日本の賃金が頭打ちになって久しい(1)。巷では、「大企業の景気が良くなっているので、これから賃金が上がるだろう」という楽観論が存在しているが、私はそうは思わない。

 

理由は内部留保と日本企業特有の雇用システム、そしてデフレマインド、更に経営者マインドだ。順番に見ていこう。

 

内部留保とは、粗利益の中から納税をして、株主配当金を支払い、固定費(家賃、水道光熱費、人件費、減価償却費)を支払った後に残るものだ。その内部留保は近年増減を繰り返しているが、全体としては増加傾向にある(2)。断っておくが、内部留保自体が悪いのではない。問題はその額だ。内部留保は今や500兆円近くにまで達している。そこまで増やすにはどうすればいいか。簡単な話だ。人件費と設備投資を可能な限り減らせばいい。如何に設備を限界まで使い続けるか、或いは社員に長時間低賃金労働をしてもらうかになる。いわば、内部留保とはダムのようなものだ。放流すればダムの貯水率は下がる。しかし、放流しなければ貯水率は変わらない。そこに雨が降ればさらに貯水率は上がる。また、人体に例えることも出来る。それは脂肪だ。人体は運動によって脂肪を燃やす事でエネルギーを生み出している。運動しなければ、脂肪はそのままだ。そして食事を続ける限り脂肪は増え続ける。脂肪を減らすには運動をするしかない。企業の内部留保は、結局それと同じなのだ。よって、粗利益から得られる内部留保には一定の規制をかけなければならない(内部留保に回せるのは粗利益のうち一割のみ、など)。そうすれば、余った分は自ずと人件費(給与)或いは設備投資に向かう事になる。

 

日本企業特有の雇用システムについては別の記事で紹介する。

 

デフレマインドと経営者マインドについては分かりきっているだろう。戦後復興から始まり、高度経済成長期を経て日本はバブル景気に至った。そこまでは良かった。しかし、バブル崩壊後、日本企業(企業の規模不問)の経営者は軒並み弱腰になってしまった。保身を図ったのだ。つまり、権利と権益と権力と地位とお金は欲しい、異性にモテたい、しかし、責任と義務は負いたくない。このようなマインドに日本企業の殆どの経営者がなってしまった。これでは、経済成長など到底望むべくもない。ノーリスク或いはローリスクでハイリターンのものなど経済にはないからだ。詐欺話以外。

 

更に言えば、日本企業の経営者たちは「労働者は同時に消費者である」という経済の基本原則をすっかり忘れてしまっている。昔から「衣食足りて礼節を知る」の諺がある通り、十分生活していけるだけの生活基盤があって、初めて人は夢を語れるのだ。だからこそ、人は生活費を得るために働くのだ。

 

【参考記事】

(1)平均給与(実質)の推移(1年を通じて勤務した給与所得者)

(2)企業の内部留保(利益剰余金)の推移 【図解・経済】内部留保の推移(2018年9月)