まさに「前代未聞」だ。
レンジャーズ入りするダルビッシュ有(25)が24日に行った記者会見は、札幌のファンに感謝の気持ちを伝えたいという本人の意向で実現したもの。門出にふさわしい前向きな言葉が並ぶかと思ったら、クチから出てきたのは「もともとメジャーには行きたくない。行くなら野球をやめますと昔、言いました。いまもその気持ちはそんなに変わっていません」という衝撃のセリフだった。
過去に海を渡った選手のほとんどは、メジャーへの憧れを口にした。イチローや松井秀も、例外ではない。ところが、ダルは、メジャーには行きたくない。「行かなきゃいけないのかなという感じ」と表現したのだ。本来なら日本でやりたいが、メジャーでやるしかないと言いたいのである。
ダルは「相手バッターを倒したいという強い気持ちで向かっていくのが好きだし、それが仕事だと思っている」とも。日本では5年連続防御率1点台をマーク。勝つのが当たり前になって、「モチベーションがなくなってきた」。アスリートとしてさらなる高みを目指したいという欲が、メジャー嫌いの気持ちを上回ったのだ。
<絶望>
「能力があるのに自分に甘い人、だらしない人、目標に向かっていこうとしない人、そういう人が大嫌いなんです。イライラする」
かつて、ダルはこう話していた。言葉通りならば、日本を出ていくのも必然といえるだろう。
「相手から試合前に(自分の球を)打てないとか、無理だとか冗談でも聞いて、フェアな対戦をしていないのではないかと引っかかっていた。だんだん周りから(メジャー行きを)求められているのかな、と」
と寂しそうに話したダル。打者を打ち取るのが仕事でもあるにもかかわらず、肝心の相手は戦う前から白旗を揚げているのだから、ダルの絶望は計り知れないだろう。
ダルが本気で戦える相手は、もうメジャー以外にいないのだ。
<カネ>
ダルが「メジャーに行くしかない」理由のひとつはカネだ。かといって、この日の会見で「(契約の)内容とか金額とかはそんなに気にしていなかった」と話したように、メジャーの高額年俸が目当てではない。
レンジャーズとの交渉が難航していた時、ダル側は日本ハムに残留することも考えたという。
だが、日ハムが昨季5億円だったダルの年俸をこれ以上上げるのは不可能。かといって、現状維持のまま投げさせるのもダルと球団、双方にとって無理な話だ。「残ってくれるなら10億円まで考える必要がある」という大社オーナーの発言も、実際に10億円を用意するのではなく、それだけダルを評価しているという意味だ。そもそも日ハムには、ドラフトで獲得した選手を育成して勝つという、カネをかけないチーム方針が根本にある。
ダルが「メジャーに行きたくなかった」のは本音でも、本人と周囲の事情がそれを許さなかったのだ。