届け
いつもだれかの笑顔を見てきた。
赤ちゃんや小さな子供、年を取ったおじいさんやおばあさんまで。
若くてとてもきれいな、真っ白なドレスを着た、女の人だったこともある。
雲一つない晴れ渡った空の下で、太陽も祝福してた。
そんな瞬間に、僕はいつも出会えるんだ。
僕は行き先は自分で決められないんだけど、
どこかの街で、どこかの家で、
だれかが僕を待っていてくれている。
だから僕は、一年中大忙しなんだ。
そして僕は、少しだけ、僕の仕事を誇りに思っているんだ。
だって僕は、だれかを喜ばせることが出来る天才だから。
なのに、僕の人生で、たいへんな出来事が起こってしまったんだ。
こんなこと起こったのは初めてだったから、僕もほんとうにびっくりしちゃったんだ。
あの時は、もうだめかと思ったよ。
僕の人生で、あんなに転げ回ったのは、初めてだったんだ。
おかげですり傷だらけだよ。
これじゃあ、どうやって喜ばせたらいいのか、わからない。
僕は心の中で、とてもしょぼくれてしまったんだ。
ああ、どうしよう。
どんなにはたいて汚れを落とそうとしたって、シミが付いたら、台無しだよ。
きっちり結んでくれた、赤いリボンだって、すっかり曲がっちゃった。
おしゃれに先っぽをカールしてくれたのに、ヘンな跡が付いちゃった。
一体どうしてくれるんだい!?
僕のお役目まで、すっかり台無しにしてくれるつもりなのかい!!
「まあ、どうしたの。そんなに服を汚して」
玄関のドアを開けたら、坊やのお母さんが驚いて、声を上げた。
坊やはうつむいて、一生懸命泣くのをこらえていた。
お母さんは、すぐに坊やが左手に持っていたプレゼントの箱に、気が付いた。
白い包装紙はすっかり汚れて、角がすりむけていた。赤いリボンも、曲がって長さが不ぞろいになっていた。
「また転んじゃったの?」
坊やは何も答えなかった。涙がポタポタと、玄関のタイルにこぼれ落ちた。
「さあ、おいで。服を着替えようね」
お母さんはそっと、坊やの手からプレゼントを受け取ると、こう言った。
「プレゼントさんも、新しい服に着替えようね」
お母さんは、引き出しから新しい包装紙やリボンやシールを取り出して、僕は衣装直しをしてもらえたんだ。
その日の坊やの家の夕食は、とてもにぎやかだった。
お母さんの手料理と、お父さんの誕生日を祝うケーキ。テーブルの上はごちそうでいっぱい。
そして、すっかり新しい服に着替えた僕。
「さあ、箱の中身は、何かな?」
お父さんが、僕の体に巻き付けられたピンクのリボンをほどきながら、楽しそうに笑ってた。
「今日のために、おこづかいをいっぱい貯めたんだよね」
優しそうに笑うお母さん。
そして僕は、いつもいつも、この瞬間に立ち会える。
みんなの笑顔がこぼれる、この瞬間に。