
言わずと知れた海堂尊の作品ですが、「バチスタ」の田口&白鳥シリーズではなく、
そのスピンオフ的な作品って言ってもいいですな。
事実、桜宮のAiセンターも出てくるし、
「アリアドネの弾丸」でAiセンターの前にいた人はこの人たちだったんだ……
というくだりもあったりします。
メインとなる話は、数年前に我が国を疑心暗鬼に陥れた「新型インフルエンザ」のときの
世間の対応を思い出してみるとちょうど良いのかもしれない。
パンデミックとか新型インフルという言葉が独り歩きして、どれくらいの致死率なのか、
強毒性や弱毒性かもわからないうちに、マスコミが大騒ぎして。
確かに厚労省の対応もお粗末極まりないものだったけど、
マスコミの過熱ぶりは常軌を逸していましたね。
公開しなくていい情報は垂れ流すのに、広めるべき情報は隠しちゃう。
確か、あのときは最初の感染者が関西で確認されて…関西が封鎖されちゃう
ような勢いでしたね。
これをベースにして、中央キャリアと、地方公共団体の激しい影なる戦いが
展開していくわけだけど、えげつないですねぇ、キャリアの皆さんってのは。
「アリアドネ…」でも存在感を示していた警察庁の斑鳩室長。
今作でもバッチリ存在感ですねぇ。
また、斑鳩の指示により厚労省人事として浪速大准教授となってウィルス畏怖を煽った本田苗子、
その上司となっている元厚労キャリアで白鳥と同期の国見淳子、
その本田をTV番組でやり込めたのは、時の人・村雨浪速府知事から直に依頼された
これまた元厚労キャリアの検疫官・喜国忠義とその部下・毛利豊和。喜国と国見は浅からぬ縁が
あるようだし。村雨と喜国を結びつけたのはスカラムーシュ(大ぼらふき)・彦根先生。
登場人物だけ見ていても、まだまだひと山ふた山ありそうな感じですね。
物語としては、一応のオチはつくんだけれど、
伏線がその辺に落ちているような終わらせ方で、
「あ、これってアリアドネの弾丸の次作につながってくんじゃ……」
と思わずにはいられない終わり方でした。
そう、アリアドネの弾丸を読んだ後で、今作を読むといいかも。
それと、今作の重要な登場人物の中に、東京地検特捜部のエース格だったのに
なぜか浪速地検特捜部への異動を受理した鎌形というキレ者がいます。
赴任して最初にやったのは、浪速地検の膿を出すこと。しかし、鎌形は二の手、三の手は
出さないという。東京地検からの部下・千代田に諭すように鎌形はこういう。
「どの組織にも一定の割合で腐敗や不正はつきものだ。
それらは撲滅するのでなく、無毒化し共存させないと、ね。
要は比率が問題で、我々のコントロール下にあれば多少の不正には目をつむる。
そうした不正を完全に撲滅したら、今度は組織自体が自らの重さに耐えきれず自壊してしまう」
「お前もいつかはきっと高い地位に昇るだろう。
その時のため頭の隅に置いておくといい。
ものごとを遂行するときは、百パーセントをめざしてはならない。
四割を掌握し、二割の敵と闘うくらいがいい。
特に正義の御旗を掲げ、権力と対峙するというフィクションの理想実現のためには、ね」
いいこと言うねぇ。