かなり前だったと思いますが、ある雑誌に直木賞作家の宮城谷昌光氏の記事が載っていて、馬に関する箇所があったので拝見しました。氏は若い頃生活に困窮していた時代があり、馬券で1年間ほど生活されたとのこと。毎週20レースほどを精査して1頭を選び1万円で複勝を買ったそうです。150円つけば1万5千円で、当時なら1週間5千円で食いつなげたらしいのです。複勝は一番固い馬券ですが、生活のためにとなると必死になります。氏も必死の思いで過ごした期間だったようです。狙いやすいのは、当時まだあったアングロアラブのレースで、ハンデ頭の馬は65Kくらい背負う時もありますが、3着は外さない。つまり実力差がはっきりしているのです。

 

 私も若い頃、競馬場でいつも会うおっちゃんがいて、その人も1日1レースだけ複勝の大口買いをしていました。そしてアングロアラブのレースを狙っていたのです。配当は大概110円でしたが、時には120円付くときがあり、おっちゃんは大喜びしていました。私はもともと大金で勝負などできないものですから当たり障りのない受けごたえをしていました。ある時、競馬場の隅でおっちゃんを見かけました。おっちゃんはうな垂れてじっと地面を見ていたのでした。「ああ、沢山負けたんやな」と私は察して声をかけずに去りました。おっちゃんとはその後会うことはありませんでした。私は気が小さい人間ですから、ギャンブルで大勝負などできませんが毎週命から10番目ぐらいのお金で楽しんでいます。これが長続きするコツですかね。

 

 ところで、宮城谷氏は、競馬場で見たアングロアラブをずんぐりむっくりの馬で、戦国時代はこのような馬に武士が乗っていたのだろう的なことを書いておられました。これは明らかな思い違いだと感じました。アングロアラブは、サラブレッドとの交配で生まれた馬で、一見サラブレッドとよく似ています。そもそも純粋アラブは、高貴な馬で美しく頭もよいとされています。アングロアラブという言葉から、先入観でずんぐりむっくりだと感じられたのかもしれません。フランスやドバイでは純粋アラブのレースが行われます。日本ではアングロアラブのレースは無くなりましたが、馬資源の少ない時代に日本競馬に貢献した功績は忘れてはなりません。