本日のTBSサンデーモーニング、「東日本大震災 あの日から10年」特集でした。そのほとんどを、福島第一原発事故の検証に充てていました。未だ事故の全貌さえつかめず、廃炉の道筋さえ見えない暗澹たる状況ですが、大変勉強になりました。

 あの原発事故で、北海道唯一の原発である泊原発から30㎞圏内に住む私は、居ても立ってもいられなくなり、仲間に呼びかけて「泊原発を止める会」を立ち上げました。福島第一原発の近くで無農薬野菜を作っていた畑に放射能の灰が降り注ぎ、将来を悲観した有機農家が自殺したというニュースも聞きました。原発の安全神話は完全に崩壊し、黒澤明監督が『夢』という短編映画集で、福島の事故より20年も前に映像で描いていた浜岡原発の爆発事故と同じような夢を、私も本当に見てしまい、心臓の鼓動が高まりました。学生時代から「反原発」関係の本はたくさん読んでいましたが、それは主に放射性廃棄物の処理問題を主眼とするものでしたから(それは現在でも変わらない事実)、まさかこのような過酷事故が日本で起こるとは考えていなかった私は自らの認識不足も恥じ、原発の問題点について改めて勉強し直し、福島第一原発事故が何故起こったのかということについても、たくさん勉強しました。事故から2~3年は熱心に学び、集めた資料は今でも段ボールに3つも4つもあります。

 事故当時、東電はしばらくの間、原子炉内のメルトダウンは起きていないと発表しましたが、次々と水素爆発が起こって制御不能に陥り、最悪の場合、東京を含む東日本で2000万人が避難しなければならない事態も想定されました。当時の管(かん)首相が、福島第一原発から避難しようとした東電職員を叱り飛ばし、決死の覚悟で最悪の事態を回避するよう命じたのも当然のことでした。

 しかし、今日の番組で初めて分かったことは、津波で総電源が喪失しても、東電職員が正しく対応していたならば、このような過酷事故は防げた可能性があるということであり、1号機から3号機までのメルトダウンの連鎖、そして1号機と3号機に加えて休止中だった4号機までもが水素爆発してその後の事故処理を困難にしたことは、事故の対応が的確ではなかったことに大きな原因があるということでした。実際には、爆発の起きていなかった2号機でもメルトダウンが起きており、爆発せずに水蒸気と共に建屋から漏れていた2号機からの放射能が、最もたくさん大気中にばらまかれたのでした。 

 原発事故の後、私は大津波による電源喪失を想定しなければならなかった東電が、そのことを国会でも追及されながら対策を怠ったことが原因だと考えていました。国会で追及された当時の安倍首相(第一次安倍内閣)も、原発には何重にも安全対策を施してあり、そのような対策は必要がないと答弁していたのです。もちろんその対策を怠ったことはもちろん完全な過ちでしたが、他にいくつもの対策を怠っていたことが、今日の番組で10年目にして初めて分かりました。皆さんは知っていましたか?

 今日私が初めて知ったことは、最初にメルトダウンが起きたと考えられる一号機には、電源を完全に喪失しても原子炉を水蒸気によって自動的に冷却できる特別な装置がついていたということです。しかし、その装置は建設されて以降、試運転を定期的に行うことを怠り、誰もその装置が正常に作動しているかどうかを確認する術を知らなかったということでした。そして、その装置は地震により配管が破断し実際には冷却ができていなかったにも関わらず、誰もそのことに気付かなかったのです。

 そして、さらに悪いことには、正常に冷却できていない場合には原子炉内で燃料棒を冷却している水の水位が下がり、そのことが水位計で分かるはずなのですが、この水位計に重大な欠陥があり、実際には水位が下がっているのに、実際より高く水位が表示されてしまっていたため、東電は水位は正常なのでメルトダウンが起こるようなことにはならず直ちに危険ではないと発表し続け、手遅れになってしまったのです。実際には原子炉内の燃料棒メルトダウンはもとより、原子炉を溶かしてメルトスルーまで至っており、燃料デブリがどこまで達しているのか、未だに何も分かっていません。そして、この水位計の問題は、世界最初の原発重大事故である1979年のアメリカのスリーマイル島原発のメルトダウン一歩手前に至った事故の原因となったものであり、日本はそこから何一つ学んでいなかったのです。そのことにも唖然とさせられます。

 そして、福島の事故までは世界唯一の原子炉破壊に至ったソ連のチェルノブイリ原発事故ですが、そこで学んだのは、過酷事故を防ぐためのベント(格納容器内で異常に高まった圧力を下げるための排気装置)の重要性のはずでした。そして、福島でもベントによって建屋内の圧力を抜く作業をするにはしたのですが、通常電源も非常電源も喪失して簡単にはできず、苦労して手動でようやっと開けたところまではよいのですが、1号機ではベントで外部に放出するはずの水蒸気が建屋上部に逆流、3号機も逆流が起きてその一部は4号機にまで流れたために、1、3、4号機で水蒸気爆発または水素爆発が起きたということなのです。1997年のチェルノブイリ事故からも何も学んでいなかったことになります。非常用の設備を備えていながら、事故など起こるまいと思い込んで、実際に起きた時のマニュアルが何もなかっというのですから、もう話になりません。

 そして、一時的な停電は想定していても鉄塔が倒れて外部電源の復旧が望めず、自家発電用の非常電源も津波をかぶり役に立たず、ヘリコプターで海水を撒いたり消防車で水を注入したりしましたが、ほとんど途中の配管の途中から漏れていたらしく、冷却すべき原子炉には届いてはいなかったようなのです。焼け石に水とはこのことです。原発の全電源喪失の危険については、アメリカが9.11の同時多発テロの後に、指摘していたことだったのですが、日本はそこからも何も学びませんでした。

 原子炉の水位計やベントの改良、そして過酷事故を想定したデブリキャッチャーなどの設置は、欧米では当然のこととしてやっているのですが、日本では原発事故後世界一の安全基準にしたと言っていますが、そのような設備の義務化はされず、以前の原発のまま小手先の対策強化のみで再稼働しています。

 福島の原発事故が起きるまで、日本では何も対策をしないままに安全神話がばらまかれ、それどころか絵にかいた餅に過ぎない夢のような核燃料サイクルや、CO2を出さないクリーンなエネルギー、最もコストの安いエネルギー、地下資源のない日本にとって必要不可欠なエネルギーというような、嘘八百が巷に喧伝されていました。あの事故で、それらの神話(=虚偽)から解放されて然るべきでした。

 ところが、あの福島原発事故があって10年してもなお、電気事業連合会が俳優の石坂浩二などを起用して、相変わらず原発バラ色のコマーシャルを流しているのを見るにつけ、この日本という国は、何という愚かな国なのかと思わざるを得ません。原発は、即時に停止しても電力は足りています。少なくとも北海道では、天然ガス発電や風力発電などが増えて来たので、原発止まったままでも、もう余っています。事故の危険性は全く考えずとも、廃棄物の処理のことを考えただけでも、一日も早く全世界の原発を停止し、廃炉に向けて全精力を注ぐべきです。コストを考えても結果的にそれが一番安くつくことは明白です。

 原発再稼働絶対反対、全原発を直ちに停止し廃炉に!