「うーん・・・」
おおきく伸びをして、背中を反らせたら、いつもとちがう景色が見えてきました。
かたい殻の中で、ずっと閉じこもっていた頃にはわからなかった、光と、新鮮な空気を感じました。
「やあ、やっと会えたね」
「だれ?」
「だれって、君のなかまじゃないか。兄弟とも言えるかな」
そこには、自分よりももっと濃い色の、そして、もっとおおきく体を伸ばした、自分とよく似た、別の体がありました。
「ああ、君はだれなの?」
あいかわらずきょとんとしているなかまを見て、みんながはなしかけてきました。
「まだよくわかってないみたいだね。だから俺たちは兄弟さ」
「仕方がないじゃないか。さあ、周りをよく見てごらん」
深いみどり色のなかまたちがいました。そして、じぶんとはすこしずつ、ちがうところがあるのがわかってきました。みんなはもっと、おおきく体を伸ばして、そっくりかえっているのに、じぶんはまだ体がのばしきれなくて、なんとなく、不自由な感じがしました。
「どうしてみんなは、ぼくとちがうの?」
「さっき言っただろ、それはまだ、君がやっと、生まれたばかりだからさ。あと何日かしてごらん。俺たちみたいに、もっと堂々と、葉っぱを伸ばして、おひさまの光をいっぱい浴びられるんだ。すごくきもちがいいんだぞ」
生まれたばかりの新芽さんは、もっともっと、周りを見回してみました。すると、ひとつにつながっているのが、見えました。自分のからだとはまた別のからだがすぐそばにあって、おなじように、空に向かって、たくさんのなかまと共に、体をのばしているのです。
「ああ、ぼくらはつながっているんだね」
「そうさ、そして空気を吸ったり、吐いたりして、水をいっぱいのんで、日の光を浴びて、こうして新しいなかまが生まれたら、ようこそって、言うんだよ」
何日か過ぎて、新芽さんは、大きく成長していました。葉っぱは、うまれたばかりのきみどり色ではなくて、みんなとおなじような、深いみどり色になっていました。おおきく開いて、みんなとおなじようにそっくりかえっています。
毎日みんなと話をして、いろいろなことも教えてもらったから、もうすっかりおとなになった気分でした。
「あれ?」
ふと気がつくと、下の方に、葉っぱの先が黄色くなっている、なかまがいました。
しおれて、元気がなさそうです。
「おーい、どうしたんだい」
気になって、話しかけてみました。すると、黄色くなったなかまが、答えました。
「よう新入り、やっと気づいたのかい」
「気づくって何を?」
「もう寿命がきたのさ」
「寿命って、なに?」
新芽さんは、ふしぎそうに言いました。みんなにいろんなことを教えてもらったから、もう知らないことなんて何もないと、思っていたからです。
「ああ、お別れをするってことだよ」
「お別れ?お別れってなに?」
「もうみんなと会えなくなるってことだよ」
新芽さんは、意味がわからなくて、ちょっと、とまどってしまいました。
「どうして会えなくなるの?」
「うん、だって、君が生まれただろ。だからそろそろ、俺の番かなと思ったんだ」
新芽さんは、なんだかすこし、かなしいきもちになってきました。
ずっとはなしを聞いていた周りのなかまも、なにも答えてくれません。
「僕がうまれたから?僕がいけないの?」
年をとった葉っぱが、答えました。
「そうじゃないさ、ただ俺は、命をつないでいるんだ」
いのちをつなぐ・・・
「俺たちは、死ぬわけじゃないんだ。たましいは永遠だから。ただちょっと、体がくたびれたのさ。だからいまは、若い君にこの世を生きることをゆずって、しばらくの間、休憩しようとおもったんだ」
永遠、この世・・・
「でも会えなくなっちゃうんでしょ」
年老いた葉っぱが、答えました。
「だからそれは、かなしむことでもなんでもないんだ。しばらく会えなくなるだけだから。俺たちはそれを、ずっとくりかえしてきたんだ。おぼえていないだけで、君もそうやって命をつないできたんだ」
「僕も?」
「ああ、そうだよ。俺が死んだら、俺はこの大きな木から落ちて、あのふかふかの土に帰る。そうして、また生まれてくるんだ。君が生まれてきたときと同じように」
「そうなんだ」
「そうさ。そうしたら、またなかまに入れてくれるだろ。だから、ほんとうはお別れじゃないんだ」
「じゃあ、また会えるんだね」
「そうさ、そのとおりさ」
次の日、あの年老いた葉っぱは、枯れて、落ちていきました。
月日がながれていきました。あの年老いた葉っぱが土にかえっても、毎日がなにもなかったかのように過ぎていきます。またいちまい、葉っぱが落ちても、もういちまい、葉っぱが落ちても・・・
やがて、あの新芽さんも、すっかり年を取って、土にかえる日がやってきました。でも、すこしもさびしくないのです。これまでたくさんのなかまが生まれるのを、見てきました。
たくさんのなかまが落ちて、土にかえるのも見てきました。
でも、そのたびに思うのです。ああ、こうしてくりかえしてきたんだと。
これが命の営みなんだと。そして、じぶんもまたその一部なんだと。
みんなつながっているから、ひとりではなかったんだと。
たくさんの命があるのではなくて、みんなでひとつの命だったんだと。