「緩速と急速と比べないで」と言われ、遠慮してきたが、比較しないと伝わらない。SDGs 誰一人も取り残さない持続可能の社会のために
緩速ろ過は生物の活躍で安全でおいしい水ができる。 2020-6-29
図1:上田市は1923(大正12)年から横浜の浄水場を参考にして染屋浄水場を建設。建設当時のろ過池が一池、配水池、管理所建物が現存している。1953(昭28)年から神川の表流水取水を開始し、濁り水対策で混薬槽、沈殿池を新設。原水が濁ると凝集剤を添加した。また、ろ過池での藻の繁殖対策として、硫酸銅、前塩素も添加するようになった。

図2:東京都に境浄水場が1924(大12)年に完成し、水源の村山貯水池で1929(昭4)年から硫酸銅を散布するようになった。大阪の柴島浄水場は1914(大3)年に完成し、1930(昭5)年から取水した原水にろ過前に、硫酸アルミニュウム、塩素、硫酸銅を薬注し、ろ過池での藻の繁殖抑制をした。1969(昭44)年から急速ろ過へ変更。

図3:ろ過池前の導水路に生物が嫌がる薬剤を添加すると、ろ過池で生物が活動できなくなり、水源貯水池で繁殖した針珪藻などが砂層を目詰まりさせ、砂は深くまで汚れた。
日本の水道界のリーダーたちが生物処理である緩速ろ過を誤解していた。

図4:上田市の場合、原水濁度(実線)は、降雨などで急激に濁るが、菅平高原の火山灰土壌の流出の影響がある石舟浄水場では沈殿池で濁りは沈みにくいが、ろ過池流入水濁度(破線)は5度以下になる。

図5:凝集剤を添加しないなら、ろ過池の砂層表面で藻が繁殖し、藻を食べる微小動物も活躍する。しかし、凝集剤を添加すると、ろ過池の水の濁りは無くなるが、砂面の藻類被膜の上は白い粉を撒いたようになり、生物群集が活躍しなくなる。凝集剤の添加を中止すると、再び、藻の光合成活動が活発になり、砂層内での生物も活躍しだす。

図6:上田市で殺藻剤を添加していた当時のろ過池の目詰まりとろ過池への流入濁度負荷を調べたところ、生物活性が良い6月でも、少しの濁りで目詰まりしていた。それは、水面が凍結する厳寒期での目詰まりよりも激しかった。

図7:麒麟ビールは醸造工場を新設する際に、剣崎浄水場(1910(明43)年から稼働)の水質が良いので、高崎市にお願いし1964(昭39)年に若田浄水場(最新の濁り対策として凝集剤添加を追加)を建設してもらった。ところが、凝集剤を使うと、この水道水は醸造に使えないと苦情がきた。そこで、凝集剤の添加を止めたら、醸造に使ってくれた。ろ過池の砂層内で微小生物が活躍し、溶けている物質まで吸収し分解しておいしい水になった。

図8:上田市では厳寒期、ろ過池は目詰まりをする。ろ過池水面が凍結することがない若田浄水場では、一年中、目詰まりはしない。(ろ過抵抗の指標:標準ろ過速度4.8m/dの場合に換算した損失)上田市では原水に凝集剤を入れるとろ過池流入水濁度は小さくなる。
水温が5℃以下で水面が凍結する時期は、生物活性が悪くなり、水の粘性も大きくなるのでろ過抵抗が増える。凝集剤を使わないでもろ過池流入水の濁度は10度以下である。

図9:2016年版の維持管理指針ではろ過池流入水濁度は10度以下になるようにとある。上田市は石舟浄水場でも染屋浄水場でもろ過池流入水濁度は、凝集剤を添加しないでも常に10度以下。それなら、生物が嫌がる凝集剤添加の必要はない。

図10:ろ過池の水の流れは上から下で、砂が動かない。微小生物が餌を求め砂層上部に集まり、入ってくる濁りを捕捉し、分解する。溶けている物質も微小生物が体表面から吸収し、食物連鎖で、分解が進む。
濁り物質は砂粒子の表面に吸着する。砂層上部で細菌などの粒子も除け、ろ過水濁度は小さくなる。しかし、生物が活躍しない急速ろ過では溶けている物質は除きにくい。

図11:上田市は緩速ろ過のろ過水濁度は常に0.000度だが、戦後、勧めてきた急速ろ過では、ろ過池は直ぐに目詰まりするので、砂を搔き混ぜ汚れを除く逆洗という行程があり、その際に、濁りなどがどうしても漏出してしまう。
水道水は、水道法第4条の規定に基づき、「水質基準に関する省令」で規定する水質基準に適合することが必要がある。水道水の水質基準項目の基準値では、一般細菌:1mlの検水で形成される集落数が100以下、大腸菌:検出されないこと、濁度:2度以下、と定められ、更に、水質管理目標設定項目と目標値として、濁度:1度以下、とある。

図12:水道法に基づく水質検査:定期の水質検査(施行規則第 15 条第 1 項)では、 検査頻度 :1 日に 1 回以上:色、濁り、消毒の残留効果、1 月に 1 回以上:水質基準の基本的項目(一般細菌、大腸菌、TOC、Cl-、pH、濁度等 9 項目)、3 月に 1 回以上:基本的項目を除く水質基準の全項目(51項目)とある。水質基準以外にも水質管理目標設定項目と目標値(27項目)もある。浄水場では常に流れている水を浄化処理をし、直ぐに給水している。検査結果が出る前に、私たちは、既に水道水を飲んでいる。多くの水質検査は不完全処理の急速ろ過のためか?分析機器メーカーのためか?

図13:クリプト事故後、平成19(2007)年 水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針がだされ、「ろ過池出口の水の濁度を常時把握し、ろ過池出口の濁度を0.1度以下に維持すること」とあり、水道水がクリプトスポリジウム等に汚染された可能性のある場合には、浄水場か らの送水を停止する等の措置を講じた上で、浄水処理の強化を行うか、または、「汚染されているおそれのある原水の取水停止・水源の切り替え等を実施すること」となっている。
急速ろ過池の各ろ過池出口で常に濁度0.1度以下を保つには、転勤する公務員では維持管理できない。そこで専門技術者に委託せざるを得なくなった。水道管の老朽化で、水道管を更新しているが、それは、急速ろ過では濁りや凝集薬剤などが通過し管路内に蓄積するからである。自然の水脈は汚れない。緩速ろ過の配水池や水道管は汚れていない。
急速ろ過は緩速ろ過の水質と比べ水質が悪いと知り、各家庭では蛇口に浄水器をつけだした。蛇口のフィルターに濁りが多量に入っているのがわかり、急速ろ過の浄水場では高度処理をするようになった。

図14:長野県企業局の諏訪形浄水場の取水口が、丸子町の下水処理場の排水口から約1㎞上流の同じ左岸にある。クリプトスポリジウムの汚染のおそれが常にある。そこで高度処理をし、浄水池も増設している。
新しい凝集剤、活性炭、膜処理、電気設備、機械設備は次々と開発されている。急速ろ過の設備は、約10年で全面的にその時の最良の薬品、設備に更新する状況になっている。急速ろ過の浄水場は借金が多い。

図15:1974年、アメリカのコンシューマーレポートで「飲み水は安全か?」と塩素添加で、発ガン性物質生成リスクを取り上げ、塩素添加が必要ない緩速ろ過の見直しが始まった。このレポートでアスベスト管での発ガン性リスクも取り上げていた。この翌年から、日本の水道管メーカーはアスベスト管の製造を中止した。1993年のアメリカでクリプトスポリジウムの大規模集団下痢感染の翌年1994年、アメリカ水道協会は緩速ろ過の研修を行った。家畜から水様便と一緒に排出されたクリプトスポリジウムは殻を被って休眠状態になり、塩素殺菌でも死滅せず、急速ろ過の処理を通過した。腸管が長い、哺乳動物だけが感染をするので、世界中で、緩速ろ過が注目されだした。

図16:急速ろ過による事業体は施設更新が頻繁に必要で借金だらけである。地方では1戸当たりの水道管が長く、水道管の敷設、維持管理に莫大な経費がかかり、水道料金は高くなる。小規模分散で緩速ろ過施設なら安価である。

図17:東日本大震災(2011.3.11.)で、施設が壊れなかったのは、緩速ろ過施設であり、震災のリスク回避からも、緩速ろ過の小規模分散連携が好ましいと緩速ろ過の施設の見直しが始まった。大震災では、広域で急速ろ過の施設は被害を受け、機械更新、大規模配管の修理が必要になり、改修工事が間に合わなかった。
岩手県大船渡市、第一浄水場(1,500m3/日、昭和29(1954)年供用開始)は、河川表流水取水だが、凝集剤を入れないでも、ろ過閉塞しないので、凝集剤を一切使用しなくて大丈夫であった。東日本大震災で被害が生じていると思い、ろ過池を更新した。しかし、コンクリート亀裂は一切なかった。市内の埋設管(総管路計:258km)は、耐震管でないが浸水区域で主に橋部分など地表にでている場所が10カ所程度に破損があった。

図18:東日本大震災では、多くの急速ろ過施設では地上の建物、精密機器、機械は被害を受けた。緩速ろ過池は地中にある単純なコンクリート構造物の中に砂と水が入っているだけなので、震災で全体が揺れたが、亀裂は入らなかった。なお、空中写真は水道局職員が自分でドローン撮影をしたものである。

図19:上田市は、阪神淡路大震災(1995.1.17.)後、ライフラインの確保のため、緊急時に水道水を確保するために5カ所の緊急連絡管で接続した。また、上田市は県営水道の給水地区への給水も検討していた。

図20:上田市の一つのろ過池のろ過面積は780m2。標準ろ過速度4.8m/dでろ過するなら、(780m2 X 4.8m/d =) 3,744m3/d(一人1日0.3m3を給水するなら約12,000人へ給水可能)できる。染屋浄水場には13池、石舟浄水場には5池ある。18池の17池使うなら、一日に63,648m3/dの給水能力で、一人1日に0.3m3使うなら、212,160人分の給水能力がある。英国テムズ水道は、水質を良くするためにろ過速度を倍の9.6m/dにしている。仮にそれを採用するなら、40万人分以上に給水可能になる。
高崎市の剣崎浄水場と若田浄水場ではろ過能力に余裕があり過ぎ、ろ過速度を遅くしていたが、ろ過水水質を良くするために、現在はろ過池を休ませ、稼働しているろ過池の数を減らし、ろ過速度を標準にするようにしている。高崎市水道局ではろ過継続を長くし、砂面の削り取り間隔も長くしたので、浄水場の維持管理経費を相当に削減できると考えている。

2019年6月5日朝日新聞「ひと」⇒6月8日高石市市会議員「光明池の水質が緩速濾過には適さないほど悪化し、急速濾過に設備更新には約70億円必要、浄水場閉鎖。全て淀川からの水に切り替える」と相談。JICA広島の研修後に7月4日信太山浄水場を視察し、解説をした。その所見を泉北水道企業団へ2019年11月27日提出した。
図21:貯水池の底から取水した水を一旦貯める着水槽に、過去に薬注していた管(黄色丸)があった。本来、ろ過池水深は約1mのところが1.7m位あり、砂層がほとんど無かった。砂層を削り取り後、補砂が不十分であった。

図22:砂層の厚みが不十分だが、ろ過水濁度は、クリプト対策指針の0.1度以下であった。
そこで、信太山浄水場には下記の3つの課題があり、下記の対策で問題は解決すると推察されると報告した。
①取水は表面水取水でなく、底または中間層取水である。
⇒酸素不足の水を取水することがある。⇒酸素不足になると還元物質が生成され生物毒になる。
②緩速ろ過池は1月間程度でろ過閉塞する。
⇒生物毒が入ると、生物群集の活躍が鈍る。⇒還元物質がろ過池で酸化し沈殿してろ過閉塞の原因になる。    ⇒削り取り作業が頻繁になる。
③ヨコエビなどが砂層を通過する。
⇒酸素不足の水がくると移動できるヨコエビなどは必死で逃げる。逃げる方向は良質のろ過水の方向である。
①の対策として、着水井でエアレーションをすることで還元物質が酸化沈殿し、ろ過池の②と③の問題も解決し、ろ過水濁度も良くなる。エアレーションは、家庭用浄化槽の曝気装置1台で十分である。
また、ろ過砂を補砂して水深を1m以下(理想は50㎝位)にする。砂は、高価な基準の砂の必用はなく、0.5~2㎜程度の粒径で、安価な砂(川砂でも海砂でも構わない)で十分である。業者に注文し洗ってもらう。
信太山浄水場は昭和35(1960)年から60年間、作り替えず、機器もほとんど更新していない。薬品を使わない浄化施設であるから、配水池、給水管内に析出物質がほとんどないハズだ。管路もきれいなハズだ。つまり、管路の老朽化も生じにくい。急速ろ過で浄水濁度2度の基準の水を給水していた管路内には析出物が付着している。

図23:急速ろ過の技術革新は速く、電気機器や機械はほぼ10年で更新が必要で、汚泥という大量の産業廃棄物がでる。SDGsを考え、持続可能な社会システムの構築を考えるのであれば、業界の利益を優先するコンサルに頼まず、自分たちで考えれば、良い方向性が見えてくると思っている。

図24:パンフレットによれば、「緩速ろ過はろ過速度が遅く効率が悪く、広い面積が必要。急速ろ過はろ過速度が緩速に比べ30倍も速く、ろ過効率が良い。処理時間が早いので効率が良い。」と書かれている。市民に誤解を与える説明である。
航空写真を見れば、緩速ろ過は敷地の大部分はろ過池である。急速ろ過のろ過池の面積は小さいが、その他の面積は広大である。敷地面積当たりの浄水能力は、ほとんど変わりがない。
急速ろ過の施設では、ろ過は全行程の一部で、大部分はその他の処理行程である。
緩速ろ過は基本的に薬品を使う必要はなく、ろ過で病原菌も除け、塩素殺菌は必要としなかった。塩素殺菌は急速ろ過で細菌が通過してしまうので、殺菌のために必須であった。

なお、図25:日本では、戦後、米軍の監視下で、塩素殺菌が義務付けられ、現在も続いている。
急速ろ過は凝集剤を使うので、ろ過池が直ぐに目詰まりする。そこで清澄な水を底から吹き上げ、砂を搔き混ぜる逆洗行程で、詰まった濁りを除く。その後、上から下へのろ過を再開する。この際に、細菌や濁りが通過する(図13)。そのため殺菌が必須になった。急速ろ過処理では溶けている物質も完全には除けないので異臭味などが生じる。後処理として活性炭処理やオゾン処理などが必要になった。

染屋浄水場のろ過池の操作は全て手動で、停電でも問題はない。急速ろ過は電気で動かす機械だらけで、計測機器で制御されている。停電に備え、緊急時用の発電設備も必用である。電気設備、機械設備は、常に新しいものが開発され、ほぼ10年で更新が必要である。染屋浄水場は、大正12(1923)年の施設を、改良もしないでそのまま使える。
図26:水道法で上水道とは給水人口5,001人以上の施設と定義されている。2016(平成28)年の水道統計では、消毒のみ(塩素殺菌のみ)の施設が一番多い。急速ろ過は大規模な施設多いので、浄水量割合は多くなる。長野県の場合、浄水量割合でも消毒のみの割合は6割もある。

図27:長野県 (浄水方法別浄水量割合、2016年) では、給水人口101人から5,000人の簡易水道の数は多いが、その浄水量割合は少ない。
緩速ろ過はおいしい湧水を人工的に作る方法である。
コンサル情報だけでなく、自分で、本当かなと確かめる必要がある。