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間伐材ノベルティグッズ開発の現場から、最新情報をお届けします!

人事実務という刊行誌に掲載された記事です。
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みんなでつくる元気なカイシャ

第25回 
フロンティアジャパン
東北復興支援事業
~間伐材を利用したノベルティグッズの製造~

今回は,国産間伐材を使ったノベルティグッズ製品の製造・販売のほか,宮城県・南三陸町に工場を設立するなど,事業をとおした被災地支援を行い,社員の誇りとやる気を高めているフロンティアジャパンを紹介します。

今回のポイント
●間伐材を利用した「森林をとおしたCSV」で自社・他社・地域に価値を生む
●息の長い支援をめざして南三陸町に工場を設立し,雇用を創出
●すべての関係者が利益を得られる「共益創造型復興モデル」ネットワークを構築
●東北復興支援事業をとおして,仕事に誇りをもつ社員になる

会社概要
設  立:1996年5月8日(創業1978年)
事業内容: 間伐材を使用したノベルティ製品の企画・製造・販売,梱包・発送代行業務,倉庫保管業・在庫管理,印刷および製本など
売 上 高:4億円(2013年3月現在)
従業員数:35人(パート・アルバイト含む2013年4月現在)
本  社:東京都江東区清澄1-3-2
U R L:http://www.eco-pro.ne.jp/


間伐材を使ったグッズ製造など
事業をとおしたCSV を行う
 梱包・配送を行う物流会社として1978年に創業したフロンティアジャパン㈱。その後,1998年に2代目となる現・代表取締役社長の額賀泰尾氏が,物流以外にも事業を広げたいと考え,企業のノベルティグッズ(販促品:グッズまたは製品)を製造・販売する部門を立ち上げた。
 当初は一般的なグッズを製造していたが,取り扱っている業者が多いため,同社オリジナルの付加価値を付けられないかと考えていたところ,日本の森林の荒廃と「間伐」の重要性について知る機会があった。間伐とは,健康な森林にするために弱い木を間引くことである。そこで,この間伐材を利用したノベルティグッズを企画・製造することを思いついたという。
 そこに至る流れについて,ノベルティ事業を行っている環境事業部営業課の村井香月氏は次のように話す。
 「日本の国土の約7割は森林が占めていますが,価格などの問題から国産材の自給率は3割弱と少なく,あまり使用されていません。また戦後,杉や檜が多く植えられましたが,自然林と違って人工林は植えた後の管理が大事で,間伐を行わないと森が不健康になり,水質が悪くなったり災害の原因にもなってしまいます。そこで,国産の間伐材を利用したノベルティグッズを作ることで,他社にはない当社の強みにするとともに,環境保全にも貢献できればと考えたのです」
 間伐材を製材・加工し,企業のノベルティグッズを製作する。そうすることで,その企業は環境保全という社会貢献ができ,森林のある地域では間伐材で得た収益が次の間伐資金となり,雇用も生まれる。それが地球温暖化の防止,生物多様性の保全へとつながっていく。同社ではこの循環サイクルを,「森林をとおしたCSV(Creating Shared Value:共益価値の創造)」として,事業を展開するうえでの柱としている。
 間伐材を使ったノベルティグッズの企画・製造・販売を始めたのは2005年。そして2012年からは,東北復興支援事業として宮城県・南三陸町に工場も設立した。
 今回は,主に東北復興支援事業の内容や取組みと,それによる社内の変化について紹介する。

間伐材を利用したグッズで
企業の環境保全活動を支援
東北復興支援事業について述べる前に,まずは間伐材ノベルティグッズについてみていこう。環境事業部では,大きく分けて以下の事業を行っている。
① 日本中の森林から出る間伐材を使ったグッズの企画・製造・販売
② 企業が保全整備している「企業の森」(企業がCSR の一環として行う森林保全活動のサポート制度)から出た間伐材を使ったグッズの作成
③ 間伐材を利用したオリジナル商品開発のサポート
④ 環境保全の取組みを考えている企業に,同社が連携している各都道府県・森林保全団体をとおして森林を紹介し,間伐材の有効活用法や森林保全活動のノウハウを提供
 グッズは,国産材・間伐材を製材して,さまざまな商品に加工し,企業名やロゴ,文字などを刻印する。その後,手作業で最終加工を行い,1つずつ袋に詰めてでき上がりである。材料は,主に杉や檜を利用しており,希望に応じて,間伐材についての説明書も同封している。現在,間伐材グッズは100種類にも及び,製品はピンバッジやプランター,しおり,定規,積み木,時計など多岐にわたる。
 企業が保全整備している森林を使った例(上記②)としては,ソネットエンタテインメント㈱の「So-netの森」(長野県佐久市)の間伐材で作った檜時計や,㈱東急ホテルズが保全活動を進めている山梨県丹波山村の間伐材を利用したアロマブロックなどがある。
現在,ノベルティグッズの製造は東京本社と,2007年に設立した福井工場(福井県鯖江市)のほか,後述する南三陸工場で行っている。東京本社では,セット作業を福祉施設に依頼することもあるという。
 始めた当初は,間伐材の認知度が低かったこともあり反応も少なかったそうだが,しだいに企業からの問合せが増えていった。間伐材を使った製品は,環境保全活動になるだけでなく,木材のもつ暖かみも感じられるため,自社のブランドイメージ向上にもつながるとして企業から好評だという。

息の長い支援をめざして
南三陸に工場を設立
 2011年までは,グッズを製造しているのは東京本社と福井工場だけだった。しかし,問合せが増えるにつれて2カ所だけでは対応が難しくなってきたため,新しく工場を作ろうと検討し始めたときに,東日本大震災が発生した。
「多くの人が被災し,仕事を失った状況をみて,私たちにできることは何かと考えました。義援金といった支援も大事ですが,もっと息の長い支援がしたいと思い,以前から交流のあった宮城県の森林組合に相談して,東北に工場を建てることにしました。工場を作れば,そこに雇用が生まれますし,地域にもともとあった林業を基盤にしながら新たな産業を生み出すことで,微力ながら地域の活性化にも役立つのではないかと考えたのです」
 社長が最初に東北に工場を作りたいと言ったとき,社員の多くは戸惑ったという。「リスクが大きい」「中途半端な支援になるならやめたほうがいい」という意見も出たそうだ。そこで社長は,継続した支援のためにも東北に工場を作ることが必要だという強い思いを社員に伝えた。また,環境事業部の営業社員は実際に被災地に足を運び,工場が設立できるか検討した。営業社員は,復興の進まない現状を目の当たりにして,ビジネスを超えて自分たちにできることをしたいという思いをもち,それを他の社員に伝えて理解を得ていったという。

社員の理解を得た後の動きは速かった。宮城県登米地区の森林組合から紹介してもらった南三陸町に,工場を作ることに決めた。南三陸町は津波によって6割以上の建物が流出するなど,甚大な被害を受けていたため,少しでも復興の力になれればと考えたのだ。
こうして,震災から1年たった2012年3月,南三陸町に「フロンティアジャパン南三陸工場」が設立された。場所は,地元の人たちが仕事を失った人のための活動の場にしたいと用意していた廃校になった中学校で,現在,同社は地元の団体と一緒に使用している。
南三陸工場にはレーザー加工機4台を設置しており,南三陸町や岩手県釜石市などで出た間伐材(杉)のほか,日本全国の木材を利用してグッズを製造している。
工場設立により,一番の目的だった雇用も生まれた。現在,南三陸工場では地元の人20人(パートタイマーを含む)を雇用しており,工場で作業をするほか,仮設住宅でセット作業の内職をしている。働いている人の年齢は20~60代までと幅広い。被災し仕事を失った人たちにとって現金収入が得られることは大切だが,それ以上に,仕事ができる喜び,みんなと一緒に働く楽しさのほうが大きいようだ。
なお現在,社長の額賀氏は南三陸町に単身で移住しており,東京には月末に帰るだけである。工場ができた当初は,時間がたてば東京に帰ってしまうのではと,現地では疑っていた人もいたそうだが,会社のトップが自ら被災地にとどまり,事業を展開していることで,いまでは仲間として受け入れてくれるようになったという。

森林保全と雇用創出をめざす
共益創造型復興支援モデル
同社では,東北復興支援事業を持続性のあるものとするために,ネットワークを確立し,すべての関係者が利益を得られる「共益創造型復興モデル」の仕組みを構築している(図)。これは,被災地を支援したいと考えている企業に,同社が東北の間伐材を使ったノベルティグッズの企画・提案を行い,製造を南三陸工場で行うことで,森林保全と木材の有効活用,雇用の創出による地域活性化をめざすものである。
東北の木材を利用し,南三陸工場で加工を行うノベルティグッズは,社会貢献・復興支援をしたいと考えていた多くの企業の共感を得た。なかには,ただグッズを発注するだけでなく,東北の森林組合などと協力して,独自の取組みを行っている企業もある。
たとえば,全日本空輸㈱は2012年7月に「ANA こころの森」プロジェクトを始めた。これは,継続的な被災地支援を考えていた全日本空輸に,同社が提案し,進められたものである。約10ヘクタールの森林をANA グループの社員ボランティアが整備するほか,そこで出た間伐材を利用してグッズを製造している。ここからは,ゴルフトーナメントで配布した「ANA OPEN ピンバッジ」のほか,2013年に南三陸町で生まれる新生児へプレゼントする積み木も作られており,地域にとても喜ばれている。
そのほか,KDDI ㈱は岩手県釜石市の森林組合と連携して,地元の間伐材を使ってバスの待合所やベンチを寄付するなど,多くの企業が同社を介した共益創造型復興モデルを使って被災地支援を行っている。
「企業が森林保全活動を行うことはよくありますが,ただ『植える』だけでなく,そこから出た木材を利用し,そして,企業のお客さまにも間伐材や被災地のことを知ってもらうことで,新しい価値を創造できると思います。グッズには,間伐材や製品が作られた背景を書いた説明書を同封していますので,実際に手に取ったお客さま一人ひとりに,そこから日本の森や被災地について思いをはせてもらうことで,都市と地域(東北)をより深くつなげていけると考えています」
グッズを発注した企業のなかには,自分たちの目で被災地の現状と支援内容をみたいと,南三陸工場を見学にくるところもあるそうだ。

世の中に認められる仕事をすることが
社員の誇りとやる気につながる
では,南三陸工場を作ったことで,社員にどのような変化があったのだろうか。
さきにも述べたとおり,設立前は社内に反対の声もあったが,いまでは「当社がめざすCSV が体現できている」「世の中に認められる仕事をしている」「自分がしている仕事に誇りがもてる」という社員がほとんどだという。そして,仕事の意味,必要性を理解したことで,いままで以上に意欲的に仕事に取り組む社員も増え,社内の一体感やコミュニケーションも高まっている。
南三陸工場で働いている人たちは,受注した企業の人たちが工場見学に来ることで,被災地の現状を知ってもらえるのがうれしいという。また,企業の人と直接話すことで,自分たちが作っている製品がどのような思いで企画され,どのように使われているのかがわかるため,「仕事にやりがいを感じる」とも言っているそうだ。
 同社はこれからも,CSV の観点を大切にしながら,日本中の間伐材を利用したさまざまなノベルティグッズを企画・提案していく方針だ。間伐材を使ったライフスタイルの提案も考えており,今後は,商品ラインナップの拡充やデザイン性の強化に力を入れていきたいという。
そして被災地復興支援でできたネットワークを拡充しながら,企業のパートナーとして,お互いにWin-Win になる関係を築いていきたいと考えている。
「東北の地に進出したことで,地域の人々や志ある企業など,多くの魅力的な出会いがありました。その方々とともにこれからも取組みの輪を広げていきたい」と言う額賀社長。
多くの企業や人がかかわる復興支援により,社員は会社や仕事によりいっそう誇りをもつようになった。社内,他企業の人たち,地域の人たちへと輪がつながるフロンティアジャパン㈱の取組みが,今後どのように広がっていくのか楽しみである。