競馬はスタートが大事です。距離が短いのはもちろん、長かっても大事です。いいポジションを取れるからです。どこかで読んだ話ですが、ルメール騎手がフランス時代に、GⅠレースで有名調教師に有力馬を頼まれました。ヨーロッパでは、調教師はうるさく騎手に指示を出すそうです。それも、皆、内の好位を狙え、と。えっ?みんなそんな指示を出しても2~3頭しか取れないじゃないか、と思いますよね。騎手のプレッシャーは大きいようです。
ルメール騎手に出されたのはただ一つ。逃げるのだけはだめだ!と。しかし、レースで好スタートを決めたルメールは、他に行く馬がいなくて仕方なく先頭に立ちました。負けたらもう依頼は来ないかもと思いましたが、逃げ切ってしまったのです。調教師は自分が言ったことなど忘れたかのように喜んだそうです。ルメールは、日本ではほとんど任してくれるのでプレッシャーは少ないと言っています。
好スタートが必ずしも有利に働くとは限りません。差し馬が抜群のスタートを切ってしまうと騎手は少し迷うでしょう。他の馬が来てくれればいいが、来ないとき無理に下げるのかどうかの判断です。最近では、大阪杯のダノンキングリーなどがそうでしょう。
私が思い出すのは、天馬といわれたトウショウボーイのダービーです。トウショウボーイは、私が50年見てきた中でも1,2を争う中距離馬でした。今でも彼の神戸新聞杯のパフォーマンスを思い出します。馬なりで日本レコードを1秒更新したのです。ライバルのテンポイントのファンだった私は、やはりこの馬は別格なんだと思いましたが、それでもテンポイントを応援し続け、あの感動的な有馬記念にたどり着いたのです。
話を戻すと、トウショウボーイは皐月賞を5馬身差で楽勝し、1番人気でダービーに向かいました。負けるはずがないと誰もが思ったでしょう。トウショウボーイは好スタートを切りました。そして先頭を行きます。好位から抜け出すレースをしていたボーイは、何かが交わしてくれるのを待っていたのでしょう。しかし、どの馬も競りかけてきませんでした。池上騎手が誰か来てくれと思いながら乗っていたように感じました。何かふわっとした感じで4コーナーを回った時、息を潜めていたように加賀騎手のクライムカイザーが一気にボーイを交わし、反則ぎりぎりに前を横切ったのです。一瞬ボーイはひるんだように見えました。仕掛けは早かったのですが、3馬身前に出たクライムカイザーは、差し返してきたボーイに1馬身半の差をつけてゴールインしました。加賀武見という勝負師の面目躍如の騎乗でした。そして競馬に絶対はないと感じたレースでした。好スタートにも魔物が潜んでいる、そんなことを教えてもらったレースでもありました。でも、そんな展開を読むことなど難しいですね。だから競馬って面白いんでしょう。筋書きのないドラマなんでしょう。