対談の抜粋に基づく要約になります。
尚、この両者の対談について、池戸万作氏が小林慶一郎氏の意見について批判的な立場で動画をアップしていました→文藝春秋での小林慶一郎を論破
以下は両者の意見のまとめです。
1.国債は将来へのツケなのか
小林
国債は将来世代からの前借りで、いずれその金は返さなきゃいけない。これまでのように日銀が買い支えられるうちはいいけど、もし将来において例えば制御できないようなインフレが起きたら、将来世代への大きな負担を残すことになる。
中野
中央銀行は通貨を創造できる存在なので、国債を買い支えられなくなるなんてことは起き得ません。
国債は将来の増税で償還しなきゃいけないと思い込んでいるから「将来世代へのツケ」だと誤解するのです。国債の償還は、増税ではなく借換債の発行によって行うべきです。
2矢野次官が言及すべき議論
小林
①「日本は自国通貨建てなのでデフォルトは起きない」はその通り。
②「財政赤字の拡大は金利の高等を招くことはない」も現状では名目金利は日銀が長期金利も含めてコントロールできるようになっているのでおおむね正しい。
③「財政赤字の過剰が制御不能なインフレを起こす可能性は低い」・・・その低い可能性をどう見積もるかが財政問題の焦点である。
中野
(③について)財政赤字が制御不能なインフレを起こす可能性はない。なぜ財政赤字が増えてはいけないのか?
小林
通貨への信認が失われる。借金をしすぎて返せないレベルに達してしまえば、国民の側が「返してもらえないんじゃ、日本国債はやめてアメリカ国債にした方が確実だ」と逃げてしまう。最後は国債を日銀が買うしかなくなるが、そうなると円がどんどん市場に漏れて、制御できないインフレになる怖れがある。
中野
過去に財政出動しすぎて通貨が信認を失い、制御できないほどのインフレになった具体例があるのか?
小林
変動相場制かつ自国通貨建てだけの債務でイパーインフレになった例はあまりない。
中野
「あまり」ではなくて「ない」のだ。
小林
第一次世界大戦後のドイツはハイパーインフレなどは、マルクの信認が失われた
中野
あれは財政出動のし過ぎによるのではなく、戦争で供給網が破壊され、さらにフランスなどによルール炭田を占領され供給不足になったから起きた
小林
何かのきっかけで通貨の信認が失われるケースもありうる
3.政務債務の限界はあるか
中野
財政出動しすぎて通貨への信認が失われたケースはない
小林
日本の対GDP比債務残高はすでに未曽有の領域にあるが、これが何%になると国家が破綻するのか、理論的な限界は分かっていない
中野
わからないのも当然。そんな限界はない。通貨を発行する政府は債務不履行にはならないが、「財政赤字はインフレを招くおそれがある」ということは、財政の限界は対GDP比債務残高ではなくインフレ率で判断すべきだということになる。
この場合のインフレは、石油危機や不作など供給面に起因するインフレではなく、需要の過剰によるインフレ。日本が20年以上もデフレだったのは財政赤字が多すぎたのではなく少なすぎたのである。
ところが財務省は、この20数年間、借金が増えるからといって財政出動を渋り続けた。増税までやった。結果、戦後の先進国で唯一日本だけがデフレになり、今は7人に一人の子供が貧困という国になってしまった。
4、財政出動でデフレ脱却はできるか?
小林
財政出動は需要の穴埋めであり一時しのぎである。
中野
財政再建派ですら財政出動はインフレを起こすと認めている。財政出動で需要が供給を上回れば、企業は需要の獲得を目指して設備投資を行うし人も雇う。それで賃金も上がるから消費も増える。こうして民間の投資や消費が増え続ける軌道にのったら、その段階で財政支出の拡大は不要になる。
小林
財政出動は一時的な効果しかないはずで、財政出動を止めればGDPは落ちてしまう。日本の場合、90年代から財政出動をやっていたが、なかなか効かなかった。
中野
効かなかったではなく足りなかったのだ。財政再建派は財政出動しすぎたらインフレになると言うのに、実際はデフレだったのだから、足りなかったということだ。
小林
財政出動すれば民間が成長するという理論的根拠が見当たらない
中野
理論的根拠はある。ポストケインズ派の成長理論もあるし、主流派のサマーズ、クルーグマン、ファーマン、イエレン、スティグリッツ、ブランシャールなどの大物経済学者たちが財政出動による経済成長を主張している。
5アメリカは財政拡大路線
中野
財政出動でデフレ脱却や阻止に成功した例(ニューディール政策、高橋財政)はいくつもあるが、財政出動なしで民間主導でデフレ脱却できた例はあるか?
イエレンは「低金利、低インフレ、低成長のときに国民を救済する財政出動をすると短期的には大きな赤字となっても、結果的には債務の比率を下げる」と言っている。日本は、そのアメリカよりもさらに低金利、低インフレ、低成長。しかも20年以上も前から。
小林
日本のように20年もデフレが続くことは原因も分からないし、それを財政出動で解決できると主張する経済学はない。
中野
元・米国経済学会会長(国際通貨基金のチーフエコノミスト)も「日本は低金利だから、国債を増加させても対GDP比債務残高は緩やかに低下する」と指摘。財政出動が財政を健全化する。
6岸田政権の分配政策
小林
日本の長期停滞の背景には、経済格差や不確実性の問題があるのでそこを分配政策で是正していこうとするのは正しい。
中野
私も正しいと思う
小林
その為に増え続ける借金を放っておいていいのか、というところで意見が異なる。対GDP比債務残高が上がり続けるのは国民が国債のかたちで政府に大量のお金を貸したままで死ぬのが普通という不合理な状態だから、永続するはずがない。
中野
その意見は「自国通貨建て国債はデフォルトしない」という合意と矛盾する。「政府が自国通貨建て国債を発行して財政支出を行う」ということは、単に政府が通貨を創造して供給しているだけということ。実は、国民が政府にお金を貸しているわけではない。お金を発行できる政府がそのお金を国民から借りなきゃいけないという方が不合理だ。
小林
それは理解できない。
お金の発行量はいくらでも増やせるが、信認を失えばお金の価値は暴落する。
中野
20年以上にわたりデフレ下で財政再建を旗印に、財政支出を抑制し、増税したらどうなるか。経済は停滞し、政務債務はかえって膨れ上がるとММTは予測した。そして、今の日本はММTの理論通りになった。
小林
少なくとも借金が増え続けていることに対して、日本の財政への信認が失われないような国民が納得するストーリーが必要だ。
以上です。
追記
池戸万作氏の「脱成長派の斎藤幸平氏」に対する批判も参考にして下さい→「斎藤幸平 VS 池戸万作 脱成長か成長か?」
小林氏の主張の根底に、国債についての勘違いがあります→勘違いの原点「国債は国民預金で買っている」