アメリカでは2月の第3月曜日(今年は2月18日)が「大統領の日」- 歴代の大統領を称える日ということで、小学校のカリキュラムにもこの日にちなんだ学習内容が組み込まれているようです。
昨日息子(小2)がプロジェクトの宿題を持ち帰ってきたのですが、それは「歴代大統領の1人になりきって皆の前でプレゼンテーションをする」というもの。プレゼンは2月なのでそれまでにスピーチ原稿を書いたり、コスチュームを用意したりと色々準備を進めていかなえればいけないので、「ご家庭でもご協力お願いします」と先生からのプリントを持って帰ってきた。
どの大統領のプレゼンをするか、というのは、歴代45人の大統領の中から、クラスで平等にくじ引きで決めたのだそう。そして息子が引いたのは、第17大統領、アンドリュー・ジョンソン。
誰それ?と思ったらしいけど(私もそう思った)、歴史に興味がある息子はこのプロジェクトにすごくワクワクしていて、帰宅するとさっそくYoutubeや子供用の歴史ウエブサイトなどで調べることに。
調べると色々なことがわかり、彼はリンカーン時代に副大統領だった人で、リンカーン暗殺後大統領になった人物でした。リンカーンがやり残した南北戦争の戦後処理を行った、というのが彼の大きな役割だったそうですが、色々な理由から歴代ワースト1とも言われている大統領なのだそう。
その大きな一つの理由は、それまで続いていた奴隷制を廃止し党内でも多数が黒人解放・奴隷制廃止の方向に動いていた時に、ジョンソンは奴隷制廃止を唱える議会と対立し、大統領の議会拒否権を29回も行使して、奴隷制度を続けることを主張したからだそう。
子供が読む歴史のサイトにもこういう事がわかりやすく書いてあるので、息子はこれを読んだ時点で表情が曇り、「こんな大統領になりたくない。」と泣き出しそうな雰囲気。
私がそこで
「でも南北戦争が終わってほしいと願って頑張ってた人なんだよね。」
と、なんとか無理矢理良い所に目を向けさせようとしてももう遅い。彼の中では奴隷制度を推進していたという事実が本当に許せないようで(マーチンルーサーキングJr.の休日もあるので、幼稚園の頃から奴隷制度の歴史についてもきちんと学校で勉強しているアメリカの子供)、
「この宿題やりたくない!」
とかなり腹を立て始めたので、ひとまずこのプロジェクトからタイムアウト。後でお風呂に入っていた時に、
「オバマとかリンカーンとかジョージ H. W. ブッシュがよかった」とぼそりつぶやく息子。(ストライクゾーンが随分広いな)
息子は昨年亡くなったブッシュ大統領の国葬のラジオ中継を私と一緒に聞いていたのですが、息子のブッシュ大統領の弔辞を聞いてすごく感動し、「いいお父さんだったんだね」と彼のファンになっていたのです。(理由が実に子供らしい。)
確かに45人もいる中で歴代ワースト1と言われている大統領になるのはかわいそうだから先生に事情を説明して変えてもらおうかなと思い、スティーブンにも相談してみた。すると
「そのままでいいんじゃない?どっちみち完璧な大統領なんていないんだし。事実を伝えるっていうのも大事だと思うよ。『そのことを私は後悔している』、みたいな感じでプレゼンするのもありだし。それに、もし変更してもらえたとして、次に当たったのが第二次世界大戦中のトルーマンとかだったら、それこそ日本人の彼にとってもっとつらいんじゃないの?そうなったらまた変えてもらうの?」と
確かにね。
でも息子はまだ不機嫌。「そんなひどいことをした人物になりきって発表はしたくない」の一点張り。
結局この問題は保留のまま朝になり、朝ごはんの時息子に再度聞くと、
「やっぱり嫌だ。」
と言うので、
「じゃあ母さんが先生にメールして相談してみるね。」
と伝えた。
でもスティーブンのいう事も正しいし、しかもこれって「自分が与えられた課題とどう向き合うか」という根本的な問題にも関わることだしなあ…とも思ったり。
ただ今日は一日忙しく、先生にゆっくりメールする時間もないままお迎えの時間となってしまったので、迎えに行った時に
「ごめんね。まだ先生にメールしてないよ。」
と言うとなんと息子、明るい表情で
「やっぱりこのままでいい。今日学校で調べ学習をしたんだけど、彼が少しだけためになることをしたのもわかった。でも奴隷解放をやめさせたのは許せないからそのことはちゃんと言う。」
と答えたじゃないの。さらに
「ジョナス(息子の級友)が当たった大統領もバッドガイだったんだって。だから僕の大統領だけが悪者じゃないから。」
だってさ。良かった。急いで先生にメールしなくて。
それにしても。
歴史を勉強するってこういう側面にぶつかることでもあるよね。
私も今回のことで興味を持ち、奴隷制度という点にだけ注目して少し調べてみたら、過去には10人以上の大統領が奴隷を所有していたということを知った。その中には600人以上も所有していた大統領もいる(第2代大統領トーマス・ジェファーソン)。ちなみに息子の担当、アンドリュー・ジョンソンは8人だったそうです。
どこの国にも、今聞くとあり得ないことが当たり前だった時代がある。権力や財産のある人達ほど自分達の所有物(それが奴隷であった時代もあった)を守ることに必死で変化を好まない、というのは、どの国でもどの時代でも同じだな。
でも勇気を出して「これはおかしい」と声を上げた人がいて、そこから何かが少しずつ変わってきたこともたくさんあるし。
出来事は1つでも人によって、所属するグループや社会によって、国によっても捉え方が随分違ってくるのが歴史だけど、歴史から学ぶことって本当に多くあるので、それがより良い未来を築くことにつながるといいなと思う。
これは息子が描いたリンカーン大統領。