなったとも言えるように、私は思うのだ。


ふたつめ。この歌は、歌詞の『意味』が明らかにされていない。

そもそも、歌唱の部分は『歌詞』といえるものなのだろうか?

次々と、複雑に変化するリズムを彩る声唱・・・歌の最後を締めくくる、

『ラダン』と聞こえる部分以外には、具体的に何もつかめない。

一度、この事をバクタ爺に問い詰めた事があったが、爺も本当に

知らない様子だった。

いつしか私は勝手に、この歌を、代々の族長ラダンの讃歌だと思い込んでいた。


私の身に起きた事、大老様が仰った言葉、一族に伝わる『歌』、そして『使命』。

これら全てをひとつに結びつける『真実』が、あるのだろうか?


一族の歴史と秘密が、明らかにされようとしている・・・身震いするような想いと共に、

『歌』は、『ラダン』の名を高らかに謳い上げて終わりを迎えた。


「エッダ」


大老様の意思が、族長ラダンの声を借りて、私の名を呼んだ。


「一族の物語は、おそらくは、お前の物語であろう」


その一言は、私の心を大きく揺さぶった。目眩すら覚えるような感覚が襲う。

ただただ、次に話される言葉を待つしか、私にすべは無かった。


                                   

                                            <了>