僕は丘の上にやって来た。どうしてここを選んだのかって?
この街でいちばん、夜空の星と街の灯りがきれいに見える場所だって、聞いたからさ。
僕は星を見上げた。夜の冷えた空気の中で、あの星へはどうやったら行けるんだろうと、考えてみる。はしごをかけて、登って行けたらいいのに。そうしたら、好きな星を選んで、その星で、いちばんの美人を見つける。性格がいい子だったら、そのままその星で一緒に暮らそう。そして、もう二度と、ここには戻ってこない。きっとその星に合った、新しい体に生まれ変わるだろう。
人は生まれるのでも、死ぬのでもない。肉体は魂が宿る器で、魂は、永遠に死ぬことはないのだという。ただ、器が変わるだけ。この体は燃やしてしまえば、カルシウムの塊になる。そうしたら、もうこれが僕だって、だれも思いはしない。そして、輪廻転生をくり返していく。いろんな時代に生まれて、男になったり、女になったり。善人になったり、悪人になったり。いい人生だったと、仲間と笑い合ったり、犯した罪を後悔したり。
僕はこれまで何回くり返しただろう。そして、あと何回くり返したら、もう飽きたよって、やめられるだろう。
余命三ヶ月。告げられた時は、時間が止まった。止まったと言うより、僕だけがそこにとどまって、時間だけが流れていく。そんな感じだった。その後、どうやって家に帰ったか、覚えていない。そして、すぐに入院生活が始まった。あんなに会社を休みたいと思っていたのに、できなかったことが、あっさり叶ってしまった。しかもこんな形で。
僕はできるだけ物事を肯定的に捉えてみようと試みた。
三ヶ月・・・月で数えたらあっという間さ。たった3つしかない。
でも、週にしたら12週だし、
日にしたら、90日。
時間にしたら、2,160時間。
分にしたら、129,600分。
そして秒にしたら・・・77,776,000秒。
なんて膨大な数字なんだろう。ちょっとやそっとじゃ想像できない。
こうして考えてみたら、僕はなんて恵まれているんだろう。
一秒一秒を大切にしたら、7千7百77万回以上もあるなんて。
なんて素敵なんだろう。できないって思いを打ち消すために、まだこんなに時間が残されていたなんて。
今度こそ、夜空の向こうの
今度こそ、素敵な星に生まれて
今度こそ、すごい美人の彼女を作って
そして今度こそ、彼女に微笑んでもらおう
僕が贈った花を 喜んでもらおう
最高に素敵って 言ってもらうために
あなたと出会えてよかったって 言ってもらうために
今度こそ、最高の人生にしよう
そうしたら、もう二度と、生まれ変わることもない
なぜって最高って、そういうことだから