私は、道でよく声をかけられます。
もちろん、道を聞かれるのは序の口、よく話が続いてしまいます。(笑)
そんなに愛想の良い人ではないですが、やはり、ずっこけ加減とか、迂闊さ加減が人に警戒心をなくさせるのでしょうかね。

と、先週末の帰りは終電を追いかけて、品川から急ぎJR山の手線に乗り込みました。
つっと、隣に並んだおじいさんが私を見上げて、ニコニコ笑って話し掛けてきました。
「君、おっきいねえ。いまどきの子は皆大きいんだねえ」
「いやあ、私は身長だけでなく、ガタイもいいですからねえ。わはは」
などというにつけ、それとはなくよしなし事を話していると、おじいさんは自分の背広の内ポケットから英単語のたくさん入った単行本を差し出しました。
「いくつになっても勉強ですよ」
その単行本はもう何度も読んでいるようで、少し草臥れた書店でつけてくれる広告入りのブックカバーと、しおりが印象的でした。
私はなんとなく、こんなにたくさん読み込んでいるのなら、と思い、
「お勉強なさっている中で、何か、印象に残ったり、強いインパクトを投げかけられる言葉がありましたか?」
と伺うと、おじいさん、こう答えてくださいました。

I always forget. But, forget is very important.

文法的にどうとはいえませんが、大変流暢な発音でびっくりしました。
「僕は小さい頃、海外にいたのだけど、この発音だけは宝物だねえ」
と仰って、目黒で降りていかれました。

実際、人間どれだけ本当はこの言葉に助けられているのか、わかりません。
ものを忘れっぽくなったり、年とともに覚えていられなくなっていくことはとても哀しいけれど、だけど、この能力のおかげで、救われることもたくさんあります。

知っているけど、普段はあまり意識しない言葉。
忘れん坊であることを自覚しつつ、それを、気に病むこともなく。
あるがまま、ってかんじのおじいさん、最高にかっこよかったです。

久しぶりに「じいいいいん」と心に染み渡る言葉でした。