克服すべき課題

課題も多い。洋上風力開発において最大の課題は地元理解だ。設置されれば付近の海域での漁業に影響が懸念される。海岸線を王室が管理する英国と異なり漁業権のある日本では英国ほどすんなりとはいかず、政府の調節に期待せざるをえない。また、現在の日本では太陽光発電の開発が重視されてきたため技術的に未熟な部分が多い。技術開発が急がれる。浮体式では海岸からの距離が遠くなるためメンテナンスが難しく、長い送電線が必要になってくる。コスト面での問題は多い。
 発電を支える風は弱点でもある。風車には定格風速があり、それを大きく超える風速時では故障する場合がある。神栖発電所の風車では定格風速13m/mに対し運転停止風速は25m/mとなっている。
 出力に変動が大きいのも欠点である。発電を風に任せている風力では風速によって出力が太陽光と比べても大きく変動してしまう。需要と供給を合わせなければならない電気にとってこれは致命的であり、調整力の大きい火力などに調節役を任せなければならない。この対策として風車の構造(風速の強さに関わらず出力を平滑化する)の改善などが実施・研究されているが大規模に風力を導入することでこれを緩和することができる。なぜなら風は場所によって異なる為多くの風車があれば各発電の山谷が均されるからである。実際デンマークなど大規模導入を成功させている国もある。勿論他の再エネで検討されているように蓄電による平滑化も可能だ。

新技術
九州大学では新型の洋上浮力が研究されている。九州大学は環境省より事業を委託されており、「風レンズを核とする革新的中型・小型風車システムの導入に関する技術開発」を同大学の応用力学研究所が行っている。右の写真は昨年12月博多湾に設置された試験機だ。
 
直径18m程度の試験機では2基の風車と太陽光、さらに蓄電地を備え複合洋上発電ファームとしての機能を有している。風車の出力は各3kw。風レンズと呼ばれるこの風車ではそのレンズ部分により通常より風を強くプロペラに吹かせることができるため従来の2,3倍の出力が見込まれ、弱い風での発電も可能にしている。将来的にはこれをつなぎ合わせ大規模洋上発電ファームの建設を考えている。

エコタイム(社説)

 「どうすれば日本の特性を活かした環境先進国になれるか」を日々考えている。今回の洋上風力はその一つに成りうるかもしれない。記述の通り日本は世界第6位の排他的経済水域を持つ。電力不安が続く日本でこれを活かさない手はないだろう。経済の低迷する日本においては雇用創出にも役立つ。ドイツの場合雇用創出数は10年で1万8000人とも言われます。
 ただ心配なのは漁業への影響だ。現状では報告が(調べた限りでは)なかったが大規模導入においてもこれがそうであるとは限らない。日本の特性を活かすのであれば漁業を無視することは出来ない。綿密な調査のもと地元理解の上で開発すべきだ。日本には魚だけでなく場所によってはクジラなど海洋ほ乳類もやってくる。その場所が開発されるかは分からないがそういった生態系への影響も考慮されなければならない。
 洋上風力は未だ開発余地のある未来ある発電だ。今は海外に遅れをとる分野だが日本の技術力を遺憾なく発揮し開発していって欲しい。しかし、忘れてはならないのが何のために開発するのかだ。日本は少子化が進み人口は減少し続けている。持ち前の省エネ技術と相まって消費電力は減少していくだろう。今は脱原発などを考え電力が必要だろうがそれを建前にむやみな開発をすべきではない。必要十分ですますこと。節約できる電力は削っていくこと。これを忘れず開発していって欲しい。
日本でつかめ!


 日本でも既に洋上風力が利用されており、その代表例が茨城県神栖(かみす)市にある。海岸沿いに並ぶ7基の風車には60mの高さに40mの羽根が備えられ、ゆっくりと回っている。日本初の本格洋上風力発電と言われるここは“ウィンド・パワーかみす風力発電所”といい1基の定格出力(連続稼働状態での出力)2000kw、7基で1万4000kwを生産し、約7000世帯が年間に使用する電力を賄っているらしい。(1世帯の使用電力は5000~6000と言われており、これが正しければこの発電所では3850万kw/hの電力を年間で生産できるということになる)またこの事業を行う〈株式会社ウインド・パワーいばらき〉ではこの7基につづき茨城で8基を建設中で2013年3月にフル稼働させる計画だという。茨城県以外に北海道・山形県の3ヶ所で着床式は稼働している。技術開発も進んでいる。日立製作所はダウンウインド洋上風力(風下側にプロペラがある)として世界初となる5000kw級の開発に着手した。2014年度に実証実験を開始し、翌年度内の発売開始を予定する。ダウンウインド型は風が吹き上げる丘陵地帯において発電量が多くなり、洋上風力でもこの特性が生かせる(かみす発電所の風車も同型)。同社は2000kw級のダウンウインド約70基の受注実績を持つ。富士重工から風力発電事業の譲渡を7月に完了し、トップシェアを目指す。

 浮体式では長崎県五島列島中部の椛島(かばしま)の1km沖に2012年6月9日に環境省が試験機を設置した。100mの海底にチェーンで繋がれる浮体式だ。8月から実証実験を開始しており、平成28年度に2MWの実用化(民間ベースでの事業化)を目指しての実験で今回建てられたのは高さ60m(半分は海中)出力100kwだ。日本は浅瀬が少なく着床式では設置面積が限定されてしまうため浮体式に期待がよせられる。実験は来年度まで続けられる。経済産業省も福島県沖での実用化を目指す。経産省に委託された丸紅(英国での洋上風力に参画)など10社と東大は実証実験に取り組むことを2012年3月に正式発表。2020年度までに100基以上の風車を建設し、原発1基に相当する100万kwの発電を目指す。浮体式による大規模発電は世界初。総事業費は5000億円規模とみられる。13年度には7000kw級(三菱重工)2基による実験を開始。将来的には世界輸出していく思惑だ。実証実験を計画し地元理解のため説明会が開催されている。

 環境省の調査では太陽光発電が1億5000万kw、▽地熱発電が1400万w、陸上での風力発電が2億8000万kwなのに対し、洋上風力発電はいずれをも大きく上回る15億7000万kwの発電ポテンシャルがあるとされている。環境省が出した新目標では2030年までに2010年度実績のの約270倍である803万kwの洋上風力を目指している。再エネ全量買い取り制度はこの助けとなるのか。

上の写真は茨城県の神栖(かみす)発電、下が五島列島で実験機を設置している様子



Ecological Times Project ~今日のエコは明日の環境、そして未来へ~-神栖発電
Ecological Times Project ~今日のエコは明日の環境、そして未来へ~-五島列島
着床式と浮体式


 洋上風力とひとくくりで言っているがこれには2種類ある。浮体式と着床式だ。浮体式というのは海に浮かべる風車のことで、錘などで係留されている。着床式は海底に固定されており、地上の風車と近い構造をしている。それぞれには表のような違いがある。着床式の方では現在の所水深の浅い(日本での実用基では15m)所にしか建設できない。これはあまりにも深い場所ではコストが見合わないという経済的な問題による。逆に浮体式では水深に制約されないので当然着床式に比べ設置可能面積は広い。しかし、技術的に未完成な点が多く送電やメンテナンスなどにコストがかかってしまう。そのため浮体式は国外で2基、実験用に稼働しているほか国内で1基が長崎県で2012年6月に実験が開始されたという程度である。


洋上風力の現状


 未来の発電だと考える人もいるだろうが洋上風力は既に実用化されており、英国が発電量でトップを走りデンマークと続く。現在英国では8GWの発電を行っており、英国のエネルギー・気候変動省(DECC)は、英国東部の北海に面するノーフォーク州沖での洋上風力発電施設2か所の新規建設を承認した。これにより、英国で稼働中、建設中及び承認済みの洋上風力発電容量は、合計6.6GW(うち稼働中は1.9GW)になった。この両ファームの発電容量は1GWを超え、約73万家庭分の発電能力を持ち、事業投資額は約30億ポンド(9月1日レートで3720億円)にのぼる。2011年に発表された英国再生可能エネルギーロードマップでは、2020年までに最大18GWの洋上風力発電施設を建設することとしている。
 一方、同じくノーフォーク州沖で計画されていた風力ファーム1件については、EU指令に基づく保護区内の海鳥(サンドイッチアジサシ)生息地への悪影響が懸念されるとして、建設申請が却下された。
 英国のエネルギー・気候変動省(DECC: Department of Energy and Climate Change)のヘンドリー大臣(エネルギー担当)は、「新たに承認した2つの風力発電事業は、クリーンエネルギーのみならず大きな投資と雇用も生む」と語ると同時に、政府が野鳥個体群への影響など、エネルギーと経済以外の問題にも配慮したことを強調した。
 英国では大陸棚などを王室の資産であるとしており、これをクラウン・エステートが管理する。そのため国の一存で洋上風力の開発がし易いという理由により英国は洋上風力いおいてトップについている。さらに英国の周囲にはバンクと呼ばれる浅瀬が広く存在するため開発に向いた土地であった。



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