緩速ろ過の誤解:厚生労働省 2011.9.10.
「厚生労働省」と「緩速ろ過」のキーワードで検索すると下記がヒットした。
その中の記述:
◇ 水安全計画策定のためのガイドライン(PDF:3,044KB)(平成20年5月)
◇ 水安全計画ケーススタディ(PDF:1,486KB)(日本水道協会)
※社団法人日本水道協会において、水安全計画策定ガイドラインに基づき、我が国の代表的な浄水処理プロセスである急速ろ過方式、緩速ろ過方式及び塩素消毒のみの場合についての水安全計画ケーススタディがとりまとめられました。
国(厚生労働省)は、日本水道協会に丸投げみたい。このガイドラインの緩速ろ過の記述:
「原水濁度最大10度まで」とある。
これでは、日本中、どの河川でも、この範囲を超えてしまう。
つまり、使えないという記述である。
でも、昔の水道協会の指針では、「平均濁度10度」とある。30度を超える場合は、沈殿処理などをしなさいとある。記述の間違いである。以前の記述を、意図的に、確かめのしないで、最新の指針には、改悪の記述である。
実際は、もっと、もっと高い濁度でも、沈殿池や粗ろ過などで、大丈夫である。
ろ過池の底が見えるか見えないかの濁度で大丈夫である。一番いけないのは、生物群集が嫌がる、凝集薬品沈殿処理で、濁り対策をすることである。一見、清澄になるが、実は、砂層の生物群集は委縮してしまい、砂層は固くなり、目詰まりを促進する。
日本各地で、どの程度で、大丈夫かを、自分で確かめる必要がある。
高崎市の剣崎浄水場は、明治から表流水を取水し、沈殿池だけで、緩速ろ過をして現役である。取水している原水濁度は、500度にもなることがあるが、何もしていない。
名古屋市の鍋屋上野浄水場は木曽川の表流水を犬山で取水している。春日井に沈殿池があり、薬品を使わないで、緩速ろ過の浄水場に導入している。台風の濁り水も沈殿池があるので大丈夫だ。
省エネで、維持管理費用がかからない。この様な素晴らしい施設をどうして、積極的に厚生労働省は勧めないのか。不思議である。
何で、このような記述になるのか。急速濾過、膜処理を勧める業界の勧めかな。
それを、鵜呑みにする厚生労働省である。困ったな。
「ろ過速度最大5m/日まで」とある。
東京都にある砧浄水場の標準ろ過速度は、8.5mであった。でも、この浄水場は、莫大なエネルギーを使う膜処理施設を導入した。
英国ロンドンのテムズ水道は、ろ過速度は4.8m/日だと、水質が安定しないで、良くないので、ろ過速度を早くし、ろ過水の水質を良くするために、9.6m/日に変更した。その速度を維持するようにした。
100mx100mのろ過池でろ過速度10mで浄化するなら、1日に、100,000トンの水ができる。一人1日に0.3トン使うとすると、33万人分の水道需要である。広大な面積が必要だとは、ろ過池の面積が大きいので、その印象を言っている。
でも、緩速ろ過による浄水場は、ろ過池が大部分の面積を占めるが、急速ろ過は、ろ過池以外に莫大な面積が必要である。
砂層表面と上部で生物が活躍する厚みは1cm程度である。その厚みを通過する時間は数分。つまり瞬間浄化である。時間がかかるとは、緩速ろ過の速度が遅いというイメージである。浄化している場所を通過する時間は瞬間。
急速ろ過は、ろ過している速度が確かに早いが、処理の主体は、凝集薬品沈殿処理である。それに、莫大な汚泥が常にできる。その処理に莫大な経費や時間を要する。急速ろ過処理という名称は、処理の本質を正しく表していない。
目詰まりしたら削り取り必要があるが、目詰まりさせない工夫が必要である。それは、伏流水を取水したり、濁り対策で沈殿池や、粗ろ過をすることである。
緩速ろ過は機械的なろ過ではない。生物群集による浄化である。それなら、生物群集が嫌がることをしては絶対にいけない。
自然界で清澄な水ができるのは、地表面、土壌層で、生物群集などが活躍するからである。土壌層、生物群集を除いてしまっては、汚れが深く入ってしまう。
濁り水対策に凝集薬剤の使用は、いけないのは、原理を理解すればわかる。でも、日本では、凝集薬剤を使用するようにと指針にある。欧米では、濁り水対策に、伏流水取水、沈殿池、粗ろ過を勧めている。
日本の水道界は、クリプト原虫での集団下痢事故以来、この対応に追われている。クリプト原虫による大規模集団下痢は、全て、最新技術といわれる急速ろ過処理での問題である。欧米は、この事故以来、安全な浄化法である緩速ろ過を見直している。日本も、緩速ろ過処理が、まだ残っているし、休止しているろ過池も多数ある。この再認識をするなら、安心して安全な飲み水を給水できる。
現在の水道水の濁度基準は2度(2mg/l)である。でも、クリプト原虫問題で、濁度管理で、0.1度が理想として推奨している。でも、急速ろ過処理では、ろ過池は、すぐに目詰まりするので、逆洗浄が必須で、その際に、どうしても細菌だけでなく、クリプト原虫の休眠シストが通過してしまう。これまでは、塩素で殺菌するので大丈夫としていたが、休眠シストは塩素でも殺すことができなかった。そこで、精密濁度計の設置を勧めている。でも、緩速ろ過では、常に0.05濁度以下が普通であり、クリプト原虫のシストも生物群集が捕捉し分解する仕組みがあるので、欧米では、信頼され、再評価されている。もちろん、精密濁度計などは必要ない。
どうも、日本では、欠陥処理である急速ろ過の対策を、安全な緩速ろ過にまで押しつけている。どうして厚生労働省は、緩速ろ過について勉強しようとしないのか不思議である。
欧米では、常識なのが、日本では、知られていない。いや、知らせようとしていない。
日本の厚生労働省国立医療科学院の水道研修では、水道工学の研修で、最新技術の講習、実は、業界が勧める莫大な経費がかかる技術の紹介のみをしている。
クリプト問題は、急速ろ過だけの問題である。その事に、言及していない。
日本や世界の人々が求めている技術・情報を伝えるのは、公務員の義務ではないだろうか。
どうして、このような誤解、間違いだらけを厚生労働省は認めているのであろうか。
厚生労働省の当事者は、自分で確かめないで、日本水道協会に全て丸投げしているからか。
2011年10月3日と4日、大分県別府市で、NPO地域水道支援センターの「緩速ろ過セミ」がある。その前日の10月2日は大分県中津市で、小規模水道施設の見学会もオプションである。
是非、セミに参加してみてください。
詳しくは、
の案内をヒットしてみてください。
厚生労働省や日本水道協会とは関係なく、JICA(国際協力機構)では、マルチメジア教材で、「緩速ろ過」を生物浄化法として取り上げ、世界中に発信中である。JICAの沖縄での国際研修では、毎年、海外からの研修生向けに、緩速ろ過の研修を行っている。本年(2011年)も、8月3日から12日までの10日間、緩速ろ過についてのみ、講義と実習を行った。
どうも、日本の常識は、世界の非常識であるようだ。