日本競走馬の快挙の歴史を紐解くと、1998年8月フランスでシーキングザパール、タイキシャトルが相次いで海外GⅠ初勝利を挙げました。翌1999年10月と2000年7月にはアグネスワールドがフランス、イギリスで短距離GⅠを2勝する快挙があり、更に2001年12月には、有名な香港スリー、すなわちステイゴールドのヴァーズ、エイシンプレストンのマイル、そしてアグネスデジタルのカップ制覇がありました。次に5年飛んで2006年11月には、オーストラリアの国民的レースであるメルボルンカップで、デルタブルース、ポップロックが1,2着して驚かせました。更に5年後の2011年3月のドバイワールドカップでヴィクトワールピサ、トランセンドのワンツーがあり、東日本大震災での悲しみに勇気を与えてくれました。

 

 このように各地域での日本馬の活躍は枚挙にいとまはありませんが、アメリカにおける成績は今一つで、大きな壁になっていました。そして今回のブリーダーズカップを迎えました。早朝からテレビ中継もあり、私もグリーンチャンネルを楽しみ、快挙に朝から嬉しい気持ちになりました。BCフィリー&メアターフにはラヴズオンリーユーが登場。3月のドバイでは欧州の強豪ミシュリフと接戦をしていて、実力はここでは上位。レイティングも同じ118のキングジョージ3着のラブ、オペラ賞勝ちのルジールが相手とみられていました。激しいレースで馬群に揉まれながら短い直線で前が開くと川田騎手のアクションに応えて鋭く抜け出したラヴズオンリーユー。ブリーダーズカップ初の日本調教馬による初制覇の瞬間でした。テレビの前で思わず声が出ましたね。続くダートのスプリントでは、マテラスカイが9頭立ての5着と健闘。しかし、次の芝のマイルでは、ヴァンドギャルドが発馬での不利もあり、後方のまま12着と惨敗しました。

 

 そして迎えたダートのディスタフ。牝馬のダートチャンピオンを決めるレースです。参戦したマルシュロレーヌは最低人気。日本では交流重賞の常連で堅実な馬ですが、帝王賞8着と一流馬に交じると力は劣るというのが常識的な見方です。ところが、オイシン・マーフィー騎手の強気のまくりに応えて、4コーナーでは先頭にたち、直線の競り合いを凌ぎ切り大金星を上げました。馬場は違いますが、自身のタイムを4秒ほど更新しています。サンドピアリスの大駆けを思い出すようです。血統を見ると、母系は祖母に桜花賞馬のキョウエイマーチがいる良血です。母父が名ブルードメアサイアーのフレンチデピュティ。強敵相手だと燃えるステイゴールドの血が大一番で発揮されたのでしょうか。しばらく鳴りを潜めていた父オルフェーヴルは、日本でもこの日アルゼンチン共和国杯のオーソクレースが快勝し、存在感を見せました。

 

 1996年にタイキブリザードが初挑戦してから25年たってついに大きな壁が破られました。それも2頭が勝つという歴史的な日になったのです。その間、シーザリオなどが他のGⅠを勝ってはいますが、BCとは格が違います。本当に凄いことをやってのけたと手放しで称賛します。矢作芳人調教師は、独特の厩舎経営で知られた人で、3度のリーディングトレーナーに輝き、三冠馬コントレイルを始め、ディープブリランテ、リアルスティール、リスグラシューなど多くの名馬を手掛け、快進撃を続けています。ファンの信頼も厚く、パドックではいつも矢作きゅう舎の横断幕が見られます。今回の2勝を自画自賛されていましたが、いくら褒めても褒めたりないでしょう。

 

 それにしてもやはりサンデーサイレンスの血は偉大です。今回の快挙の2頭はいずれもサンデーの血を引いた馬でした。また、芝マイルの3着に来たアイヴァーは、アグネスゴールド産駒です。サンデーサイレンスを手にした日本からの恩返しともいえるBCでした。もう、種牡馬の墓場とは言わせない!日本競馬における歴史的な1日となりました。