お気に入りの万年筆
修理してでも使いたいとのお客様へ
朗報をご紹介
岡崎・籠田公園隣りの竹内文具店(岡崎市伝馬通1、TEL 0564-21-0864)で5月21日・22日、「万年筆クリニック」が行われている。
セーラー万年筆(本社= 東京都江東区)のペンドクター川口明弘さんを迎え、同クリニックを開くようになって7年目。店長の竹内さちよさんは「例年2日間で150人くらいの人が万年筆を持参する」という。
川口さんは現在64歳。セーラー万年筆を定年退職し、嘱託社員として引き続き全国各地を回り万年筆の修理・調整をしている。「瀬戸内寂聴さんが持っている20本近い万年筆はすべて私が調整した。作家さんや医者など万年筆の愛好者が多い。福岡県で開催しても北海道からわざわざ来てくれるようなケースも少なくない。日本中回ってやっているのにね。私の追っかけは男性ばかり」
「修理をするようになったのは1980年代初めごろから。約30年かけて延べ10万人、約20万本の万年筆を修理してきた。たった20万本だよ。日本中にまだ眠っている万年筆が何千万本もあるんだよ」と話す。今も年間60回、各地で呼ばれてはクリニックを開いているという。
川口さんは1947(昭和22)年生まれ。デザインの勉強をするため京都の専門学校に進んだが、家の事情で呉に戻り鉄工会社に就職する。工場勤めをしながらも絵を描き続けていたところ、その絵をセーラー万年筆の社員が偶然見つけ気に入り、入社するよう働きかけてくれたという。
セーラー万年筆は1952(昭和27)年、本社を東京(当時中央区日本橋茅場町)に移したが、創業は広島県呉市。1911(明治44)年に日本初の万年筆や金ペン、画びょうや文房具類の製造販売をしたのが始まり。同社の社員が呉にいたとはいえ、川口さんの絵を見つけ気に入ってくれるというのは全くの偶然だった。
入社した川口さんは最初の6~7年は万年筆の軸に模様を付ける版下デザインを担当していたという。その後、よりよい製品開発のため全国の文房具店を回り消費者のニーズを直接聞き、製品作りに励む。形状ばかりでなく材料選定にも関わり「当社の75周年・80周年記念モデルは私が中心になって開発した」
しかし、ボールペン、サインペンなど安くて取り扱いしやすい商品が次々と普及するにつれ万年筆は衰退の道をたどる。同社も万年筆以外に安くて高機能なペンを数多く発売しているが、川口さんはこう話す。「便利な道具と万年筆が違う点は2つある。一つはペン先に金を使っているため高級品であるという意識を所有者が感じているという点。軸にも貴重な素材を使っていればさらに高級感は増す。そのため、代々人の思いを受け継いでいるという点が最も違う」と川口さん。
「私のクリニックにはご主人や父の形見だと言って万年筆をお持ちになる方がたくさんいる。書けなくなった万年筆が書けるようになると、ボロボロと涙を流して喜んでもらえる。何千人とそういう人と出会ってきた」
クリニック前日にもかかわらず来店した客にも笑顔で修理に応じる川口さん。1時間ほどの間に日進市在住の60歳男性や碧南市在住の18歳学生が万年筆を持って訪れた。書き心地がよくなり感激していた様子。
日進市から訪れた男性は「会社で契約書にサインすることが多くなり、ボールペンでは重みに欠けると気付き2カ月ほど前から万年筆に凝り始めた。自分に合ったものを見つけようとペン先のタイプの違うものを7本買いそろえた。名古屋の専門店で書き具合の相談をしたところ川口先生が岡崎にいらっしゃると知り、前日だがこちらの店をのぞいてみようと、仕事途中に思わず東名高速を下りて来てしまった」と興奮気味に話す。
期間中、同社の絶版商品「HOSCAL」を販売する。川口さんが開発した万年筆で、当時の定価5,000円だったものを、交換用インクカートリッジとレターセット付きで2,500円で販売する。
「万年筆は作家や医者のように普段から使うのもいいが、せめて気持ちを込めて書くときくらいはボールペンなどと使い分けては」と話す。川口さん自身が60歳定年時に開発した赤い軸の万年筆は還暦万年筆として好評を博した。その理由は団塊世代というマーケットに合わせたタイミングだったことに加えて、「会社を辞めるとね、手紙を出したくなるんだ。そのときにボールペンというわけにはいかないでしょう」と成功の要因を振り返る。
人が「万年筆で、書きたい」という思いは今回の震災などのような場合、より高まるようだ。被災地の人を思いやって手紙を出そうという場面に加え、「被災地では形見が出てくることも多い。使えなければ直したくなる。使えるようになって書いてみると、元の持ち主の書いていた筆跡や情景が浮かんでくるから」。そうして思い出を残していく。
料金は無料(交換修理が必要な場合のみ、部品代は実費)。同社以外の万年筆でも調整する。
営業時間は9時30分~18時30分。第3日曜定休